第2話 ランチルーム
校内のランチルームは賑わっている。教室の机より広いから、割と利用している。クラスが違う部活を引退した仲間と昼メシを食べるのには適している。なにせ、男だけでむさ苦しい。
食器を片付けて、仲間とわずかな時間に予備校の宿題に手を掛けようとしていると、後輩マネージャーがやって来た。自称、俺の、タイチセンパイの彼女。
「お、エマ」と、仲間は受け入れる。こいつらは、俺と彼女が実際付き合ってない事を認識しているから、いちいち冷やかしたりしない。
「どうもでーす! 先輩たち、お邪魔しまーす! 」
エマと呼び捨てされて、後輩マネージャーが俺の横にピッタリくっついて座る。悪い気はしないけど、エマと俺のパーソナルスペースはどうなってるんだ。
エマはテーブルに学食で買ったアイスと、ポーチから小袋入りのお菓子を出して、仲間たちに配給する。
「エマ、サンキュー」って、こいつらはいつも小腹が空いてるもんだから、彼女の気遣いにみんな甘える。
「はい、タイチセンパイ! 」
…これだよ。俺にだけ、雪見○いふくの限定版の片方を分けてくる。串に刺されたそれを口で受け止めさせられる。タイミングは選べない。遠慮はしない。
「旨いな、これ」
「そうですよぉ〜、感謝してください♡」
一度口に放り込まれた雪見○いふくを摘んで、三口で食べる。冷たい。
エマは、1つだけになった雪見○いふくを美味しそうに食べ終わると、さっと立ち上がる。それも遠慮なく見届ける。
「じゃ、先輩たち頑張ってくださいね。お邪魔しました〜〜」
と、エマは勢いよく言うと、ランチルームから手を振りながら出口の人混みに消えていく。本当に一瞬。さっきまで横にいたと思うと、もういない。
「エマ、かわいいよなぁ〜。お前ら、本当に付き合ってもないの? 」
「そうだな。おれもそう思う」
何度か繰り返したネタだが、仲間の一人が新しい情報を持ってくる。
「この間の文化祭、内海がエマに告白して振られたな。夏から何人目だ? 」
四人目かな……知っている限り。部内でそれだから、もしかしたらもう少しいるのかもしれない。
「俺たちが引退したきっかけにエマに告白するヤツが増えたのに、みんな振られてるな」
と、まぁ、噂の種になってるが、俺もとばっちりを受けている。結構、あちこちから恨みを買っている。
「いい迷惑だよなぁ〜」
と、俺は、ついボヤいた。先日、内海が振られた現場を見た余韻が残って、頭から離れない。
「お前が言うか? 何がいい迷惑だよ。彼女じゃなくてもあんなにベタベタされてぇーよ! 迷惑なら、エマを拒否しろ! 」
「困ってるなら他の女と付き合えばいいだろ! このイケメンカースト上位! 」
仲間たちから文句が殺到する。予備校の宿題に取り掛かる時間が削られていく。
「お前ら、俺がなんで他の女子に告白されても断ってるか、分かるか? 結構悩ましい問題だぞ? 」
「なんだそれ? 」
「あのな、あいつがあれだけ彼女ヅラしてるのに告白してくるような女子となると、あれと張り合う気満々って事だぞ? 一歩間違えたらメンヘラの可能性が高くないか? 何かにつけて疑われたりに、付き合わなきゃならないんだぞ? 」
実際、トラウマ未満の経験済みだ。
「いや、メンヘラでもいいだろ? エマちゃん以上に頑張ってくれるなんて、メンヘラでもいい。お前の理由は誰得でもない!! 」
「そうだな」「それな」
と、一笑に付されてしまった。お前ら、拗らせ女子の怖さを知らなさ過ぎるだろ……何を言ってもダメだ。
「そういや、エマ、古典の加藤にも目をつけられてるって聞いたな」
「えーー、あいつが? きっしょ! 」
初耳だ。
道理で、俺の古典の点数が不正に削られているわけだ。結構な実害受けてるじゃないか。
予鈴が鳴った。
結局、誰もテキストもワークも開かずランチタイムは解散となった。
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