第98話 私を雇って!的なお話
夕食を摂って部屋に戻る。
この宿の凄いところは各部屋にお風呂が付いている事だ。
日本ならば普通かもしれないが、この世界では上下水道が充実しているなんてお世辞でも言えない。
カインの街だと水は井戸を使う。
だが、この宿は魔法道具で水を賄う。
水魔法を使うように、魔法道具で水が出てくるのだ。
しかし、魔法道具は基本的にどれも高い。
それが各部屋に付いているという事が、この宿が凄いという事を物語っている。
何が言いたいかというと日本人にとって風呂は必要不可欠。つまり風呂はジャスティス。
そう思いながら俺は風呂へと飛び込んだ。
いや〜。
堪能したな〜。
前に一度風呂付きの宿に泊まった事もあったけどあの時のよりも広くて、足も伸ばせる。
ただそれだけで大分違うもんだな〜。
うん。
家を借りるなりするなら確実に風呂は必要だな。
そんな事を考えながら僅かに開いた窓からの夜風に吹かれているとセフィアが風呂から出てきた。
髪はしっとりと濡れ、風呂の熱で頬が僅かに赤くなっておりそれがとても色っぽい。
それを見た俺の欲望がセフィアに襲いかかる……筈だった。
それを止めなのはドアをノックする音だった。
こんな時に無粋な真似を……なんて思わなくもないが、それでも一応ノックに応じてドアを開けるとそこには宿の従業員が立っており話を聞くとどうやら来客のようだ。
……それはそれとして、俺の後ろからひょっこり顔を出してるセフィアを見て変な目するなよ。
そんな意味を込めて睨むと、従業員はそそくさと立ち去っていった。
全く。
そう思いながら溜息を一度吐いた後、従業員が言っていた来客に会うためにフロントへと向かう。
◇
フロントへと行った俺達を待っていたのはなんと、昼間の赤髪の奴隷だった。
なんだろうと思っていると部屋に上がらせてもらえる?出来れば二人っきりで話しがしたいんだけど。なんて言われた。
え?なに?逢瀬のお誘い?
そんな事が一瞬頭をよぎるが直ぐに頭から追い出すと、部屋へと案内する。
もちろんセフィアも一緒だ。
余計な心配はかけたくない。
それでもというなら結界のやつを上手く使えば話を聞かせなくて済むだろう。
そうして部屋に上がらせて話をする。
やはりあまり聞かれたくないとの事なので結界で俺とこの子を覆う。
そして話を聞くが…
「あなた、異世界人でしょ。」
「は、え?なんでそれを?」
いきなりそんな事を言われた。
動揺して、咄嗟に出た言葉がこれだ。
「なんで?って言われても、そりゃ分かるわよ。その黒髪黒目で日本人顔な上に奴隷だった私に対して憐れみとか、同情の眼差しを向けてくるんだもの。こっちの人は奴隷はありふれたものだけど、日本ではあり得ないからね。」
「き、君は一体?」
「私はアカネ。日本では倉科茜って名前で、事故で死んだ後こっちの世界で産まれなおした転生者よ。」
「転生者…?」
「そっ。」
なんかこの街に来て既に二人目とか、意外と多いのかな?
まあ、そういう事ならこれ要らないかな?
そう思って徐ろに魔道具を回収するとセフィアに声を掛ける。
「おーい。この子転生者で日本出身だって。」
「ちょっ!」
「へー。つまりレントと同じ国なんだ。」
「あれ?」
「セフィアは結婚を確定した婚約者でな、既に俺が異世界人という事を知っている。」
「うん。(照れ)」
やっぱりセフィアはかわいい。
「それで、アカネさんはその事を聞きたくて来たの?」
「えっ?あ、うん。それもあるんだけど、それだけじゃなくて。その、私の事を雇ってくれないかな〜って思って。」
「雇う?」
「うん。ほら、私ってさ突然奴隷から解放されて基本無一文じゃない。一応この国では、解放された奴隷には主だった人から当面の生活費として5000リム支払われる事になってるんだけど、それも服とか宿とかで直ぐに無くなっちゃうんだよね。だから同じ日本出身のあなたに雇ってもらえないかな〜って。」
「流石に俺の一存では決められないし、それに今は冒険者の昇格試験中だから試験官の人に確認とか取らないとだし。だから。」
「そう、よね。ごめんね。急に押しかけて。私これで「だから!今日は此処に泊まって行って、明日もう一度話そう。」」
「へ?でも、此処かなり高いよ。それに婚約者の子と、その〜、するんでしょう?」
「構わん。良いよな、セフィア。」
「うん。」
「……ありがと。」
「んじゃ、フロントに言ってくる。」
その後はフロントに言って事情を話し、アカネさんの分のお金も払う。
一泊1万とめっちゃ高いがカッコつけた以上払わないわけには行かない。
これも同郷のよしみだ。
そうしてお金を払い部屋に戻る。
ベッドは元々二つ付いている。まあ、俺とセフィアは昨日も一つしか使わなかったが。
そんなわけで一つをアカネさんに使ってもらい、もう一つに俺とセフィアで使う。
今日は出来なかったが、しょうがないよね。そのまま何もせずに眠りに着いた。
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