第120話 権力を知る者たちの冴えたやり方

「えーっと、その方々の泊まる場所とかの手配って、ちゃんとできてます?」


 ……というか、たぶんできていない。

 この浮遊図書館には、その手の対応をする人間がいないからな。

 おそらくここにスタニスラーヴァたちを招いたのはアドルフだろうが、奴がその手の気遣いをするはずが無い。

 あぁ、賭けてもいいとも。


「ええ。 ちょっと困っていたのよ。

 さすがにトシキの許可なしに勝手に部屋を使う事はできないし。

 私もそれを最初に話させていただこうと思っていたところ」


「わかった。 早急に手配しましょう」


 ……とは言っても、そういう手配を任せる相手がいないんだよな。

 できるだけ早く執事か何かの役目を果たす人間を用意しなくては。


「とりあえず、スタニスラーヴァの泊まる場所を決めましょう。

 いちいち俺の許可は取らなくてかまわないので、誰も使っていないフロアを丸ごとそっちで使ってください。

 高い場所が苦手じゃなければ十二階あたりでどうでしょうか?」


「ええ、それでお願いするわ」


 スタニスラーヴァの了承を取った俺は、近くにあった端末でアドルフに連絡を取り、部屋の準備を丸投げした。

 あとはスタニスラーヴァのところの侍従とやり取りしてもらおう。

 こういうのは俺の得意分野では無い。


「それで、今はどんなトラブルに首を突っ込んでいるのかしら?」


「トラブル前提で話を始めるのやめてくれません?

 なんというか、トラブル体質が染み付きそうで嫌なんですけど」


 俺がため息交じりで抗議すると、彼女は首をかしげて意外そうな顔をした。


「あら、トラブル起きてないの?」


「……思いっきり起きてます」


 否定できない現状が非常につらい。

 ほんと、なんでこうもトラブル続きなんだろうねぇ。

 運命の神とやらが入るのならば、盛大にクレームをつけたいところだ。


「だったら、わたくしのせいではありませんわ」


 彼女はやはりといわんばかりの顔で微笑むが、そんな嬉しそうにしなくてもいいでしょ。

 俺だって好きでこんな状況に入るわけじゃないんだし。


「それで、今はどんなトラブルが起きていますの?」


「まぁ、ありていに言うと……この近くの町の森の神の眷属と喧嘩になって、そのあと色々とあって南の町に殴りこみをかけてそのの守護女神から嫌がらせを受けているの真っ最中。

 そして今は、今の森の神をクビにするために、先代の森の神を蘇らせようとしているところ?」


「いったい何をどう間違えたらそんな大事になるのかしら」


 話された内容についてゆけないのか、スタニスラーヴァが額に手をやる。

 まぁ、その気持ちはよくわかるよ。


「まぁ、色々と。

 で、どうします? 逃げるなら今のうちだと思いますけど」


 すると、彼女は少し不機嫌な顔になりながら首を横に振った。


「その選択肢は無いわね。

 あとで後悔するのは目に見えてますもの。

 それに、勝算はあるのでしょう?

 そうでなければ、有無を言わせずわたくしを遠ざけるはずですわ」


 なるほど、そう判断したか。

 なんだか手の内を読まれているようで少し悔しい。


「まぁ、間違ってはいませんけどね。

 状況はかなり面倒くさいですよ?」


「あら、やりがいがありそうね」


 牽制するつもりが、なぜか彼女のやる気に火をつけてしまったようである。

 不適に笑うスタニスラーヴァを前に、俺は頭を抱えるしかなかった。

 こうなったら、彼女が満足するような仕事を与えるしかないだろう。

 幸いなことに、彼女はとても有能だ。


「じゃあ、スタニスラーヴァにお願いしたいのですが……今の森の神官たちにちょっとお話をしてきていただけませんかねぇ。

 どうもお互いに色々と誤解があって、困っているのですよ」


「あら、それは大変ね。

 この国には宗教関連の問題を解決する祭祀庁という組織がございますのよ。

 先にそこの監査官にお手紙を書こうと思うのだけど、よろしいかしら」


 こんな台詞がサラっと出てくるのが彼女の怖さだ。

 自分の持っている権力というものをしっかりと理解していらっしゃる。


 あぁ、そうだ。

 せっかくこの国の法に詳しいスタニスラーヴァがいるので、俺はずっと気になっていたことを尋ねることにした。


「その関連で質問があるのですが……人の命を捧げるような祭祀は合法でしょうか?」


 その瞬間、スタニスラーヴァの目が鋭さを帯びる。

 どうやら、俺は当たりを引いたらしい。


「あらあら、トシキ。 何百年前の話をしているのかしら?

 祭祀庁の許可が無い限り、そんな野蛮な行為がこの国で許されるわけ無いでしょ。

 それに、とてもじゃないけど、そんな許可が下りるとも思えないわ」


「それがですねぇ、この地方の火山の噴火を避けるために、とある領主の娘が花嫁と称して生贄にされそうになっているのですよ。

 まぁ、噂ですが」


「まぁ、大変だわ。

 それが本当ならば監査官が飛んでくるわね。

 こんな辺境の話なら、まだ本庁には届いていない可能性がありますわねぇ」


「それはいけませんね。

 一人の神官として、祭祀庁の方にお知らせしなくては。

 スタニスラーヴァさん、手紙を出したいので手伝っていただけませんか?」


「ええ、喜んで」


 そして俺は、スタニスラーヴァの協力の下でこの町で起きていることについての報告書をしたためたのであった。

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異世界司書は楽じゃない 卯堂 成隆 @S_Udou

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