第53話
騎士団の基地では代表団の役人たちが団員たちから説明を受けていた。
団長の指導の下、繰り返し繰り返し練習をして不足がない、むしろ余分な部分まで説明する団員達。
お役人は満足している。彼らはそういう説明が好きな生き物。
団長はその辺心得ている、というよりも彼の性格としてそういう説明のほうが好きであるというだけ。
「事情は把握できました」
代表団の役人は騎士団の副団長にそういった。
「いったん休憩にしましょう。その後具体的なことについて話し合うということで」
もったいぶった言い方をする、うちの団長は無駄に細かいがこういう話し方をしないだけまだましだ、とは幹部の考え。
「かしこまりました。うちの団長もその頃には戻ってくるかと思います」
そう言って一時解散。こちらにはこちらで用意がある。
その団長一行も時期に戻る。
「辺境公様のご到着です」
先頭を走る馬車から真っ先に降りてきた馬車を検めて、衛兵が基地内部に叫ぶ。
この騎士団の慣例のようなもの。
「君、赤ん坊は元気にしてるかね」
「へぇ。むしろやかましいくらいで。まぁ元気があるってのはありがてぇことです」
「そうかそうか、それはいいことだ。子供が一番可愛いのは今のうちだよ」
いわれた衛兵は嬉しそうに笑い礼を述べ、次の馬車を検める。
「ご友人ですか」
「そういうわけではありませんが、見かければ話位はしますよ」
そう言って辺境公は笑う。
帝国が拡大し近代化していく中で消えていっている敬愛と信頼、そして土地の貸借で成り立つ古き良き領民と貴族の関係。
それがこの土地には残っているのか、とは女帝。
彼女は新しい貴族、領土を持たず、政治と権威と商業の中で生きる貴族の代表例だ。
「遅くなり申し訳ございません」
首都の一団の会合の冒頭で簡単に謝った女帝は、早速話を続ける。
現地の貴族をアドバイザーとして迎えること、本人の要望で団長を秘書役としてつけること。
事情はすでにわかっている。馬車の中で辺境公によるレクチャーと当事者の一角である冒険者によりレクチャーをうけた。
ただ参加者はそういったことは知らない。その結果として「騎士団によるレクチャーも受けてないのに事情を完璧に理解しているすごい老婆」という話になる。
「えぇ、帝国の考えとしてはこうです」
一団の中でも偉い人の言葉に合わせて官僚の一人が書記役として魔法を唱え、空中に文字を書く。
官僚や役人、教師や学者が発表する際によく使う魔法だ。黒板などを用意しなくてもいい利点がある。
「A公国側と争いは起こしたくない。されど領土問題、主権問題については一切妥協するつもりはない。また今回発生した殺人事件については帝国領土内での事件とする」
それを聞いていた辺境公と隣に控えていた団長は目配せをする。
概ね考えていた通りだ。しかしどちらかが妥協するか、問題を棚上げするしか平和的解決の道はないだろう。
「そもそもなぜこのような事態が起こる。責任問題だぞ」
「今ままでなぜ問題が起こらなかったんだ」
「公国側の対応を見てから方針を」
「公国も妥協はしないだろう」
しかし話は本決まりというわけではない。
ありがたいことに異論がでている。
「長くなりそうだな」
辺境公はそうつぶやき、女帝の話を聞く。
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