第99話 時代劇ってなぜか最後はこんな感じになるよね。

「うーん、やっぱりお姫様は領主の館の離れにいる可能性が高いんだが、これじゃさっぱりわからんな」


 ヴィヴィとフローラから送られてきたデータを解析していた俺は、気がついたら独り言を呟いていた。

 その声を聞きつけたのか、近くのテーブルで端末をいじっていたアドルフが顔をこちらに向ける。


「何で絞り込めないんだ?」


 その素朴な質問に、俺は肩をすくめるしかなかった。

 正直、説明をするのも億劫だ。


「あの二人がお姫様の顔を知らないから、館にいる女性のデータを手当たりしだいに突っ込んできたんだよ。

 しかも、個人の特定のしやすさなんてまったく考えてない奴」


 ちなみに、領主の息子の趣味なのか、子供としか思えない歳のメイドが山ほどいるようである。

 この世界にはロリコンを制御する法が無いからなぁ。


「データ同士の関連付けもされてないから、どのデータがどのデータとくっついているのかさっぱりだ。

 正直、あいつら暴れるのが目的だからお姫様に興味なさそうだしなぁ。

 これ、見ろよ」


 俺は集計を書いた紙を手にし、アドルフに突きつける。

 すると、奴の顔が見なきゃよかったといわんばかりのものにかわった。


「……あぁ、こりゃひどい」


 な? やる気うせるだろ。


「結局、ジスベアードが頼みの綱か。

 けど、あっちもポメリィさんがいるからなぁ」


 とはいえ、お姫様を救出するという意欲があるぶんポメリィさんの方がほかの二人よりはるかにマシかもしれない。

 いや、それは無いか。


 今頃、明かりの消えた街の中を歩いている二人を思い浮かべ、俺はモニターを切り替えた。

 だが、表示されたのは闇夜のカラス。


「おっと、そうだった。

 スプラッタシーンを見ないように暗視モードを切っておいたんだっけ。

 ところでアドルフ。 まだ装置の誤作動は直らないのか?」


「わるい。 あと少しだけ待ってくれ」


 俺に返事を返すと、アドルフは再び端末に向かって文字を入力する。

 なお、街の明かりを全て消したのは、ちょっとした事故であった。


 その事故が起きたとき、俺の反対を受けたアドルフは、自分の思いつきを実行することを一応諦めていた。

 だが、奴は暇つぶしにシステムを弄るだけ弄って実行スイッチを押すだけの状態にしてニヤニヤしていたのである。

 だが、そこにタイミング悪く執筆の休憩をしていた火の精霊が、いつもの癖でタバコをつけてしまった。


 結果、実行ボタンも押していないのに誤作動で消火システムが街に向かって発動してしまったというわけだ。

 なので今、あわててシステムの設計を元に戻そうとしているのだが……思いのほか時間がかかっているらしい。


 これではジスベアードたちもうかつに身動きがとれず、指令塔役の俺も特にすることがない。

 仕方が無いので、俺は諦めてお茶をいれなおすことにした。


 そして三杯目の茶を飲み干した頃、ようやくアドルフがこちらに声をかけてくる。


「待たせたな、トシキ。

 これで設定はもとに戻ったぞ」


「まったく……おかげで色々と台無しだよ。

 とりあえず地上の連中が火を使えるようになったことに気付くまで待っている事はできない。

 照明弾を落として、潜入組に明かりを提供してやってくれ」


 もはやこの状態では、隠密も何もあったもんじゃないな。

 泥沼の上を、泥の船で移動しているような気分である。


「了解だ」


 アドルフが端末から何か指示を出すと、ポヒュッと何かがはじける音が響いた。

 同時に、モニターには身動きがとれなくてじっと身を潜めていたジスベアードとポメリィさんの姿が映し出される。


 ……って、おいジスベアード。

 お前、なにドサクサにまぎれてポメリィさんの肩を抱き寄せているの?

 死にたいの?


 そこにミサイルの発射ボタンがあったら思わず押してしまいそうな気分を抑えつつ、俺は彼らの現在位置を確認する。

 ふむ、もう領主の屋敷までもうすぐだな。


 俺はメインモニターをヴィヴィにつなげ、マイクに向かって指示を出す。


「ヴィヴィ、まもなくジスベアードたちが領主の館に到着する。

 進入経路を作成してくれ」


「はいはーい!」


 続いて俺はドランケンフローラにも指示を出した。


「フローラ、進入を支援する準備はできているか?」


「こちらドランケンフローラじゃ。

 すでに狙撃に適した場所まで移動を終了しておる。

 いつでも行動を開始できるぞよ」


 よし、あとはジスベアードにGoサインを出すだけだな。


「ジスベアード、こちら作戦本部。

 全ての準備は整った。

 そっちにヴィヴィが向かうから、案内に従ってくれ」


「了解……だ。

 おい、壁にいきなり穴があいたぞ」


 ジスベアードのあきれた声が、スピーカーを通じて作戦室に流れる。

 今までの隠密行動が、この一発で台無しだ。

 いや、今までの行動を隠密行動と呼ぶほうに無理があるか。

 こちらが襲撃を仕掛けている事は、向こうもとっくに承知しているだろう。


「はぁ……精霊を相手に常識が通じると思うな。

 とっとと業了してお姫様を連れ出して来い」


「了解だ、あとは任せてお……おい、ポメリィさん!?」


「ふふふ、もう隠密行動なんて気にしている状況じゃないですよね!

 やはりアドルフさんの言うとおりになりました。

 ええ、私、最初からコソコソするのは嫌だと思っていたんですよ!」


 ジスベアードがあわてた声を上げたので、俺はメインモニターをポメリィさんに切り替える。

 すると、彼女はモーニングスターを構えたまま、大きな声でこう告げたのであった。


「出てきなさい、悪党共!

 お姫様をさらった悪い奴は、冒険の神のにかわってわたしポメリィが成敗します!!」


 俺の横では、アドルフが満面の笑顔で親指を立てていた。

 貴様……謀りやがったなぁぁぁぁぁぁぁ!!

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