第50話


 2台の馬車は辺境公の屋敷に向かって走る。

 後ろには騎士団長と従者、そして首都から来た記者が乗る馬車。

 先に走る馬車の中に居るのは冒険者二人と依頼主である大貴族の老婆。

 情報流失を防ぐのであれば、個室となる馬車の中で話すのがいいだろうと考えての行動。


「時間がありません」

 いきなり現れた二人に対しても特に驚かず、女帝はそう切り出した。

「事情を話しなさい。できる限り、あなた方が把握していることをすべてです。それからあなたたちの要望や話を聞きましょう」

 文句を言わせない口調。それに従ってしまう雰囲気。辺境公とは違う貴族らしさとはVの感想。

「かしこまりました」

 マリーはそう答え、今までの流れをすべて、手短に解説する。

 言ってしまえば短い話。


・あなたのお孫さんを含めた冒険者一行はA国と帝国の間で領有が確定していない土地の資産価値を確認するために、その土地にあるダンジョンに向かった。

・そこで滞在中、何かしらの問題が発生して仲間割れをし、パーティーの魔法使い1名がお孫さんを殺害。混乱した一行はそのままA国側に逃げた。

・A国側の病院に入院していたところその魔法使いは自殺をした。残りのパーティーがその旨の自白をし発覚した

・A国、帝国双方の現場責任者による独自協定で「双方が戦争や争いにならない形で決着がつく」ように動いているが、あくまで現場の話です。

・その一環として被害者である氏の遺体、残された物品などは帝国側が確保した。

・現場責任者2名の発案でコネがある辺境公がA国側に働きかけをし禍根を残さない決着を目指して動いている

・我々は事件発覚以前から帝国側の騎士団と協力しており、遺体の第一発見者となった。それ以降はこれから向かう辺境公の屋敷に居候という形でこちらに滞在し新規の指示を待っていた


 こういった話だ。


「それとですね、これはお手紙で伝えたのですが、こちらでの協力の一環として依頼主の名前をどうしても言わなくてはならないことになりまして、これから向かう辺境公様にのみですが、名前のほうを漏らしてしまいました。この点、ご了承いただきたいのですが」

「そうですか」

 マリーのどれだけ下手にでるか、怒られないといいな、というのを感じさせる婉曲な説明にも女帝は一言そう答えるだけ。

 彼女を信頼して任せたのだ。今となってはその程度じゃ怒りはしない。

「事情はわかりました。いままでご苦労様です」

 むしろそういって感謝の意を示す。

「仕事をしているだけですから。それより実利的な話をしたいのですが、我々は今後どうすべきでしょうか?」

 Vはその言葉を軽く流してそう答えた。

 実利、金と仕事の話だ。


「正直、我々冒険者一行がでる場面はもうないかと思います。国家対国家。政治の話ですから、せいぜい騎士団かA国側の司法機関に発見の状況を報告する程度になるでしょう。また遺体の引き受けを考えると匿名での引き取りも難しいかとおもいます。すでに注目の的ですし。ですから我々ができることといえば、この長い政治的問題が片付き次第、遺体や遺品を引き取り首都に輸送する程度になるかと思います。しかしこれも我々がやらなくても騎士団あたりに依頼したらやってくれるのではないかと思います。つまりなにが言いたいかといえば、我々の出番はこれ以上これ以上ありません」


 Vは機嫌を損ねないよう言葉を選びながら話す。

 なぜ彼がここにいるかといえば、人当たりがよさそうだからと馬車の運転もできないから。冒険者一行の立場を説明する役目だ。

 あとマリーに一人では嫌だとごねられたからというのもある。


「ですから今後、我々をどう扱うかという指示をして頂きたいです。ここで切り上げて終了、ということであれば首都に帰りますし、引き続き待機して何かしらしてほしいということであれば頂いた、頂ける予定の報酬分は働きましょう」

 まだ貰ってないな、と思っていいかえるV。これはマリーへの圧力。

「そうですね」

 Vの言葉に女帝はすこし考えるそぶりをみせる。


 といっても腹は決まっている。


「ではまず、マリーさん。ここで依頼を終了としましょう。当初の予定分の報酬を彼らに支払ってください」

「かしこまりました」

 急に支払いを命令されてもこまるが、マリーもトラブルがあり現地で解散ということは事件発覚前から視野に入れているので用意はある。

「みんなでかえることになるでしょうし、首都で支払う方法もありますけど。ここで支払うほうがいいなら、ちょっと時間をください。お金を用意します」

「どういう方法がいいかは外の二人とも相談しま」

「そして」

 二人が細かな相談をしようとしているのを女帝が遮る。

 劇的な立ち振る舞い。相手の虚を突き、こちらの要望を押し通す。

 そういう手腕があるから女一人、貴族業界で食ってきた。

「そして新しく依頼をしたいです」

 そう言って二人に微笑んだ。


 使うかどうかは別として、使える兵隊は多いほうがいい。


 これが女帝の腹の中。

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