第91話 追及
「あー電車が長いよぉ……。お兄ちゃん免許取ってぇ」
「そもそも来年にならないと年齢的に取れないし二輪は校則で禁止されてるからな? それに、来るときも電車だったろうが」
「うー……。そうだけどぉ! でも向かうときはお兄ちゃんに会いに行くやら学校見学やらで楽しみがあったけど、今はただ帰るだけじゃん?」
「俺は久しぶりの帰省だから楽しみだけどな? むしろ美咲と同じ状態に俺は来週なるわけだな」
そう。俺と美咲は今、電車に乗って実家へと向かっているところだった。
夏祭りが終わり、美咲の学校見学が終わり、お盆間近となったためこうして帰省することになったのだ。
高速バスと電車のどちらで行くか迷ったのだが、美咲がバスだと酔う可能性が高いと言っていたため電車で帰ることにした。
「あれ? 雅人先輩も出身は同じなんだよね?」
「同じ中学だったらしいな」
「じゃあなんで雅人先輩は帰らないの? ……もしかして……」
またアホなことを考えているとしか思えない表情をしているが、雅人は帰る必要が無いから帰らないだけだ。
「雅人の祖父母の家があるから帰る必要がないどころか、むしろ毎年こっちに来てたんだとよ」
「へぇ! 禁断の恋をしたとかってわけじゃなかったんだ!」
「あほか」
「いでっ! 叩かなくてもいいじゃん!」
予想通り変なことを考えていたからチョップをお見舞いしておいた。
雅人の母親がこっちの出身で、お盆とか年始はこっちで過ごしていたらしい。
だからこっちの高校に進学してきたと言っていた。
「お兄ちゃん! 暇だしババ抜きしよっ!」
「嫌だよ。二人じゃどっちがジョーカーもってるか丸わかりじゃねぇか」
二人でトランプゲームなんて何が楽しいんだという話だ。
トランプをやるならせめて三人はいないとつまらないだろう。もし二人でやるとしたら思いつくものはポーカーくらいだが、賭けるものもないしつまらないだけだ。
ついでに言うとポーカーはロイヤルストレートフラッシュと〇〇カードくらいしか知らない。
「えー! じゃあじじ抜き! それならジョーカーは分からないでしょ!」
「はぁ……。じゃあ一回だけな?」
「やったー! なんだかんだ言って結局最後には遊んでくれるお兄ちゃん大好き!」
そう言われるとかなりイラッと来たが、実際のところその通りだから寸でのところで飲み込んだ。
じじ抜きでぼこぼこにしてしまえばいいだろう。
「ったく、そもそもトランプなんていつの間に持ち込んだんだよ……」
「遠出するときの必須アイテムだよ? よく言うでしょ? 財布と化粧道具とトランプは持ち歩けって」
「いや言わねぇよ」
「まっ! 細かいことは良いからとりあえずしようよ!」
参加者が二人というだけあって、配られた段階で俺の手札は残り八枚まで減ってしまった。
ちらりと美咲の方を見ると、手札は九枚。つまり、じじは美咲が持っているということだろう。
つまり、美咲は俺から何を引いても揃う脳死プレイ、俺は美咲から引いたカードが揃わなかった時点でじじ持ちになるという危険なゲーム。
やってやろうじゃねぇか……。
「じゃあ俺から引くな——っと、よし。揃った」
「おー。じゃ、私も! っと、揃った!」
これは七枚中一枚がという七分の一ではなく、揃うか揃わないか、当たりかじじかの二択なのだ。
……とか言ってるけど本当につまらないな……。
「なぁ美咲、聞いてもいいか?」
「なーにー?」
「これ、楽しい?」
「楽しくないよ?」
正直、予想通りの返答だった。
だって、クソつまんねぇし、ただの作業だし。
じゃあなんでやるんだよと言いたくなったが、暇を極めた結果こうなったのだろう。
「ねぇお兄ちゃん、私も聞いていい?」
「なんだー?」
「花火の時、麗華さんと何の話をしてたの?」
バラっと音を立ててトランプが散らばった。
俺が手から落とした音だった。
「え、ええっと、何のことか分からないん……だけど……」
「じゃあ言い方変えるね。麗華さんに好きだって言われてなんて返したの?」
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