第57話
会議当日 帝国領国境沿いのA国出張所
「そろいましたか」
「はっ。これより出発いたします」
首都から貴族が来る、それも皇帝の委任状をもって。
そうなるとこちらもそれなりの格式をもって対応する必要がある。
A家当主を出すか。いや、相手は委任状を持った一貴族だ。それだとかしこまってるように見える。
しかし相手は大物だぞ。どこから聞いた。新聞に書いてあった。
ならばこちらはだれを出せばよいか。格式があるが、トップというほど偉くない人。
首都の議会でそんな話し合いが行われた結果、選ばれたのが目の前の女性。成人はしていないくらい。A家当主の歳が離れた妹であり、皇女だか王女だかと称するのが正しい。
A国の中流階級が好んできるような素朴な恰好をしている。
「確認しておきますが、私は実務上の話し合いには参加しません。よろしいですね」
「その通りでございます」
国境沿いで暮らしていたせいか敬語がなってない、とは隊長の心の中の反省点。
「えぇ、ですが帝国側との顔見せもございますので、ご挨拶くらいは」
「わかりました。しかし相手方の顔はよく存じ上げませんので、紹介の方よろしくお願いいたします」
そう言ってぺこりと頭を下げる
「いえいえ、その、あたまをお上げください。馬車がでますので」
隊長も自分より偉く年下の女性に頭を上げられると反応に困る。
A国にとって意外と困った問題が「帝国との会合をどこで開くか」ということである。
通常であれば第三国に頼むべきだか、帝国のスピードが思いのほか早かった。
そして帝国から流れてきた情報が新聞に大々的に書かれる。それを読む庶民たちの不安と期待。
帝国がなにをいうか。我々の領土なり。
しかし帝国の機嫌を損ねていいものか。
しかししかししかししかしならばならばならばどうだどうだどうだ
庶民の声は政治家の未来でもある。下手なことをしたら庶民の声に刺されて死ぬのだ。
だから国民が満足するスピード感ある解決が欲しい。できれば第三国の介入は避けたかった。
また帝国とA国の貴族を兼ね、この国の有名人である辺境公が老若男女、階級性別、私的な場所、新聞など公な場所、気にせず思いつく限りの知り合いに
「帝国の貴族でもある私がA国に妥協せよなんて言わないし議論に参加する気もない。ただとりあえず戦争は止めて話し合いで決着をつけよう。あそこは私の一族の土地だが人が死ぬほど価値がある土地じゃない。というか私の土地で戦争なんかしてほしくない。そのためなら帝国での地位が脅かされようがA国のために協力を惜しまない」
と話してまわる、この意見には庶民から、議会、軍部、A国当主までみんな納得したし賛同を得た。
となればもともと過激派だった連中もおとなしくなり協力し始める。挙国一致だ。
そんな動きの中で注目されたのが
「最前線で戦う一人の隊長」
つまり国境警備という職をやりながら帝国とあれこれ話し合いをし、場合によっては共同で人探しなんかもやるという友好的な関係を築いてきた現地の事情通。
そして初期の段階で帝国の騎士団長と殴り合いのけんかをしたとかいう気概があり、辺境公と共に国境から戻ってきた男。
彼ならなにかアイディアがあるだろう。
「通例でしたら、あの土地についての話し合いはあそこにある辺境公様の霊廟が会合場所となります」
「私としても何も問題ないので、ぜひとも使って頂きたい。両国のためとなればあの土地に眠る先祖達も喜びましょう」
というわけで決定。A国にもすぐ伝えられ、特に問題なしということで話は決まった。
「揺れますね」
王女か皇女か、王女でいいか、は同じ馬車にのる隊長にそう話しかけた。
事情通だが代表や話し合いに参加させるほど偉くない。
実権はないし渡す気もないが話し合いにはついてきてほしいという人材をどこに回すか。
そこで代表となるA家王女の従者兼護衛。A家の護衛として出すなら軍としても名誉となる。
そういうわけで同じ馬車にのっているわけ。
「確かにそうですね。なかなか整備もできませんので」
馬車が通る道はあるがあれている。馬は器用によけて通るが、馬車だと尻に直接衝撃が来る。
隊長としても好き好んで通りたい道ではない。
「あなた方が整備しているのですか?」
「帝国側と私の部隊で持ち回りでやっております。ここ土地ではありとあらゆる事がそうですね。民間人は基本入れません」
「なぜですか?」
「いろいろとややこしい土地だからです」
ややこしい土地というのは王女さまもわかっているか、と思い追加で説明を加える。
「例えば、首都で道を整備しようと思ったら役場の連、人間が予算計上し業者を雇いやらせますよね。そして当たり前ですが外国の土地であれば頼まれもしないかぎりそんなことしません。権利がない」
「そうですね」
役場の人間、という言い方に王女は何かを察するが聞き流す。
「しかしあの土地はどちらの主権が及ぶか確定してない土地ですから。我が国の予算だけで単独でやるのも、我が国の人間だけでやるのも差支えがあります。我々の主権が届く土地だと主張するわけですから」
国家の姿勢として主権を主張するのであればそれでもいいが、両国の首都の民が存在を忘れ放置している土地。現地の連中だけで勝手な行動をしてトラブルを起こすわけにはいかない。
「ですから何をやるにもまず帝国の騎士団、帝国では彼らが管轄しているんです、と話をつけることから始まります。そんな土地に民間人もつれて行くというのは、できないことではありませんし実際冒険者を雇ったわけですが、何かとややこしいので普段の作業については帝国の騎士団と我が国の軍人がやっております。役場の人間も一応関わりますが、我々は工兵を抱えていますから」
「工兵というのは砦なんかを作る方々でしたか?」
「まぁそんな所です。陣地作りや道づくり、逆に最前線で敵の陣地を破壊したりする」
A国の軍事制度はかなり進んでいるといっていいし、それは十分自慢できることだ。
小規模だが様々な兵科がそろっている。兵士だけではなく、医療、工兵、魔法使い、兵器研究諸々。
しかし
「冒険者なんか抱えてはないんだよなぁ」
そう一言つぶやく。ダンジョン攻略など仕事に入ってないのだから当然だ。
「なにか?」
「いえ、この土地も領有がはっきりしたのであればもっと整備され、辺境公もお喜びになるかと思いましてね」
お姫様に話してもしかたない、ということでそんなことを返し、辺境公にもしっかりとご挨拶をしたいですね、どんな方ですか、といった話になった。
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