第23話
「この度はお時間をいただきありがとうございます」
夕方、A国の役人と軍人の一団は事前の通告通り、辺境公の屋敷に挨拶に向かった。
名目上明日の会合で今後の方針が決まることになっているが、それは名目。事前に行われている打合せであらかたの事は決まっている。
明日はセレモニー的な意味合いと同時に「この日までにすべて用意しておくこと」という双方の決め事といったところ。
捜索隊についていえばA国側は負担が少ないので問題はなかった。一方で残りの冒険者の引き渡しについての交渉は面倒なことになっている。軍だけではなく警察、議会、A家との話し合いが何度も持たれた。
しかし基本は帝国とA国の都合で呼んだ人間であり、当人は犯罪も行っていない、事故に巻き込まれた被害者。悪く扱うべきではないで一致している。
「うむ」
辺境公と呼ばれている貴族はいかにも貴族らしい貴族だった。
ほっそりとして縦に長い初老の男。素朴ながらよい身なりをしているが、これは客人を迎えるための格好。
「まぁ楽にしてくれ」
そういって手ぶりで使用人たちに合図し、お茶を持ってこさせる。
A国の人間が真っ先にイメージする貴族は王族であるA家の一族。その次にイメージする貴族は辺境公である。その位彼の姿は定番化している。
帝国では辺境に土地を持っているいるだけの一貴族でも、A国にしてみると「A国で力を持つ帝国の貴族」という変わり種。
「今回は捜索隊を出すということになりまして」
「すまないね。彼が言い出したことだろう」
辺境公はそう返した。騎士団の団長の事だ。
「彼は若くて真面目なんだよ」
「いえ、でも彼の言うことは正しいです。彼らを呼んだのは私たちの都合ですから」
軍の隊長はそう答えた。
「そうだね」
そう辺境公も賛同したところに従者が騎士団隊長の到着を告げた。
「辺境公、隊長殿、遅れてしまい申し訳ございません」
隊長は数人の従者と冒険者の一団を連れて屋敷に来た。
鉄兜の感想は「すごく・・・貴族」
Vの感想は「貴族を絵にかけばこんな感じでの人がすむ屋敷はこんな感じ」というもの
実際そんな感じの古い屋敷に、それを維持・管理するために存在する従者とメイドたち。
土地持ちであり馬もたくさん持っている。町はずれの宿屋の馬も実は辺境公所有の物。
つまり結構な金持ち。首都での名誉はなくとも、辺境で何十年何百年と続く名家。
「お久しぶりです。共同で捜索訓練をしたとき以来ですな」
軍の隊長は立ち上がり騎士団長と握手。
「えぇ、こちらこそお久しぶりです。この度は」
「君たち。いろいろとあいさつもあるだろうが、後回しにしたまえ。簡単な物だが食事の用意がしてあるんだ」
騎士団長の言葉を遮るのは辺境公。
「しかしそちらの方々の紹介はしてもらいたいな」
「こちらは首都から来た冒険者の一団です。訳あって今回の捜索隊に参加したいと志願してきまして」
Vの妥協案とは「捜索隊への参加」
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