第58話
二国間の領有問題があるこの土地において、一番価値があるものは辺境公の霊廟だ。
ほかにあるのはモンスターも近寄らない水が流れるダンジョンと、生き物を腐らせず緑色に変色させる気色悪い苔、そして切り出すこともできない放置された森だけ。
この土地を初めてみた帝国の一人役人が
「こんな土地のために戦争するのは国家の恥にしかならない」
と言ったが、A国の役人も同じような感想を持った。そういう土地。
そしてその霊廟も何かスゴい建物というわけではない。
切り出した石を積み上げて作った古典的な建物だが、装飾があるわけなければ霊廟として大きいものでもない。
中は素朴な作りながら貴族らしく頑丈な棺桶がいくつも並んでいるが、その棺桶の中に死体があるわけでもない。
あるのは遠い祖先の骨が入った壺だけ。この土地の領有が問題になるより前に「国境沿いでは何かと不便だから」と帝国側に新しく霊廟が建てられているので辺境公の知ってる家族はみんなそこに葬られている。
だから今は一年に一度、辺境公の一族とその召使い達がややこしく面倒な法的手続きを経たうえでやってきて、建物の修繕やら祖先の霊の祭祀をしているだけだ。
今回二国間で行われる会合の場所は、その霊廟の隣にある掘立小屋である。
掘立小屋というのも差支えがある。床こそ煉瓦が敷いてあるが、仮設の柱とそこに張られた布の屋根があるだけで壁はない。
そこに先に到着していた帝国側の役人が立ったままいろいろと雑談している。
「もう少しいい場所はなかったのかね?」
騎士団の偉い人が自分の部下に当たる隊長に、ついそういった。
「そういわれましても、この土地で屋根があり人が集まれる場所はここだけですので、この土地で話そうと思うのであれば他に選択肢はありません」
「このような物しか建てられぬのです。お上の許可を取るにもどちらの言い分を聞けばいいかわかりませんからな」
その隣にいた辺境公にそう遠回しな嫌味を言われ、騎士団の偉い人は平謝りをする。
そもそもこの小屋は辺境公が
「祭祀の際にみんなで休める場所が欲しい」
と考え作ったものだ。
修繕と祭祀といっても本格的なことをやるわけではないので一日立たないうちに終わるが、それでも雨がしのげて休める場所があれば便利という考え。
しかし新しく建物するとなると許可がいる、両国ともそれは出せないと言われた。
ただ
「基礎を作らない仮設のテントみたいな物であれば許可はいらない」
「すでにある墓の周りをちょっと整備するくらいなら許可はいらない」
という抜け道を教えてもらい、煉瓦を敷いて作った床に仮設の柱と布の屋根という形になった。
「これを作ったのももう何年も前の話だ。君が来る前だな」
辺境公は感慨深く隣の団長に言った。これを作る前からここはどちらつかずの土地だったんだ。
団長は何か答えようかと思ったが、一団から離れた場所に居た冒険者達がA国の到着を告げたので、辺境公と共に代表団に整列を促す。
A国の代表団も馬車から順におり、最後に降りてきたのが辺境公や冒険者は顔を知っている隊長。
「あの方はA国側の国境警備の現場責任者です」
女帝の後ろに控えていたマリーはそう女帝に伝える。
そして隊長の手を借りて降りてきた若い女性。
A国の代表団もぞろぞろと整列し、代表らしい女性が前に立つ。その後ろに隊長
帝国側も同じように整列し、女帝が前に。その後ろには4人の冒険者。
辺境公の屋敷の倉庫に転がっていた軽装の胸当てを身に着け各々武装している。
顔を隠して鉄兜と大剣を装備する男。いかにも使い手という感じとはA国側の役人の一人が思ったこと。
その隣に弓と剣を持つ軍人か傭兵上がりといった風情がある男。貴族の従者にたまにいるタイプ。
女帝の後ろにいる女。軍でも研究中の長銃を背中に背負っている。腰には短銃。A国代表の女性は「帝国にはこんな勇ましい女性がいるのですか」と後から言った。
そして、白衣の男。
「そりゃ医者の恰好だろう?」
「魔法・・・ではない・・・」
とドーリーと鉄兜に突っ込まれたが
「攻撃魔法ができない魔法使いなんて医者と大差ありませんよ」
とVは笑ってごまかした。
そしてその後ろからついてきた辺境公、隊長。
これから二国間の会合が始まる。
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