第270話 馬車屋さんにて的なお話

「いらっしゃいませ〜。」


おや?

こういう店なら出迎えてくれるのはおっさんだと思ってたんだけど、女の人だったよ。


「どのような馬車をお求めで〜?」

「その前に一つ聞きたいんですけど、いいですか?」

「なんでしょう〜?」

「馬車の馬って、移動がない時は預かってもらえるんでしょうか?」

「そうですね〜、お金は貰いますけど、預かっていますよ。」

「そうですか。」

「それでどちらに出かける予定ですか〜? 冒険者さんの様ですしひょっとして迷宮都市ですか〜?」

「ええ、まあ。」

「騎乗する予定はありますか〜?」

「今の所は無いというか、そもそも乗った事も無いですね。」

「移動は速いほうがいいですか〜?」

「そう……ですね。出来るなら速い方がいいですね。」

「なるほど〜、何人で移動する予定ですか〜?」

「えーと、一応は7人の予定ですけど、もう少し増える事もあるかもしれませんね。」

「ふむふむ。となると〜あれくらいがいいかな〜。ちょっとこっちに来てください〜。」

「はい。」


語尾が伸びてて随分とのんびりした感じの人だな。

髪もゆるふわな感じで、見た目としゃべりの感じが合っているな。


「みなさんの要望だと、こんな感じの馬車になりますね〜。」


奥の工房の様なところに案内されて手描きの設計図のような物を見せられる。

それには完成図とパーツ毎に分かれた図があり、その馬車は10人が乗れるようになっている箱馬車で馬? を2頭使って引っ張っている。

というか、これは本当に馬なのか?

だって無駄にゴツイし。


「あの、ここに描いてあるのって本当に馬なんですか? 凄くゴツイんですけど。」

「それは〜グルーム種という馬で、体力が自慢の馬なんですよ〜。迷宮都市だと結構距離があるので長時間の移動に適した馬の方がいいんですよ〜。」

「なるほど。」

「ちなみにお値段は〜馬車が150万の〜馬が2頭で70万で〜合計が220万リムになります〜。」

「に、220万!?」

「はい〜、うちの馬車は木材にもこだわっていて〜丈夫で燃えにくいのを使ってるんですよ〜。それに各種の金具部分は外部発注なのでその分お値段が上がってるんですよ〜。」


220万が払えないわけではない。

エルカに行く前に修行がてら魔物を狩っていたし、この前のモンスターパレードの時もかなり稼げた。

これまでに稼いだ分もあるから馬車を買ったとしてもお金に困るという事はない。

無いんだけど、急にこんな高価な物を買うとなると身構えてしまう。

それに毎回夜には帰る予定だから馬車をその場に一旦置いていく事になる。

その時に野生の魔物や野生の盗賊が現れないともしれない。

そんなのに遭遇したら壊されたり盗まれたりするかもしれないわけで、そうなると220万を無駄にする事になる。

流石にそんな胆力は無い。

でも、一月半か〜。

そんなに歩き続けるのは精神的にキツイ。

どちらが良いのか……

歩きか高価な馬車か。

これは俺一人じゃ決められないな。


「流石にこれだけ高価だと、即決はちょっと無理そうです。相談とかもしたいのですみませんが今日はこれで帰らさせてもらいます。」

「そうですか〜。それではまた来ることを期待して待ってますね〜。」


期待されてしまった。

その期待に応えられるかは分からないが、先ずは相談からだな。

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