第30話

「あれがダンジョンですね」

 Vが指さした先にあるのは石でできた遺跡のような建物。

 ダンジョンの前には「ダンジョン・危険・許可なく立ち入り禁止」の立て札。

「どうしますか?」

「日は高いが、昼くらいか。中でテント張るか?」

「外・・・いい」

「えぇ、何がでるかわかりませんから、外で安全を確保してそこにキャンプを張る場所を確保しましょう。それから探索でどうですか」

 特に反論なし。


 なので周辺の探索を行う。

 周りは森、その中に遺跡がポツンとある格好。

「トラップらしきものはない」

「さっきのサルの足跡はありますね。あと鹿なのかモンスターなのかよくわからないやつの足跡がたくさん。この辺を住処にしてるんでしょう。ダンジョンも心してかからないと」

「妙な苔がありますね。昨日の話のやつでしょうか。火を焚けばモンスター除けになるでしょうし、入り口の前でどうですか。石造りだから少しくらいの風でも森の方には広がらないでしょう」

 マリーの意見に全員賛同、というわけでその周辺にテントなど探索にいらない道具を置く。

「サル・・・荒らさない?」

「どうだろ?まぁ食い物は置いとかない方がいいだろうな」

 鉄兜の疑問とドーリーの答え。


 隊列としてはドーリーと鉄兜が先頭。

 マリー、Vが後衛。

 全員Vが魔法で頭の方を光らせている木の枝を持つ形。


 前列二人は剣、鉄兜は鎧がずれないように再チェック。ドーリーはそれの手伝い。

「いいわね。これ。面白い使い方」

 魔法を使えるマリーはVが作っている松明替わりの枝を見て、拳銃の筒に小さな杖で玉を込めながらそんなコメントをした。

「あなたのそれ、銃ですか?」

 VはVで先ほどからマリーが使っている銃を見てそんな問いかけ。


 貴族などはバネを使ったからくりで火打石をぶつけ発火させる銃を持っているがこれはかなり高価で庶民には手が出せない。

 なんでも火打石を使った安価な最新型の銃も騎士団や軍で開発されているらしい、とは聞いたことがあるが、実物があるかまではしらない。


 庶民や冒険者が持つ「銃」とは何らかの仕掛けと火が付いた導火線を使い、筒に込めた火薬を発火させるものだ。

 Vは仕組みをよく知らないが、基本は爆弾の導火線に火をつけるのと同じ。それで火薬を爆発させて、その勢いで鹿の糞のような玉を筒の中から打ち出す。


 冒険者業界でも銃を使う人間はいるが少数派。火薬代がかかるし玉の再利用はできない。弓と矢なら拾えば再利用化。

 それに冒険者は少数で動くことが多い。

金がかかって装填に時間がかかる銃よりも、弓と矢を使う方が向いているというわけ。


 あとそもそも銃本体も高い。


 騎士団などでは大量に並べることができるので配備されているらしいが、それでも弓と矢の方が使い勝手がいいし、複数の相手をまとめて攻撃したければ魔法使いを養成した方がよい。

 それに大量に配備するということは冒険者以上の予算問題にもシビアでなければいけない。

 外国も似たような状況。なのでどうも銃を大々的に運用する組織はまだ存在していないが、どの国も熱心に研究しているのは確かだ、とはVも何かで読んだ。


「銃と言えば火がついた導火線か火打石を使うものだと思ってましたが」

 マリーの銃はそのどちらも使わない。

 木の持ち手が付いた鉄の筒だけ。狙いを定めるためだろうか、鉄の上にでっぱりはある。

「火薬を爆発させるんですよね?仕組みはどうなってるんですか」

「これですか?」

 マリーはそう言って鉄の筒の先を空に向け、銃の上の部分をVに見せた。

 筒の最後尾に何か埋め込まれている。石か?

「魔法を加えると熱を出す石があるでしょう。あれを使ってるんです」

 マリーが言う通りそう言った特性の石はVも知っている。

 ちょっとした魔法で紙を程度の高熱をすぐ出すが、熱の制御ができない。価格が火打石の何倍もする一方で魔法を使えないとただの石ころ。

 なので魔法使い向けのアイテムとしてたばこの火をつけるライターや、台所で火を起こす装置に使われることはある程度で広くは使われていない。

「筒の先から火薬と玉を詰めますよね。で構えてこの石に魔法をかけて発熱させて火薬に着火、で爆発させます。火打石や火縄だと着火までに間隔があって狙いがぶれるからこっちの方が命中率があがるんです。あと普通の銃じゃできない使い方もできますしね」

「へぇ」

 何を考えているかわからないそんな反応を見たマリーは銃をホルスターにしまう。

 腰に吊るしてもいいが何かの間違えで暴発したら怖いので、高いのを一つ特注した。あとこの方が様になる。ファッションとしてもいい。

「でもそれだと魔法使いしか使えませんよね。妙な仕掛けもいりますし、普通の銃より高くつきませんか?」

 Vの感想。この人を選んだのは間違いじゃないと思いながら

「危険な商売で女一人。護身には金をつぎ込まなきゃ生きていけませんよ」

マリーはそう笑った。

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