両片想いかどうか確かめていい?(クリスマスが好きとか嫌いとか)
炭 酸 水
第1話 文化祭
通っている高校で、俺にとって三度目の文化祭が終わった。
俺は教室の高い位置に吊り下げされたディスプレイを外している。運動部で男子の役目と言えば、女子の手の届かないところや肉体労働の指示に従うことだ。
あれだけ設営が大変だったのに、片付けるのは破壊しながらで作業は早い。
「こんなもんでいいか? 」
文化祭担当の女子に声を掛ける。もう高い位置から外す物がなくなった。
「ありがとう。それじゃ、その脚立、生徒会室の横の用具室に返してきてくれる? 返却チェックを忘れずに受けてきてね」
「了解」
脚立を肩にかけて、教室を出る。廊下は各クラスが片付けに追われ騒然としている。埃が宙を待っている中、俺は人を避けながら…或いは避けられながら進んでいく。用具室は遠いから、このお役目は割とのんびりやれそうだ。
校舎の外はゆっくりと西日。日が落ちるのが早い季節だ。
用具室に脚立を返却してチェックを受けると、結局、運動部男子ってだけで手伝わされる。返却される用具を奥までギッチリ詰め込む作業をやらされてしまった。生徒会メンバーがクラスメイトにいたせいだ。
「結局、ゆっくりさせてもらえなかったなぁ。ちょっと、部室に寄ってサボろう」
用具室の隣、各運動部の部室が並んだ建屋には人気が無さそうだ。久々の部室のドアに手を掛けると、中から声が聞こえる。
「お取り込み中か……内海と、マネージャーだな」
お取り込み中って言うと卑猥な感じだが、至って健全な告白タイムみたいだ。ただ、個室ってだけで、普通よりも緊張感が漂ってはいる。俺はドア越しについつい聞き耳を立てる。
「ごめんなさい。部員の人とは付き合うつもりないから」
と、話すのは2年の女子マネージャー。俺にはキャピキャピうるさいが、仕事はきっちりで、イマドキっぽいかわいいタイプだ。彼女にしたいと狙ってる部員が多い。今年の新入部員数を増やしたのも、彼女だ。
「でも、若槻先輩とは付き合うんだ? 」
はぁ……そこで俺の名前が出てくる?まぁ、確かにそう誤解するよな。
「付き合ってないよ。先輩、受験じゃない」
「じゃ、やっぱり好きなんだ? 」
内海……1つ後輩でマネージャーと同学年だが、振られた流れでそこ探ってしまうからダメなんだって。ちゃんと引き際無いと印象悪いぞ? と、そんな心配をしている場合じゃない。彼女の気持ちには興味がある。常々巻き込まれてるからな。
「……内海くんには関係ないと思う。私、クラスの片付けが残ってるから、もう行くね」
「……分かった。呼び出して悪かったな」
「うん。また明日ね」
話が終わりそうな気配を察して、俺はそそっとドアから離れ、教室へと帰ることにする。聞いていたことがバレない距離を早く置こうと……したが。
ドアから離れたものの、速攻で彼女に見つかる。彼女は、ドアを急いで閉めて、俺をジッと見ると、気まずそうな顔をする。
「タイチセンパイ……」
俺が聞いていたのか確かめるような不安げな顔をしている。もちろん、俺は、何も聞いてない表情を作る。
「どうした? 」
と、すっとぼけると、安心したのか態度が急変する。にぱっと笑うと、俺の脇腹にタックルをしてくる。
「あれぇ!タイチセンパイ、奇遇ですねぇ!どうしてここに?」
「どうしてもこうしても、用具室に来ただけだって。お前、クラスの方はどうしたんだよ」
「部室から借りたものを返しに来てたんですよぉ♬」
「そうかよ」
めっちゃ腕にしがみついてくる。この後輩マネージャーは、俺に懐きまくってベタベタしてくる。これを2年近くやられて、部内でもスッカリ公認。俺に告白してくる女子を断るたびに、「やっぱりマネージャーと付き合ってるんだ」って聞かれるし、実際そう認知されている。
誤解され過ぎてそれを解くのも面倒臭くなった。彼女無し絶賛継続中。
しかし、マネージャーとは何にも発展してない。ただただ、激しく懐かれている。それだけだ。文化祭だって、一緒に回ってないぞ。
しかも、2人っきりになると殆ど声を掛けてこないどころか、距離を置いたり逃げるような態度すらする。
部室の建屋から渡り廊下を経て、校舎の廊下をすれ違う生徒たちが、俺たちを見ては「相変わらずだな」と言った顔をしてくる。
『こいつ、俺を男避けに使ってるんじゃないか? 』というのが、俺の見解。そこは迷惑とも言えるが、かわいい女子にチヤホヤされて悪い気がしないに甘んじていた。気分は既におっさん状態になっている。枯れてる。
「お前、来年俺いないから、ちゃんと彼氏でも作れよな」
マネージャーも来年の夏で役割を終える。新マネージャーが増えれば前倒しで引退も出来る。
「えっ?センパイ、私の彼ピですよねぇー! 私、振られちゃうんですか? 」
「……知るかよ……あぶねっ」
大きなベニア板が狭い廊下で回転してきて、俺はとっさにマネージャーの頭を手で抑えて避けさせる。
「すみませーん! 」
「大丈夫だ、気をつけろよ! 」
マネージャーにベニア板はぶつかってないが、俺の胸にはぶつかる。痛くはないよな? と、顔を覗き込むと、目をギュッと閉じて顔を赤くしている。
わ、やべぇ……
「わ、悪いな。事故だ、事故」
元の体勢に戻して、周りの安全確認とばかりにマネージャーから目線をそらすと、マネージャーはいつものノリに戻る。
「今、彼ピの厚い胸板いただきました♡ゴチです♡」
「アホか! 」
「じゃ、私、この辺で」
てへぺろして、俺の腕を解放し足早に去っていく。いつも取り残されて、こんな感じ。
笑顔がマストなマネージャーの、不安げな顔や恥ずかしそうに目を伏せてる顔の残像が脳裏に残る。
それはちょっと、勘弁して欲しい。
誰が受け止めるか分からない陥落寸前に、俺は動揺する。
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