第58話 脇役高校生はテストを終える

「よう静哉。今回のテストはどうだった? あ、ちなみに俺は現状維持って感じ?」


「現状って……それはそれでどうなのか。俺は前回よりは下がったけれど、その前よりは上がった感じだな」


「おっ! それは良い……のか?」


「いや、良いに決まってるだろ。全部80点を越えてるんだから、評定的にはもう最高だな」


 テストの合計点や順位も気になるが、成績で結局大事になってくるものは評定だろう。1から5までの評定が付けられていて、最終的に高校三年間の平均が出る。


 大学を受験するにも規定以上じゃないと受けられない推薦などもあるし、評定は高いに越したことは無い。


 うちの学校では、授業中の態度や提出物によって変わる平常点が二割、テストの点数が八割で成績が決まっており、80点以上であれば5が付けられることになっている。


 つまり、筆記テストのない体育などの教科以外は5を貰える可能性が高いのだ。大学の学校推薦は評定順に選ぶことができるため、高すぎても損はない。


 ちなみに、停学になったり問題を起こしたりしてしまうとどんなに評定が高くても推薦を貰えなくなる。


「実は今回俺……」


「お、おう……?」


「赤点がないんだよ!」


「おお! それは良かったな!」


「そうなんだよ! もし赤点があったら夏休み中に補習に来ないといけなくなるからな……」


「お前……そのために頑張ったのか……」


 中間テストで赤点を取ると、基本的にその後の放課後に補習が行われるのだが、期末テストで赤点を取ると長期休暇中に補習が行われることになる。


 補習は基本的にその担当の先生の都合に合わせて行われるため、もし赤点が二つだとしても二教科とも同じ日に行われるとは限らないうえに、補習は一回だけじゃない。


 つまり、学校に行かなくてもいい期間にたった一時間授業を受けるためだけに行かなければならなくなるのだ。


 だから雅人は今回だけ頑張ったのだろう。


「やあやあ、白木くんと日裏くんは今回の成績はどうだったの?」


 そこに、江橋さんと一ノ瀬さんがやってきた。もう既にこの光景は見慣れたものとなってしまったみたいで、江橋さんがこちらに来ても注目を集めることは無くなった。


 ついでに言うと、俺の存在はすでにモブではなく江橋さんを主人公とした物語の脇役的なレベルまで上がってしまった。


 親衛隊が出てくることも体育館倉庫の裏に連れていかれることも無いから、この学校にいる人たちに過激派はいないようだ。


 というか、俺はクラスメイト達をよく見ていなかったのかもしれない。


「お、一ノ瀬さんと江橋さんじゃん。俺は赤点なし! ま、目標は達成ってとこだな!」


「こいつの目標は低いったらありゃしない。俺は前回よりは下がったけどいつもよりは高いって感じか? 江橋さんたちはどうだった?」


「私は麗華に質問しまくったから前回くらいを維持! 順位を上げて新しいスマホを買ってもらったから下がったらさすがに怒られちゃうからね!」


「なるほど。最悪スマホのせいで下がったってことで取られるかもな。江橋さんはどうだった?」


「私は今回は……」


「何故だっ!?」


 その時、教室内に悲痛な声が響いた。前回もこんな声を聞いた気がするが、今の声を出したのは三須無だった。


 ちなみに、三須無は前回江橋さんに一位を取られるまで常に一位だったらしい。つまり、今の声が聞こえたということは……。


「……一位おめでとう」


「あ、ありがとうございます」


「な、なんか素直に喜べないね」


「あいつ先生にめちゃくちゃ質問するし、なんかかわいそうになってきたよ……」


 噂ではテスト前にほとんど寝ずに勉強してたって聞いたし、それで取り戻せなかったのはなんだかかわいそう……というか、もしかして睡眠時間が短くてケアレスミスが目立ったんじゃないか……?


 あれ、そう考えたら三須無は悪循環に陥っているんじゃないか……?まぁいいか。


「ということで、全員無事に夏休みが迎えられるってことだね!」


「そうですね。来年は受験に向けた講習があるので、遊ぶなら今年という感じですか?」


「そうだな。前半はほとんど講習が入って、後半は任意の参加じゃないっけ?」


「俺は全部参加しないと大学に行けないかもしれない……」


「私も一年生の頃の勉強はまずいかも……」


 俺も一年生の頃の範囲は覚えていないところがあると思う。だから、講習は受けることになると思っているから、遊ぶことができる夏休みはもしかしたら今回で終わりなのかもしれない。


 去年の俺だったらそもそも遊ぶなんて考えずに、家で読書でもしていたと思うから随分変わったものだと自分でも思っている。


「まぁ、来年のことは置いておいて今年の夏休みのことについて話そうよ!」


「そうですね。せっかくなのでお祭りとかに行きたいです」


「いいねぇ! 俺浴衣とかみたいな!」


「浴衣って着るの大変なんだよね! 走りづらいし」


「いや、浴衣で走るなよ」


 思わず突っ込むと一ノ瀬さんのツボに入ったみたいで笑い始めた。


「あの、日裏くんも浴衣は見たいものなんですか?」


「ん? 俺か? そうだなぁ……。やっぱり浴衣は綺麗だから似合いそうだな……」


「そ、そそそうですか……」


 なんだか答えた瞬間江橋さんが挙動不審になってしまった。


「静哉」


「なんだ?」


「江橋さんの質問はお前が浴衣というものに魅力を感じるかどうかで、江橋さんが着た時に似合うと思うかどうかじゃないんだぞ」


 今俺浴衣は綺麗だから似合いそうって……。


「ごごごめん! そんなつもりじゃなくただ想像してみたら似合うなって思って!」


「は、はい! そそそうですか! さ、参考にさせていただきたいと思われます!」


「麗華、日本語じゃなくなってるから一回落ち着こうか」


「静哉、お前もう喋るな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る