第8話 LINEグループ

 午前中で学校を出て、予備校の実習室に入っている。三年の部活仲間からの通知が忙しい。


『出でよ、既読神! 』


 ……中二病かよ。俺宛のリプ。思わずストローをすすった音を自習室で響かせてしまった。


『エマといつから本当に付き合ってた? 』

『俺たち騙されてたのかよ』

『正門でイチャついてた話を説明しろ 』


 仲間からのコメントが俺への問い掛けに集中している。正確にはまだ何も進展してない。


「まだ付き合ってない」と送ろうとして、「まだ」を、慌てて削除する。手短に説明する言葉を選ぶのがかったるい。


[返信]そもそもエマが俺を好きだと聞いてない


『じゃ、どうするんだ? 』

『お前は? 』


[返信]エマと付き合いたいかな


『やっとかよ 』

『受験なのによーやるわ 』


[返信]俺、昔、リカ先輩と付き合ってたんだよ 二年の途中まで


『マジか』

『知らなかった』

『俺、リカ先輩好きだったー』

『ショックだ』


 ここぞとばかりにスタンプが連続して通知が流れてくる。


[返信]別れた理由の半分はエマかな エマはそれ知ってるかどうか分からない


『まぁ、そうなるかな』

『よく隠せてたな』


[返信]はっきり止めろと言えなかった俺が悪いんだけど、リカ先輩と別れてしばらくはエマが煩わしかった その態度がずるずる続いたし、エマも何となく察してるのかボーダーラインあったし


『めんどくせー』

『優柔不断』

『まぁ、部内恋愛はなぁ~』


『いや、解禁だろ』


[返信]今朝、やっとエマとLINE繋げただけだし、振られたらフォローしろよな


『そこからかよ! 』

『俺、交換してるぞ』

『先に告ってくるかな』

『www』


 また意味のないスタンプが乱立する間に、タイムラインをエマに移す。トーク欄には、まだ何もない。この空っぽなスペースを既読神の俺が埋めて行かなきゃならない。


 無難にスタンプを押すにも、気の利いたものを持っていない。


 マフラーのお礼を言うのを忘れていたのを思い出し、まずそこから始めることにした。「マフラーありがとう」と書いて送信のタップを押す、同時にエマからスタンプが飛んできた。


 かわいくデフォルメしたトナカイのキャラクターが「会いにいくね♡」とウインクするアニメーションものだ。


 あまりのタイミングに画面を見つめてると、背景がクリスマスの絵柄に変わった。女の子は忙しいなと思う。


 スタンプじゃなかったら、座ってるパイプ椅子を軋ませるところだったかも。


[返信]その話はこっちから始めたかったな


 と返すと『ごめんなさい』と戻ってくる。


[返信]いいよ


 出来るだけこっちから積極的にしたいのに、エマのモーションが早くてなかなか追いつけない。慣れてないことをしようとしている。


「1つ科目が増えたと思ってタスクをこなす気でやってかないとな……」


 気持ちの切り替えのスイッチを増設しなきゃならない。学科の授業の始まるわずかな時間をエマとのやり取りに当てて、俺はいくつかのアプリを削除した。

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