第415話 下手なのも納得できるね。的なお話

お昼休憩を挟んだ後、訓練を再開する。

これからやるのは無手の訓練だ。

こっちの方はみんなあんまり経験がないので簡単な動きから習い始める。

俺のは漫画とかの見様見真似だし、リリンとかのもアーツによる補正が入ってるから真面目に聞いている。

基礎は大事って事だね。

ただし、アカネだけは別だった。

流石は元貴族なだけはあって基本的な事はもちろん、ある一定のレベルまでは習得している。

その事に気づいたアデラードさんはアカネも教える側に回した。

けどまあ、その際に実演する相手をしてるもんだから攻撃のうまい躱し方、良くない躱し方なんかを見せてくれる。

この辺ならば問題ないんだけど、技の返し方、つまりはカウンターの仕方や攻撃のタイミングなんかを見せてくれるようになると、アカネがどんな攻撃をしても全て対処され返され、隙を指摘されたりしてて、なんかもう、アカネの倒し方のレクチャーを受けてるみたいになったよ。

いいところも悪いところも全て丸裸にされてて、ほんと、不憫に思えてきたよ……


不憫なアカネには慰めの言葉をすこしかけてから訓練は実践に移る。

ここでも二人一組になって訓練をするけど、今回はみんなほとんど初心者という事で近くにいる人と組んでいる。

俺はリリンだった。

アデラードさんが言ってた事に加えて漫画やアニメで得た知識も活用していく。


推手だっけ?

敵の攻撃を肘から先を回し、コロの要領で受け流す奴。

偶にそれをやったりしてるとアデラードさんに怒られた。

まずは教えた事をキチンとやれって。

便利ではあるけどとも言われた。


なので、余計な事はしないで言われた事をひたすら繰り返す。

そうしていると少しだけ分かったことがある。

不慣れな人は攻撃する所を確認するという事を。

つまりはアカネに言われた事を。

リリンは普段ならそんな事はしないだろうけど、今回は無手な上に決められた動作を行なっている。

だからか次はどうするか、どこを狙うのかなんかを見てから行動している。

さっきの俺はこんな感じだったんだな。

そりゃ、丸わかりだわ。


ちょっとだけ分かったところで、無手の訓練は終了となった。

そして少し休憩を入れて次に行うのは魔法訓練。

アデラードさんが言うには魔力操作の訓練を真面目にやっていたなら、驚く事になるらしい。

何に驚くのだろう?

良くわかんないけど、とりあえず魔法を撃ってみる。

何が起こるのか分からないから初歩の初歩であるファイヤーボールを使う。


すると、どうだろうか。

発動するのに魔力を練って手に集め、魔力を変質させ、そして放出という工程なのだが、この集めるという工程がこれまで以上にはスムーズに行えている。

しかも、発動している魔法も普段と変わらないだけの魔力量のはずなのにサイズが少し大きい。

これは魔力操作能力が上がって集める時間が短縮して、無駄に消費していた魔力も使えているという事なんだろう。


「どう?」

「これまでよりもずっと楽ですね。」

「でしょ。でも、まだまだ甘いね。ファイヤーボールならこれくらいはできるようにならないと。」


そう言いながらアデラードさんは俺がさっき撃ったのよりも大きいファイヤーボールをズガガガガッって感じで連射していく。

その連射の間隔は俺がファイヤーボールを撃つのにかかった時間よりも短い。


「いや、魔法習得してから1年の俺にそこまでのことを求められても……」

「へ? 1年? それ、本当なの?」

「はい。前に住んでたところは使う機会がなかったので。」


使う機会どころか魔法自体無かったです。


「そうなんだ。それじゃ、下手なのも納得できるね。」


下手、ですか……

分かっちゃいたけど、実際に言われるとちょっとショックを受けるな。

魔力量と詠唱、重唱に任せた力技なのは分かってるけどさ。


「じゃ、みんなもやってみて。」


みんなもこれまでとの違いを実感しているようで驚いたような、でも成長を実感して喜んでいるような表情をしている。


「魔法はイメージ次第で、どんなことでもできるけど、だからって魔力操作が上手く出来ないと発動させるのに時間が掛かったりそもそも発動させたり出来ないから魔力操作の訓練は絶対に欠かさないでね。魔力操作の重要性はもう分かってるだろうしね。」


その後は魔法を放ち、どこを変えればより良くなるかなどを教えてもらいながら魔法の訓練を日が暮れるまで行なった。

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