第87話 結構いいやつ

「--あー、もしかして静哉がモデルしてるってついにバレたのか?」


「……は?」


 え? 雅人に教えた覚えはないんだが……。


「いやぁ、ガバガバすぎるからいつかはばれるって思ってたけど思ってたより早かったな!」


「……ガバガバ?」


「だってお前隠す気あるのか? って位隙だらけじゃねぇか」


「……え? でも今までバレたことないんだが……まじ?」


「いやぁ、決定的だったのは俺が悪いな」


「……白木くんは何で気がついたの? 麗華は声とかバッグとかで気がついたらしいけど」


 一ノ瀬さんがそう聞くと雅人は頭を掻きながら答えた。


「前に静哉の家で生姜焼き食った時にさ、静哉のスマホに石津涼風って人とマネージャーって人からメッセージ来たの見ちゃったんだよ。石津涼風って名前がなんか見たことあるなぁって思ったら……ってわけ」


「……にしては何も言わなかったんだな……」


「隠したがってたじゃん? だからまぁ教えてくれるまで待っておこうかなと」


「……なんだこいつ……良いやつかよ……」


 雅人の対応がイケメン過ぎる。正直なところもっとちゃらちゃらしているやつだと思っていた。それが表情に出ていたのか、雅人がからかうような表情で言う。


「お? 知らなかったのか?」


「まぁ、正直なところ知った秘密は一瞬で広げるタイプかと思ってたな」


「まじか……!」


「私も白木くんは何かを秘密にできないタイプだと思ってたよ! 意外としっかりしてるんだね!」


「一ノ瀬さんもかよ!」


「「あはははははっ!」」


 雅人は初対面の美咲にいじられるくらいとてもいじりやすい雰囲気を醸し出している。自分もそれを理解しているのか、ノリツッコミだったりそういうキャラを確立している。


 俺としても気軽に冗談を言える人だから是非このキャラを続けて欲しいと思った。まぁ、このキャラだからこそ口が軽いと思っていたわけなのだが。


「お兄ちゃんただいま! 無事合流できたね!」


「うわっ、びっくりした……美咲か」


 いきなり誰かに肩に手を置かれたと思ったら、耳元から美咲の声が聞こえてきた。場所を教えておいたおかげで合流できたらしい。


 江橋さんもいるのかと確認するために振り向く。


「二人で戻ってきたの……か……?」


「どうしたのお兄ちゃん?」


「いや、すごく満喫してるなって思ってな……」


 後ろを振り向いたら、美咲は側頭部に祭りで売っている定番の仮面をつけており、手には射的か何かで手に入れたであろう景品が詰められた袋を提げていた。


 江橋さんの手には焼き鳥などが沢山詰められた袋が握られていた。美咲とは持っているものの種類が真逆だった。


 江橋さんは俺に対して若干苦笑いを浮かべながら軽い会釈をする。もしかしたら美咲がそれらを持たせたのかと考えたが、多分それは違うだろう。


 俺には容赦なく荷物持ちをさせる美咲だが、俺以外にはそんなことをしないということを知っている。美咲は、逆に率先して自分から持つような性格だ。


「いきなり抜けてしまったお詫びとして、焼き鳥などをたくさん買ってきました。皆さんで食べましょう」


「おお! 良いね、麗華! 私も焼きそばとかいっぱい買ってあるからみんなで食べよう!」


「それが良いな! あ、静哉妹よ。はい、綿あめだぞ」


 そう言って雅人がサッと綿あめを後ろにあった袋の中から取り出す。その綿あめは袋に入れられており、確か一個500円位するはずだ。


 いつの間に買ったのかは分からないが、十中八九唐揚げを買った時だろう。


 それを見て美咲のテンションが一気に上昇する。


「おおお! 本当に買ってくれたんですか!?」


「おうよ! 俺は約束を破らないってことに定評があるからな!」


「た、食べちゃいますよ!? 返しませんからね!?」


「良いぞ良いぞ。俺は残念ながらペタペタになる綿あめは食べないからな。むしろ貰ってくれなきゃ困る」


「ありがとうございます! ……特別に雅人さんも名前で呼ぶことを許可しましょう」


 それを聞いて気がついたが、雅人は名前を呼ぶなと言われていたものまで律義に守っていたようだ。


 雅人はもしかしたら俺以上に約束を大切にするタイプの人間なのかもしれない。


「よし! こっちも食べよう! 焼きそばは一個ずつ配るね!」


「そうですね。せっかくですし、焼き鳥も温かいうちに食べてしまいましょう。……どうぞ、日裏くん」


「お? 江橋さんありがとう」


 俺は江橋さんから出された焼き鳥を|手(・)|で(・)|受(・)|け(・)|取(・)|ら(・)|ず(・)|に(・)|そ(・)|の(・)|ま(・)|ま(・)|食(・)|べ(・)|た(・)。


 今考えてみればこれはただ棒を手渡しするために焼き鳥を向けられていただけだったのだろう。だが、その時の俺はなぜか自然にそのまま食べた。


「え? えっ? ええっ!?」


「わ、悪い! そのまま食べろって意味で差し出したのかと勘違いした!」


「そそ、そうですよね! び、びっくりしました……」


 俺は江橋さんからひったくるようなスピードで焼き鳥の棒を奪い取る。


「お兄ちゃん……」


「日裏くん……」


「静哉……」


 全員がジト目で見てくるが、これは俺が悪い。甘んじて受け入れよう。なぜそんな行動をとってしまったのは分からないが、今のは俺が百パーセント悪い。


「じゃ、じゃあ! 私も唐揚げ貰いますね!」


「そ、それが良いと思う! なんならケバブも食うか!? 激辛だけど!」


「激辛だったら要らないです!」


「わ、分かった! じゃあもう一本くーー」


「--あれ? もしかして静哉?」

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