第16話 ぱらっくす

(パラックス…撮影用レンズとファインダーが独立している事で生じる視野の誤差。)



[Second Kiss]



3年前



僕の部屋。広げられた本とDVD。

僕とテテの趣味で集めたもの…今日は何観ようか。


色んなドラマ、映画を2人で観た。

お互いどんなものに惹かれるか

何となくわかってきて、

僕はテテと気が合う事に毎度驚き…

テテが僕より実は恋愛要素が強い映画、

雰囲気がある内容が好きな事を

可愛いと思ったりしていた。



「テテ?おるかい?父さんから電話来てるっちゃ」


「知ってる。ケータイにもかかって来てる。

元気でやってるって言っといて」


多分まだ電話は繋がっていて、

急いでチイ婆ちゃんは

僕の部屋まで夕食後寛ぐテテを呼びに来た。

けど…テテは全く話す気は無いらしい。


事情が何かは知らないけど、

明らかに父親との仲は悪いんだろうな。



「…いいの?写真とかさ、

向こうから送って貰ったりさ。

向こうの美味しい物とかさ」


「…写真は向こうにも無い。

美味しい物はこっちの方がある」


「…そう?

って…あれ?写真って向こうにも無いの?

今まで撮った写真は?

テテが持ってるの?見せてよ」


「…今度ね。…現像してないから」


「あー現像がまだなのか。うん、したら見せて」



見せて欲しいと何度かテテに言っても

曖昧な返事を繰り返されていた。

東京に写真を置いてきてるのかとも思った。

けど、違うのか。現像がまだなのか…

現像はなかなかしないものなのか…

見たいのに。もう2人で山の上の公園に

何度行ったか分からない程だし、

シャッター音も何度聞いたか数え切れない。




「あ、そうだ。ミミのクラスは

男女装コンの代表決まった?」


「……明日決める。

去年やったから今年は絶対やらない。

テテは?決まった?やるの?」


「…去年…ミミやったの?

写真ある?動画ある?見せてよ」


「写真も動画も無い!

僕の顔と体でメイド服着ただけで

面白くも何とも無い!」


「……メイド服……」



テテが撮った世界が見たい気持ちは

ずっと変わらず…


叶わずにいる。





2年に進級した僕達はクラスが別れた。


テテは相変わらず友達を作る気は無いらしく

1人でいる事が多かったけど、

少し天然な性格からの天真爛漫さが

周りにも伝わったらしく

春、夏、みんなに構って貰って

過ごしやすそうに見えた。


そして、秋になっても

一緒にいるのが当たり前の僕は

授業と授業の合間にも

席でボーッとするテテによく会いに…今も来た所。


「キャハッハ」「フフフッ 」

「かわいいー」

「でしょ?!いいでしょコレ!」


教室を覗くと女子達が群がっている、

その中心にテテ。


「あ!…光史君来たよ!」


テテはこちらを向き不自然に手元を隠し、

こっそり近くの女子に何かを渡し

彼女に耳打ちをしている。


…ホントに僕じゃなくても…

すごーく、女子とも仲がよろしくなって…


「ミミ!どうかした?」


駆け寄られても喜べない。

…用が無かったら……

もう………来ない方がいいのかな。

テテの為とかじゃなくて、

僕のこの感情…イライラの為に。


「……すぐ教室戻るよ。

お弁当持ってくるの忘れたから、

お昼買いに行くの、4時間目早く終わった方が

2人分買いに行くって事でいいよね?」


「うん。多分普通に終わるから俺が買いに行ける」


「うん。教室見てまだ終わってなかったら

僕が買っとく。……じゃ、昼休みね」




昼休み。

僕の教室で男子がご飯を食べている中、

テテと同じ机にご飯を置いて食べる。

大抵は僕か母が用意したお弁当を広げて。


「……パン3個じゃ足りない…」


「え?僕のコレ半分あげるよ」


言ったそばから腕を持たれ、

僕の手ごとテテの口まで動かされると

食べていたピザパンが

大きな一口でほぼ消えた。


「それ、一口だけど半分以上!」


「んぁ?…おいひほうだったかあ…

じゃーこえ…あい」


テテの手からコロッケパンが口元に。

まだピザパンを持っていた腕は掴まれたまま

もう片方にはパックの牛乳を持ったまま。

しょうがなくそのままコロッケパンにかぶり付く。


「…お前達マジイチャつくのやめてくれる?

こっちは独り身が殆どなんだから…」


周りの男子が呆れ顔でこっちを見ていた。


「そうだ、輝良氏で女装決まりだろ?」


「あぁ……代え難い条件を出されたうえ…」


テテと同じクラスの男子から声が飛ぶ。

…僕のクラスはこれから決めるけど…


「…何?代え難い条件って」


「……え?…まぁ…いろいろ…

あ、ミミは?どうせやるんだろ?」


「……だから絶対やらないってば…」




テテの教室にはあまり行かなくなったし

帰りも文化祭の準備で遅くなって

公園などには寄らず、

いつもより会話も少なくなっていた。




高校に入って2度目の文化祭、

テテとは初めての文化祭、当日。


ステージの裏で

クラス女子の総力で着飾られた男女が

出番を待ち…僕もテテもその中にいた。


男子は女装、女子は男装…

僕はしっかりスカートを履かされ、

脚は隠れてるけど

肩を出しているから1番薄着かも知れない。


派手なスーツに身を包んだテテがこっちに来た。

しっかり化粧をして唇も真っ赤。

…けど、ズボンで羨ましい…


「…ミミ結局出てるじゃん…

で、何でそんな露出度高いの…」


「…だって…ホントは僕じゃないのに

決まってたヤツが休むから…」


「だから…なんで肩とか全部出てるの…

去年はこんな露出度高くなかったじゃん…」


「逆に何でお前そんな普通にスーツなの…」


「…隠した方がリアルに女っぽいって。

俺の体格とか…ゴツイ骨っぽさとか…」


「…僕だってどう見ても男なのに……

って…何で去年の露出度知ってんの?」


「………あ……代え難い条件…」


「あ?…なんか言ってたね、そういう事」


「クラスの女子が…ミミのメイド服…

写真も動画もくれるからこれに出てって…」


「そんな事で?!

そんなの見たけりゃ後で着てやるよ!

これで優勝したら、

ステージで誰かとキスするの知ってる?!」


「へー……知らなかったけど

別に優勝するわけじゃないし…

って…何でそれ知っててミミ出てるの?

どーするの!ミミが優勝したら!」


急に焦り出すテテ。

こっちはこっちで頭の中の整理で忙しい。


「前テテが教室で女子と仲良くしてたのって

その代え難い…僕の写真とか見てたの?」


「あ?ああ。片っ端から見てた。

そして今日が終わればデータ全部俺の物」


あの時のイライラ…僕が原因…?

まぁ女子に限らず僕以外のやつと

仲良くなっているのは事実で…

しょうがない事なのに

僕の独占欲の汚さに気づかされる。


「……ホント馬鹿。お前も僕も…

僕は優勝しないよ。

もし…テテが優勝したら…僕が相手してやるよ。

他の奴よりましでしょ?」


「…ミミが優勝したら……俺を選んでよ?

盛り上がって他の奴としたら困る」


テテが化粧をしてるからか、

真っ直ぐ見つめられて恥ずかしい事言われて

別人と話してるような感覚に陥る。

……困るってなんだよ……

よそ行きの整った顔の男には聞けなかった。




男女装コンがスタートした。


もうすぐステージに出るサインが送られる。

そんな中、テテが自分のジャケットを脱ぎ

何も言わずに僕の肩へ。

…その身のこなしに見惚れて

僕はステージへ何秒か出遅れてしまった。


肩にかけられたジャケットが

後から出てきたテテのスーツだと

アナウンスの生徒が気付いた時…


『彼の服借りてたー!』


『2組、光史君のウエディングドレスと

5組、輝良さんのスーツは

セットみたいですね!!

2人で結婚式成立です!』


アナウンスが煽ったせいで…僕とテテは同率優勝。


…僕と、テテと、観客の希望通り…

ステージの上でキスをした。


多分、長く感じたから…数秒間…しっかりと。


唇が離れたテテは

はにかんで笑い、僕に囁いた。


「…今度は赤いのを分け与えただけだよ…」


2度目のキスは

僕の唇に真っ赤が移った。






文化祭も終盤、衣装はそのままに

クラスの喫茶店を手伝っていた。


「久しぶりに顔見れるかな、と思ったら

ど偉いモノ見せられた」


「あ、結城先輩。来てたんですね。

酷いな。こんなカッコだからって…」


手作りのメニュー表を渡す。


「まさかみんなの前でキスする程

オープンな関係だとは…」


「ああ…そっち…別に何でも無いですよ。

ただ優勝したから恒例に従っただけで」


「…けど、上手くいってるんだろ?

ラブラブじゃねーかよ…」


「だから違いますよ!

あいつは何とも思ってないのに

平気でキスする奴だし、…僕だってそうだし!」


「わかったよ。そんなにムキにならなくても…」


「そうだよ。結城先輩だからって

そんなにムキになるなよ」


急に、斜め後ろから低く凍るような声…

怖い…いつもと違うテテの声がした。


びっくりして振り向くと

睨んでくる鋭い目にまたびっくりする。怖い…


「…ムキに…なってないよ…

ただ…オープンな関係じゃないし…

そもそもそんな関係じゃないしっ……!」


やばい。自分で言っててキツくなる。

これは…いろんな事が起きたから

気持ちが追いついて無いだけ。


テテが怖いとか…

ただびっくりして思っただけ。


テテのジャケットの上から

引っ張られる腕。


「2組さーん!

彼、着替えもあるし、ちょっと借りますー

打ち上げには戻ると思うけど

戻らなかったらすみませーん!」


「はーーい!

十分宣伝になったし、お店繁盛したから

後は自由時間でいいよーー!」


クラスの女子、男子達から返事されて

手が振られる。


結城先輩にも手を振られ…


「これをオープンな関係って言うんだよ」


だから違うって…


否定したいのに、

半分引きずられながら廊下に出され、

腕を引っ張られたまま。

グングン進む背中のテテに何も言えず…

もつれる足で付いて行くのがやっとだった。








pm7:00




「もう夜ご飯食べた?」


「うーん。食べたっちゃ。

今日はー…何だったかなー…あぁー魚。

美味しかったよー。まだボケずに元気よー」


テテの問い掛けに、

歌うように返事するチイ婆ちゃん。


「大学はどうね?」


「大学?勉強してるよ。

ミミが一緒だから、勉強も仕事も食事とか…

何も心配要らないよ」


当時も孫の顔だったけど、

今はとんがった物が外れた感じ。

テテの笑顔が溢れる。幼く、可愛い孫の顔のテテ。


「チイ婆ちゃんには

もっともっと長生きしてもらわないと。

…僕とテテ、やりたい事やったら

また戻ってくるから。ごめんね。待っててね。

またこっちで暮らすんだから」


チイ婆ちゃんは僕の手と、テテの手を持ち

握手するように動かした。


チイ婆ちゃんの

力強い温もりが伝わり安心する。

安心して、また東京でテテと暮らせる。



テテを取ってごめんねって反省しながら。




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