第60話

「ここは私が紹介致しましょう。こちらは」

 辺境公はそう言ってA国の王女に帝国の女帝を紹介し、帝国の女帝にA国の王女を紹介した。

「お初にお目にかかります。妃殿下」

 女帝はそう切り出して挨拶。

「本日は、よろしくお願いいたします」

 老婆と若い女性。貴族らしくない服装だからか、品のいいおばあちゃんとその可愛い孫のようにも見える。

「では、早速」

 そう言って会議の場所、といっても仮設テントに毛が生えた掘立小屋、に動こうとする女帝に対し

「その前に一つ。この場所を借りるのですから、代表として公のご先祖様に皆でご挨拶をさせていただきたいと思います」

王女はそう返す。


 辺境公も意外なところを突かれた。田舎貴族の遠い先祖など誰も気にしないものだ。当然女帝や王女様に従っていた隊長も同じ。そんなの予定に入っていない

「よろしいですか」

「いえ、先祖も喜びましょう」

 そういって許可を出す。

「ならば、私も共に参りましょうか。礼儀を損なうわけにはいきません」

 女帝はそう言って後ろの役人たちに目配せ。寄せ集めの集団だが皆それなりに偉く、それなりに有能。


「畏まりました。我々は先に用意をしておきます」


 代表二人と護衛だけでにして、A国と帝国の役人たちは掘立小屋の下へ。

 帝国側の人間がテーブルや机を拭いている。このテーブルなどを作ったのはA国の兵隊だ。

 帝国側と共同で捜索訓練を行った際、目標を見つけるのが遅かった方の罰ゲームで作ることになってA国側が負けたのだ。

 恐らくここを一番使っているのは、この土地を見回る際の休憩所にしている軍人たち。辺境公はそれを問題にしていない。

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