バトル・ガールズ・ネイキッド!

八乃前 陣

第1話 リンとアヤ

☆プロローグ 更乃助と 彩愛と 宇宙の少女


 木曜日の放課後は、もうすぐ休みだという、期待と軽い解放感で学生たちがザワザワしている。

 下駄箱では帰宅部の生徒たちがワイワイして、そんな中に、田中更乃助(たなか さらのすけ)の姿もあった。

 学ラン姿の少年、高校一年生の更乃助は、平均的な身長に、サラサラショートヘアで整った面立ち。

 帰宅部だけど運動神経もなかなかで、一学期の中間試験が終わった現在でも、スポーツ系の部活から勧誘されるくらいだ。

 勉強もそこそこ出来るから、実は女子からの注目もそれなり。

 だけど、本人はまだまだ男同士の付き合いが楽しく、いつも男子で固まっている更乃助に、女子たちはなかなか近づけない様子でもあった。

 今も、男友達と三人で帰宅の途に就く更乃助。

 メガネの友達から、週末の予定を確かめられている。

「え、更乃助おまえ、明日の金曜日、休みなんか?」

「ああ、田舎の爺ちゃんの葬式でね。そのまま一泊。昔気質だからさ、葬式とかの日取りは融通効かないんだ」

「ふ~ん、堂々と休めるとかぁ、更乃助ぇ、羨ましいぞぉ」

「お前罰当たりだな」

 そんな男子たちの話を、通りかかった下駄箱の陰で、つい立ち聞きしてしまった少女。

 クラスメイトの水崎彩愛(みずさき あやめ)は、ショートカットの似合う爽やか清楚な女子で、身長は平均よりちょっとだけ小さく、スレンダーな肢体をブレザーに包んだ、ちょっと内気な女の子だ。

 更乃助の話を聞きながら、自己主張の控えめな胸に手を当てる。

「更乃助くん、お爺ちゃんが亡くなったんだ…慰めてあげたいな…」

 そう思い、妄想する彩愛。


 想像の中で、悲しみを隠す更乃助に声を掛けたら、ソっと手を取られる。

「ありがとう、彩愛」

「え…え!?」

 突然の名前呼びに、ドキっとする彩愛。

 そのまま背後から抱きすくめられて、耳元で優しくささやかれる。

「彩愛の気持ち…とても嬉しいよ。優しいんだな」

「そ、そんな…あ」

 更乃助の左掌が腹部に触れつつ、右掌で乳房に触れられる。

「さ、更乃助くん…慰めるって、さういう意味じゃ…ああ~ん」


 と妄想したところで、我に返る彩愛。

「わ、私のバカ…更乃助くんは、そんなHじゃないもん!」

 真っ赤になった愛らしい顔をブンブンと振る彩愛だった。


 同じ頃、地球の周回軌道で、見知らぬ宇宙船が停泊をしていた。

 直径が百メートル程の銀色な円盤は、地球のレーダーやセンサーでは補足できないような、高度なジャミングを当たり前に垂れ流し、知的生命体からの脅威を出来るだけ排除していた。

 これも、宇宙を旅する高度文明人たちの常識らしい。

 そんな宇宙船のリビングで、お菓子を食べながら地球を観察している、一人の少女がいた。

 銀色のスーツはボディーペイントのように肌にピッタリフィットし、表面には幾何学的な光線が数色と走っている。

 サラサラ赤色の長髪な宇宙人は、地球の若い男性たちに、興味深々な様子。

 何体かの男性をカメラでとらえ、切り替えて、一人の学生が目に留まった。

「ふ~ん…なんかずいぶん、可愛い感じの男の子だね~」

 友達と馬鹿話をする更乃助は、宇宙人に観察されている事など、知る由も無かった。


☆第一章 更乃助と お爺ちゃんの思い出と 願い石


 翌日の午後。学ラン姿の更乃助は、母の田舎で、祖父の葬式に参列していた。

(お爺ちゃん…すげー)

 田舎ゆえなのか、近所どころか町中の人たちが参列してくれていて、そこには普段の生活では見られない、人同士の温かいつながりを感じたり。

 祖父の家は昔ながらの日本家屋で、平屋づくりだけど庭も広く、地主でもあり、なかなか立派な旧家でもあった。

(小学生の頃とか、夏休みには毎年、お爺ちゃんとこに泊まりに来てたっけ…)

 中学生になると、とくに何があったわけでもなく、距離が開いてしまっていた田舎。

 こうして祖父が亡くなると、もう少し孝行すればよかったな…。とか思う。

 更乃助という名前も、お爺ちゃんがつけてくれた名前だ。

 学校の低学年あたりまでは好きになれない名前だったけど、今はもう慣れたし、変な名前でも変えるつもりもない。

 夜になると、親しい人たちが集まって、酒の席になった。

 ほとんどが老人ばかりだけど、みな祖父との別れを悲しみ、だからそこ笑い話で盛り上がったりして、故人を送ってくれている。

 高校生の更乃助は、一人縁側に腰かけて、晴れた夜空を見上げていた。

 田舎に来なくても、夜空を見ると、更乃助は思い出す事がある。

「あの日も、こんな晴れた夜だったっけ」


 小学生だった頃の、ある夏休み。

 お爺ちゃんと、こんなふうに星を見上げていた更乃助。

 一際大きく輝いて見える星を指さして、自慢げに話す。

「お爺ちゃん、あれが金星でしょ?」

 お爺ちゃんはノンビリと笑いながら、応える。

「はっはっは、金星はホレ、あっちじゃ。あの星に見えるのはな、地球に来とる宇宙人が放出した、超々高度六次元重力波定点観測センサー衛星なんじゃよ」

「ちょうちょう…ていてん…?」

「更乃助には、まだ難しいかの。はっはっは」


 思い出すと笑いが出てしまう。

「お爺ちゃん、なんかそんな 変な話、好きだったよな」

 ゾロゾロとお客さんたちが帰宅を始めて、宴会の席から賑わいが引いてゆく。

 縁側で星を見上げていた更乃助に、おばあちゃんが声をかけてきた。

「更乃助や」

「お祖母ちゃん、葬式、終わったの?」

「ええ。それでね、これ。おじいさんが、更乃助にやれって」

「? ありがとう…!」

(お爺ちゃんの形見…か)

 お祖母ちゃんから渡された、お爺ちゃんの遺品は、掌サイズの小さな木箱。

「なんだろ…わぁ…」

 開けてみると、親指ほどの大きさの、虹色な水晶みたいな宝石が入っていた。

 七色に輝くその宝石は、ダイヤモンドのように硬く、しかし発泡スチロールのように、重さを感じさせない、不思議な素材だ。

「不思議な石だな…ん、手紙?」

 石の下には手紙が敷かれていて、更乃助は開いて読んでみる。

『我が孫 更乃助へ

 この宝石をお前にやろう。

 これはその名も「願い石」といって、今期の宇宙の神であるハイパー・ゴッド様から頂いた、それはそれはありがたい石である』

 書かれている内容に、さすがにちょっとクラクラする更乃助。

「お爺ちゃん…ハイパー・ゴッド様って…」

『ここの石に願えば、どんな願いでも叶えてくれるのだ。

 世界の支配者などという中二病みたいな願いも。

 女子にモテたいなどというクソみたいな願いも。


 爺ちゃんより』

「挙句クソ呼ばわりですか…お爺ちゃん」

 お爺ちゃんの笑い顔を思い出し、釣られてヘンに笑ってしまった更乃助だ。

 手紙を読み返すと、心の中で納得できた。

「なんか、お爺ちゃんらしいな…あはは」

 夜空を見上げて、フと思う。

「まあでも、確かに…世界征服はともかく、一度でいいから 女の子に死ぬほどモテては、みたいかな…」

 とか、なんとなく思った次の瞬間、手の中の石が強烈に輝いた。

 ピカーーーーーッ!

「うわわっ! な、なんだっ!?」

 驚いて、光の強さで掌が熱くなった錯覚もして、驚いて庭に転げ落ちる更乃助。

 掌からこぼれた虹色の石は、すぐに光が収まって、真っ黒い普通の石に変化してしまっていた。

「…なんか、いま光ったよな…?」

 拾った石は、どう見ても、そして重さも肌触りも、その辺に転がっているただの石だ。

「? なんだったんだ…」

 黒い石を眺めていたら、母の声が聞こえる。

「更乃助ー、そろそろお風呂いただいて寝なさい」

「あ。はーい」

 少年は石をポケットにしまうと、屋敷に戻った。



☆第二章 更乃助と 二人の少女と ハイパー・ゴッド様


 月曜日。

 更乃助は学校へ向かいながら、大あくびだ。

「ふわわ…ついネットで夜更かししちゃったな…」

 眠い目をこすりながら、友達たちといつもの馬鹿話。

「よ、田舎の土産は?」

「ないよ。葬式だぞ?」

「冷たい野郎を見つけたぞ」

「なんだそりゃ…ふわわ…」

 くだらない会話で笑いながら、眠気は取れない更乃助だ。

 そんな少年の後ろ姿を、登校中の彩愛が見つけた。

「あ、更乃助くんだ! あんなに目をこすって…お爺ちゃんが亡くなった事…やっぱり寂しいんだわ…」

 恋愛補正のためだろう。

 友達と笑い合ってる姿も、無理をしているように見えてしまう彩愛。

「慰めてあげたい…いつもの、更乃助くんの笑顔が見たい…うん!」

 決意の瞳で、彩愛は更乃助へと、やや速足で接近を試みる。

(男子たち…早く登校してくれないかな…)

 更乃助が一人にでもならないと、恥ずかしくて話しかける事なんて出来ない、内気な少女だ。

 校門をくぐったところで、更乃助が背後の彩愛に気が付いた。

「あ、みっ、水崎! お、おはよう…!」

「あ、た、田中くん…お、おはよう…!」

 お互いに相手の気持ちを気づいていないだけで、実は想い合っている二人。

 友人たちは、二人の表情や態度から、それぞれの気持ちに感づいてはいた。

「じゃな、更乃助」

「オレら、先いくわ」

「え? な、なに急に…!」

 二人きりになると、何を話せばいいのか、二人とも戸惑ってしまう。

(み、水崎だ…! なにを話せば…!)

 恥ずかしいし、場違いな事を言って変な相手だと思われたくない。

 それは彩愛も同じ。

(ほ、本当に、二人になっちゃった…! どど、どうしよう…!)

 赤面してうつむいて、言葉が出ない二人を、男女とも、お互いの友達がニヤニヤしながら眺めていた。

「どっちが先に言葉をかけるか!」

「水崎に百円!」

「更乃助くんに百円!」

 友達の応援が盛り上がる事など露とも知らず、二人は思い切って、言葉をかけた。

「「あの…っ!」」

 二人同時で、二人とも驚く。

「「あ…ど、どうぞ…!」」

「あ~、今日も同着か~!」

「焦れったいわね~」

 応援がひと段落ついた次の瞬間、更乃助の体が光に照らされた。

「…ん? うわわっ!」

「た、田中くん…!?」

「何だっ–うわあああぁぁぁ…っ!」

 天上からの照明に包まれた更乃助の体が、フワりと浮いて、凄い速さで屋上へと吸い上げられていった。

「た、田中くーーーんっ!」

 絶叫する彩愛が、ハっと気づいて、急いで屋上へと駆け出す。

「なんだ?」

 賭けが終わって下駄箱に向かっていた友達は、更乃助が攫われてゆく現場を、誰も目撃してなどいなかった。


 光に攫われた更乃助が、屋上に落とされて尻もちをつく。

「痛ててっ…なんだ、どうした…ん?」

 見渡した少年の目の前に、一人の少女が立っていた。

 赤髪少女は、銀メッキのボディベイトみたいなピッタリスーツを纏っていて、その表面は細い光線が幾何学的に走って光っている。

 その姿は、まるで宇宙人。

 見知らぬ少女が、明るい笑顔で挨拶をくれる。

「初めまして、サラノスケ!」

 名前を知っている少女に、少年は「?」しか浮かばない。

「えっ–き、きみは…?」

「ワタシ? ワタシは ルリフマリアーラ・リンロ・カリノス・ハンタラ・ルンタラ・スカラドルリーニャム・ハリホー! カリノス星の第三王女だよ!」

「る、るり…にゃむ…?」

 半端に長い名前すぎて、一発では頭に入らない。

「地球人には発音し辛いだろうから、リンロって呼んで!」

「リ、リンロ…さん?」

 と、名前を認識したところで、あらためて引っかかっていた自己紹介を確認する。

「地球人…カリノス星…?」

 一度に色々と起こり過ぎて、軽く混乱している少年だ。

「えっとね、サラノスケたち地球人の概念で言えば、ワタシ、宇宙人だね!」

「宇宙人…?」

 自己紹介を終えたリンロが、楽しそうにニッコリとほほ笑む。

 自己紹介によると宇宙から来た姫様だからか、その笑顔はまさしく、星が輝く程に、綺麗で愛らしく輝いていた。

 見たところ、同年代だろうか。

「…え…えっと…ハっ!」

 つい見とれてしまった更乃助は、宇宙人という言葉に、祖父との思い出が頭をよぎる。

「さっきの吸い上げられた光線といい、俺の名前を知っている事といい…」

 宇宙人と言われると、怪光線にも納得できてしまえる。

「そ、それで…宇宙人が、俺に…なにか…?」

「うん! あのねー!」

 一際嬉しそうに大きな瞳を輝かせると、リンロは頬を染めて、尻もちをついたままな少年の胸に、抱き着いてきた。

「ワタシ、サラノスケを貰っちゃうって、決めちゃったの~!」

「えっ、ええっ!?」

 女の子に抱き着かれるのも、告白みたいな事されるのも、生まれて初めてだ。

 ぎゅう…と押し付けられる女の子の体は、全身の力が抜けそうなほど、柔らかくて暖かい。

 サラサラな赤い長髪からは、石鹸みたいな良い香り。

 全身ピッタリなスーツの為か、豊かなバストもムチムチな腿も、むにゆっと少年の体に密着をしていた。

「!」

(おっ、女の子のっ、体が…っ!)

 心臓がドキぃっと強く跳ねて、頭が真っ白になって、緊張で硬直した体は指一つ動かせない。

 そんな少年の胸の中で、リンロは嬉しそうに、頬をスリスリと寄せていた。

「ぁ…ぁの…離な、れた、ほぅが…」

 なんで抱き着かれてるの–?

 なんで俺の名前知ってるの–?

 なんで貰われるの–? 

 どうしてよいのかわからず、頭の中を、疑問符だけがグルグルと回っている。

 そんな屋上に、更乃助の身を案じる彩愛が到着。

「さ、更乃助くっ–あああっ!」

 少年を押し倒して抱き着いている長髪の女の子に、ショートカットの少女が非常事態を迎えてしまう。

「さ、更乃助くんから離れて~っ! 男女不順異性交遊ですよーっ!」

 二人の背後に駆け寄って、胸の前でグーを握って、必死の抗議。

「うわわっ–み、水崎っ–あのっ…あわわっ!」

「サラノスケは、ワタシのモノだもーん!」

 彩愛の抗議への当てつけだ。

 ボディペな宇宙少女の起伏に恵まれた体が、より強く、彩愛に見せつけるように、更乃助へと押し付けられる。

 平均以上に自己主張をしている胸や、ムチムチな腿が、暖かくて柔らかくて、少年の力も理性も、くにゃくにゃに蕩けてしまった。

 初めて体験する、風に乗って流れてくる石鹸みたいなちょっとエッチな香りや、押し付けられた胸の鼓動までもが、少年のドキドキを高めてゆく。

 ある意味危機的状況な少年の蕩け具合を余所に、少女たちのバトルが展開されていた。

「だ、だから見知らぬあなた! 更乃助くんに抱き着かないで~っ!」

「やだー、だってサラノスケは、ワタシの宝物だもん~!」

「た、宝–そんなにっ!?」

「あ、あのっ、二人とも…」

 女の子同士の戦いに、少年の脳は全くついてゆけない。

 修羅場と化す屋上。

 少年の頭上に、更に光の環が出現をして、頭の上に誰かが落ちた。

「んおお~っと? めんこい女子が二人も揃って、まさに願い通りの奪い合いだな~。なんてな。ぷくくく」

 よくわからない基準のギャグを飛ばして自己満足に浸る謎の存在は、バレーボール位の大きさな光の球に、点目をつけたような、簡単な姿。

 二人の少女も、謎のしゃべる光球に視線を奪われていた。

 頭上を勝手に占拠する不埒な知的生命体に、少年は当然な疑問をぶつける。「こ、今度はなに…!?」

「はっはっは~! 我はホレあれよ。今季の宇宙神、ハイパー・ゴッド様であ~る! なんてな~!」

「「「神様!?」」」


☆第三章 死ぬほどモテる少年と 変身少女たちと 愛は戦って勝ち取るモノとか言われたり


 光の球が、自慢げではなく自慢しながら、更に告げた。

「オ~イェ~! みんな大好き宇宙の神様ハイパー・ゴッド様とは、アタクシの事でゴ~ザル~。なんてな~。ホレ更乃助よ、お前さんのお爺ちゃんと友達の! ア~ユ~…シッテル~?」

 英語に自信が無かったらしいゴッド様だけど、ふんぞり返ったドヤ顔には自信があるっぽい。

 きょとんとしている女子たちが、無意識にも一時休戦している感じなので、更乃助は事実確認を急いだ。

「あの…ゴッド様ってその…本当に…?」

「おぅおぅ? なんだ少年、お前さんの願いをかなえてやった吾輩を、疑ったりしちゃう罰当たりボ~イ? なんてな~」

 なんてな。と言わないと気が済まないらしいゴッド様の発言を、更乃助に恋する彩愛は、聞き逃さなかった。

「願い…? 更乃–あわわ…たた、田中くんが、何かお願いをしたんですか?」

 名前呼びに気づいて恥ずかしくなって言い直した少女の内気な気持ちなど、ハイパー・ゴッド様には大した問題でもなさそう。

「名前呼びを恥ずかしがって苗字呼びに直したショートカット少女の質問に答えれば、イェ~ス。なんてな~。あ、もうこの『なんてな』とか、鬱陶しいな」

自己反省も絡めたゴッド様のさりげない暴露に、彩愛は真っ赤になって慌てる。

「ななな名前呼びとかっ…! 言わないで~!」

「わー、いーじゃん名前呼び。ワタシもあなたの事、アヤメって呼ぶね」

 長髪少女は全く気にしない様子だ。

 話が脱線しかけた事を、ゴッド様は聞き逃さない。

「で、だ。ヘイ更乃助。お前さんの願い、何だっけアレ。そうそう『死ぬほどモテたい』とかいう、あの糞みたいな願い? アレ、叶えて今この状態。フフ、わかる?」

「え…?」

「さ、更の助くん…そんなお願いしたのーっ!?」

 想い人の願望を知ってショックを受けた彩愛が、気絶しそうな程フラフラする。

「いや、そ、それはっ、願望とかじゃなくて、軽い気持ちの想像っていうか…」

 彩愛に呆れらたくない更乃助が、正直な言い訳を試みるも、リンロが自論で割り込んでくる。

「ワタシはいいよ~。生物としての繁殖能力を考えれば、男の子っていっぱい、恋人欲しいの、当たり前だし~」

「ええっ!? いやだからっ、俺はそんな…」

 宇宙科学の認識は地球人とは違うらしい。

 ライバル女子の許容範囲の広さに、恋する少女は焦り、認識を揺さぶられてしまう。

「そ、そうなのっ…? さ、更乃助くんが、そうなら…私…っ!」

 自身の考えを真剣に疑問視し始めた彩愛。

「いや水崎–」

「うむうむ。これぞ願い石の効果でビザルな。ハッハッハー」

「願い石って…」

 少年の疑問に、頭上でくつろぐゴッド様が解説をくれた。

「更乃助が願った死ぬほどのモテモテな。おまえさんアレだ、女人それぞれにとって、最も大切な存在として認識される性質になったって事だ」

「?…」

「こっちのロングヘィアーの女子にとって、お前さんは宇宙一の宝物。でもって、こっちのショートヘィアーの女子にとっては…あんま変わってないな」

「だっ、だから言っちゃだめー!」

 知的生命体レベルの認識など気にもかけないゴッド様の、サラっと告げる彩愛の恋心に、少女自身は耳まで真っ赤に染めて羞恥した。

 ゴッド様の解説を、リンロはすぐに理解する。

「あ、だからかー。ワタシ、この惑星のこの国の基準でいう、キンヨービの夜に、更乃助が宇宙一の宝物だって、知ったのー! どうしようか迷ったんだけどー、今日ね、やっぱり飛び込んじゃえって、決心しちゃったんだー!」

「け、決心って…いやそもそも、宇宙一の宝って、何…?」

「それについてはミーが話そう! 更乃助、お前さんは宇宙の宝へのキーとなったのさ! 物理法則とか地球人レベルの些細な認識を全部すっ飛ばして言うとっ、お前さんとエッチ、この場合は比喩ではなくダイレクトにその行為そのものを指すが…とにかくエッチするとっ、この太陽系の全ての恒星惑星衛星がっ、金塊に変化しちゃうんだなコレがっ!」

「え…えええええええっ!?」

「?」

 人並の少年レベルで宇宙に興味のある更乃助は、そんな事実に驚愕するものの、人並の少女レベルで宇宙に興味のない彩愛は、キョトン顔。

 太陽や地球が金塊になってしまったら、少なくとも太陽系全ての生命体は全滅。

「ちょっ–ちょっとまって! なんで俺がそんなっ、大ごとの張本人扱いなのっ–ですかっ!?」

 緊急事態でも敬語を忘れない立派な少年に、今期の宇宙神様はシレっと答えを示す。

「だってお前さん『死ぬほどモテてみたい』って願ったじゃ~ん」

「え…」

 死ぬほどモテたいから、モテたら死ぬらしい。

「そんな…っ! そもそも軽い妄想なんですからっ、Hしたら死ぬとかっ、今すぐキャンセルしてくださいよ~っ!」

 Hしたら死ぬとか、泣きたい気分もいいとこだ。

「いやいや、一個体でしかないお前さんと、恒星系の星々全ての金塊がイコールなんだから、これほどの名誉もアンタ、そうそうないですゼ? イッヒッヒ」

 なぜ急に下衆顔でアピールしてくるのかは不明だけど、とにかく決定事項らしい。

 少年の死。というヘビーワードに、彩愛なりの理解をする。

「さっ、更乃助くんが死んじゃうっ!? なんとかならないんですかゴッド様~っ!」

「おぅおう、めんこい女子にゴッド様とか泣き縋られると、ええ気分じゃんの~! うひひひ」

 なんか俗っぽいゴッド様が、解決策の提案をくれた。

「まあアレだな。更乃助を欲しいって女子二人で、戦って勝った方のモノだな、更乃助は」

「つ、つまり…リンロさんと競って私が勝ったら、更乃助くんの命が助かるんですねっ!?」

「み、水崎…」

「うむうむ。ショートヘィアーのお前さんにとって、更乃助が金塊以上の価値があるなら、そういう事で、あ~る!」

 確信を言い当てられた少女は、大きく息をついて、決意を表明。

「わかりました! 私、リンロさんと、競います!」

 戦いを挑まれたリンロも、意味を理解しつつ、明るく答える。

「いいよ~。サラノスケを掛けて、ゲームだね!」

「え? え?」

 商品となった更乃助は、少女たちの闘志に、どうしてよいのかわからない。

「はい決定~! それでは『第1回 ハイパー・ゴッド杯 争奪 更乃助の命は誰のもの!? 愛とは奪う物と見つけたり 大会』 開催~っ!」

 ゴッド様の仕切りで、少女二人のバトルが宣言された。


☆第四章 宝物と 変身少女たちと 戦いの始まり


「ルイニカナノシイっ!」

 ハイパー・ゴッド様が、オールドなマニアの心の傷を抉るような呪文を唱えると、彩愛とリンロの首に、首輪が巻かれる。

「きゃっ…なに、これ…?」

「んー? 首輪ー?」

 二人の少女は、それぞれに反応。

「首輪ノーノーっ! 限りなく首輪に見えるがワイらの世界ではチョーカーやでぇっ! ええか女子たちっ、その首輪の使い方ぁっ、一瞬でバッチりと頭に入ったヤンケわれえええっ!」

 謎のテンションで説明をくれたゴッド様。

 首輪にしか見えないチョーカーは、彩愛が赤色で、リンロが黒色。

 正面から見た中心部分にはピンク色の宝石が嵌め込まれていて、後ろには十五センチ程の、金色の細いチェーンが揺れていた。

 リンロはボディペに首輪で、彩愛はブレザーに首輪姿。

 何やら背徳的な感じがして、少年は焦る。

「あ、あれじゃあ本当に首輪じゃないか!」

 少年の訴えを無視して、ハイパー・ゴッド様は、二人にチョーカーの使用を促した。

「それじゃあ二人ともっ、オン・ユア・マークうううっ!」

「は、はいっ!」

「は~いっ!」

 彩愛とリンロが、一瞬で頭に入ったらしいチョーカーの力を、一緒に開放。

「「メタモル・ア~ップ!」」

 二人の体が虹色の光に包まれたかと思ったら、何やら華々しい合成音みたいな音楽で、二人の姿が変わる。

 着衣が光に分解されて、パーツとなってそれぞれの裸体に装着。

 数舜の光が収まると、少女二人は変身していた。

 「ひ、光ったけど…きゃああぁっ!」

 眩しさに目を閉じていたらしい彩愛が、自分たちの変身姿に驚いて、悲鳴を上げる。

 彩愛もリンロも、頭にはジュエリーの小さな飾りを着けていて、目元は煌びやかなマスク。両手にはグローブ、両足にはブーツ。だけの、半裸姿。

 上はチョーカーから下はブーツまで。左右はグローブまでの、素肌は全て丸出し。

 それぞれの装着パーツは微妙にデザインが違っていて、色も、彩愛が赤系でリンロが黒系。

 唯一の大きな差異は、彩愛の髪型が変身前のままなのに、リンロはサラサラロングがツインテールに纏められているところだろう。

 想い少女の裸身を目の前に、更乃助は視線も意識も奪われて、数秒と遅れて驚かされた。

「みっ–水崎…っ!」

「っ! さっ、更乃助くん見ないでぇっ!」

 羞恥で耳まで真っ赤になった半裸の少女は、全身を丸めるように屈んで、裸身を隠す。

 対する宇宙少女は、恥ずかしがりながらも隠す様子はない。

「あれー? 裸になっちゃったよー。まぁいいや、変身少女リン参上!」

 自称リンは、ピシっとポーズを決めた。

「な、なんで二人が裸になったんだよーっ!?」

 真っ赤な少年の疑問に、今期の神様は平然と答える。

「神の前では隠し事なんて許さんから。全てオープンにして当たり前。おまえさん、禊とか知らん派?」

「て、手袋とかブーツは…」

「ワタ~シノ美的感覚ニィ、合ワ~セマシタ。HAHAHA!」

 急に英語っぽくなったのは、趣味がバレて恥ずかしいから誤魔化す、とかではなく、単に自分が楽しいからなのだろう。

 学校の屋上に、半裸少女が二人。

 一種異様な光景に、しかしハイパー・ゴッド様は意外にも冷静だ。

「う~む、リンロの方が完全に変身してるって事は、こりゃあお前さん、リンロ嬢ちゃんの一ポイントゲットって話だぜえぇ?」

「何いってるのゴッド様っ!?」

 焦る少年に比して、恋のバトルの最中な裸の彩愛の方が、少しは落ち着いている様子。

「い、一ポイント…? どういう事…ですか?」

「ほっほっほー、戦闘意欲があるなら、髪型まで変化するんよー。リンロはツインテールになったけど、彩愛はもとのままー。つまり現在のところっ、リンロの方がポイント高いよって話いぃ~っ!」

 ナゾのテンションで解説をくれたゴッド様の話に、リンロは歓喜。

「やった~! 戦わずしてワタシの勝ち~っ!」

 裸のままピョンピョンと跳ねるリンロの恵まれたバストが、上下に弾む。

 そんなHな光景に、年頃の少年の視線が釘付けにされてしまっても、責められまい。

「さ、更乃助くん…っ!」

「うわっ–いや水崎そのっ…ごごめんっ!」

 謝罪を受けたものの、しかし、あからさまな差異を見せつけられた事もあり、彩愛の負けん気に火がつけられた。

「わ、私だって…戦えるもんっ!」

 自分に言い聞かせるように、更乃助をチラと見て、少女はすっくと立ちあがる。

「うわわっ! 水崎っ!」

 再び視線を奪われる更乃助。

 少年の視線が勇気になったのか、彩愛は耳まで真っ赤に上気させながら、戦いの意思をゴォっと燃やす。

「は…はあああああああああああああっ!」

 バトル漫画の気合入れみたいに力を籠めると、彩愛のショートヘアがフワっと舞い上がり、首までの長さのポニーテールへと変化した。

「み、水崎の髪型が…!」

「おうおう、バトる気マンマンになってきたじゃん?」

 完全変身を遂げた彩愛は、裸身を隠す事なく堂々と立ち、予想外の言葉が出たり。

「はぁ~あっ、なんて開放的な気分~! 変身少女アヤ参上! 更乃助くん、Hな目で見てる~! もっと見て~っ!」

 自称アヤは、リンとは別なポーズをピシっと決めて、想いの少年にセクシーアビール。

「み、水崎どうしたのっ!? なんかいつもと違う…っ!」

「秘めたる欲望でも曝け出したんじゃね?」

「水崎を穢すような事いうなっ!」

 少年とゴッド様のやりとりを余所に、二人の変身少女は、戦う気マンマンの楽しそうな笑顔で対峙している。

「え~、それではリンとアヤ、戦って勝った方が、商品である更乃助をゲットできる事としま~す。異議申し立ては?」

「「ありません!」」

「み、水崎っ–リンロもっ、やめろって!」

 更乃助の心配も耳に届かないらしい二人の同意を得て、戦いが開始される。

 ゴッド様が片手をあげて。

「それじゃあ~、恋と色と欲のバトルぅ~、スっタアーーートおぅっ!」

 掲げた手が降り降ろされて、バトルスタート!


☆第五章 少女たちと バトルフィールドと 少年の勇気


先陣を切ったのは、戦う気マンマンな笑顔のアヤだった。

「更乃助くんは私のなんだからっ! ヤァアアアっ!」

 リンに向かって全力で接近すると、目にも止まらぬ拳をドドドっと連打。

 全身の激しい動きのおかげか、控えめな双乳がプルルルルっと微細に揺れる。

「ワタシだって、負けないもーん!」

 数打の拳をバックステップでかわしたリンが、負けない笑顔で接近して反撃。

「やややややっ!」

 元々が彩愛よりも大胆な性格だからか、反撃は素早い連続蹴りだ。

大きなバストが上下の楕円に弾むだけでなく、大きな開脚で大切な処も隠す気なし。

「うわわっ–ふ、二人ともはしたない…っ!」

 さっき初めて、女子の裸を直視した少年は、必死に目を閉じつつ二人の戦いをやめさせようと、割って入ろうとする。

 素早い蹴りに押されるアヤが、そんな更乃助に気づいた。

「ああ、更乃助くぅん! 私を心配してくれるのね! 嬉しい~っ!」

 屋上の床を砕く程の蹴りを片手で弾き飛ばすと、半裸の変身少女は、嬉しそうに右側から、少年の胸に縋り付く。

「み、水崎っ–うげぇっ!」

 少女の裸体に縋り付かれて、暖かくてやわらかくていい香りがして嬉しくてドキドキなのに、すごい腕力で全身の骨がヘシ折られそう。

「もぅ~、更乃助くんたらぁ。私の事は、彩愛って、呼・ん・で♡」

 怪力拘束で顔面が真っ赤な更乃助の頬に、自らの頬をスリスリして幸せそうな、変身少女アヤ。

「あ~っ! アヤってばずるい~っ!」

 アヤの隙あり抱擁作戦に、同じく半裸の変身少女リンが、焦って怒る。

「サラノスケに抱き着くならワタシも~!」

 左側から抱き着いてきたリンは、無意識にも大きな乳房を、むにゆん、と押し付けてセクシーアピールを開始した。

 しかし同じ怪力なので、抱き着かれた更乃助は、鼻血が噴き出しそうな程の興奮と喜びと同時に、魂が絞り出されそうな程の圧力。

「し、死ぬ…!」

 少年の危機を、少女たはそれぞれ救おうとする。

「ちょっとリン、更乃助くんが苦しそうでしょっ! 離れてってば!」

「え~っ、アヤだけ抱き着くなんてズルっこだよ~!」

 このままでは優勝賞品が圧壊されそうなので、ハイパー・ゴツド様が教育的指導を促す。

「バトルの勝敗はセクシーポイントじゃなくて、単純な勝敗のみだから。それ以外はどったも敗者って話だから」

「「そ、そうなのっ!」」

 身体アピールがルールに無しと理解した二人が、再び戦闘へと戻る。

「更乃助くん、ちょっとだけ待っててね♡」

 と言いながら、アヤが更乃助の頬に優しくキス。

「えへへ、更乃助くんに、初めてのキスしちゃった~! ホッペタだけど~!」

 頬とはいえ、人生初のキスを捧げた少女は、嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねる。

「あ~、それいいんだ~、ワタシもする~! ちゅ♡」

 反対側の頬に、やはり人生初のキスを捧げたリンも、頬を抑えて嬉しそうだ。

「あ、あの…」

 やはり人生初の頬キスを体験した少年は、頭が混乱するくらい嬉しいのに、圧迫された全身が激痛過ぎて、身動き一つ取れなかった。

 恋バナ関係を示して活力を得たらしい二人の少女は、戦闘を再開。

 あらためて仕掛けたのはリンだった。

 「いっくよ~っ! えええ~いっ!」

 全力で突進してくると、強烈なパンチをお見舞い。

「ああっ! 意外と強いいぃっ!」

 咄嗟に両手でガードしたものの、圧力でアヤ自身が吹っ飛ばされて、フェンスを破壊しながら屋上から転落してゆく。

「あっ–彩愛ちゃああんっ!」

 愛しい少女の命の危機に、少年は体の痛みも忘れて、名前呼びしながら壊れたフェンスに縋り付く。

「いやん。更乃助くんたら、彩愛って呼んでくれたのね~!」

「うわっ!」

 落下したと思った校庭から難なくジャンプしてヒョイと戻ってきたアヤに、更乃助は驚きと安堵と、名前呼びしてしまった恥ずかしさでアワアワしてしまった。

 登校時間の校庭では、屋上フェンスが壊れて裸の女の子が降ってきたと思ったらジャンプして屋上に戻って、何が起こってるのかとザワザワし始める。

「今度は私よっ⁉ え~いっ!」

「あわわっ! なになに?」

 そんな周囲の様子を気にせず、アヤはリンの足首をガッシリと掴むと、形が認識できなくなる程の高速回転をして、校庭へと放り投げた。

「ひやあ~! なんてね!」

 音速に近い高速で投げ飛ばされたリンは、しかし平気な笑顔で、生徒たちの賑わう校庭にドンっと着地。

「な、なにあの娘っ!?」

「な、え、え?」

 堂々と立つ裸の女の子に、女子たちは驚き羞恥し、男子たちも視線が釘付けにされて、思考も停止だ。

「平気だよ~! こっちこっち~!」 

 屋上に向かって挑発する、変身少女リン。

 釣られて見上げた生徒たちの視線を気にする様子もなく、アヤは楽しそうにニコニコしている。

「やっぱり、投げただけじゃダメよね!」

 言いながら、アヤも校庭へと飛び降りた。

「ゴ、ゴッド様、二人を止めてよっ!」

 これ以上、女の子同士の諍いなんて見たくない少年は、戦いを促したゴッド様に停戦を提案。

「二人の間で決着がつくまで無理筋。恋愛なんて所詮はお前、奪い合いなのさ。それにな、結局全ては、女の気持ち次第なんだよ若人よ」

 一種の達観論など当たり前に届かない年齢の少年に、ハイパー・ゴッド様は別なる真実をお告げする。

「そんな事よりYOU。あのままの状況、お前さん的にはOKなのかいヘイ?」

「へ? わああっ!」

 言われて、指示された校庭を見て、気づいた。

 想い少女の彩愛の半裸姿が、全校生徒の衆目に晒されているのだ。

 目元がマスクで隠されているし、髪型も変わっているから、バレる事はないのだろう。

 しかし彩愛の裸を不特定多数の、特に男子たちに見られるのは、嫌だ。

「ダメに決まってるだろ! あ、彩愛ちゃーーーんっ!」

 更乃助は、全身の激痛を超える焦りで、校庭へと駆け下りていった。

「うんうん…懸命な若者の姿ほど美しいものはないぞよ」

 完全に人事なハイパー・ゴッド様だった。


 校庭では、生徒たちが二人の裸身を鑑賞するどころか、混乱に陥っていた。

「み、みんな非難しなさい非難!」

 騒ぎを聞きつけた教師たちが、生徒たちを安全な場所へと非難させる。

 周囲への損害をなるべく抑えようというハイパー・ゴッド様の粋な計らいなのか、学校の敷地周囲にはバリヤーが張られ、アリ一匹すら出入りできない。

 なので生徒たちも脱出できない。

「行くわよ! えいえいえ~いっ!」

 アヤが次々と鉄棒を引き抜いて、リンに向けて槍のように連射。投てきするに従い、小さなバストがプルプルと揺れる。

「当たらないもん! やああっ!」

 狙われたリンは、回転しながら両手両足で鉄やりを捌く。遠心力で、大きな双乳がロケットみたいに柔らかく変形。

 そんなありがたい光景なのに、生徒たちは誰一人として鑑賞できない。

 弾かれた鉄棒が、あたりかまわず飛来してくるからだ。

「ひいいっ、死ぬる~っ!」

「お母さ~んっ!」

 高速の金属棒が、避けた足元に凄い勢いでズドんっと刺さり、盛大な土埃まで舞い上げている。

「隙あり!」

 旋回しているリンに急接近したアヤ。しかし。

「引っかかった~!」

 アヤの突き出した拳をリンが受け止めると、そのままグルグルと回転を加速。

「きゃぁぁああああっ!」

 一秒間に数百回転の超高速で振り回されると、アヤはそのまま校舎へと投げつけられた。

 ドっシんっと重たい地響きがして、校舎の一階に三メートルほど大穴が開けられる。

「け、KОで決着…?」

 と、男子たちが安心したのもつかの間。

 ガレキがバーンと弾かれて、無傷のアヤが元気に立ち上がった。

 両手を拳にして掲げ、元気アピールの変身半裸少女。

「全然、大丈夫よ!」

 回転を止めていた変身半裸少女リンも、両手を腰に当てて、笑顔で余裕を見せていた。

「うん、そうだと思ったよー!」

 乳房も何も全てを隠さない少女たちの堂々とした姿に、命の危機ともいえる男子たちは、それでも本能的に注視してしまっていた。

「おおっ、凄いっ!」

「俺っ、女の子の裸、初めて直視してるっ!」

「生きてるって素晴らしいなぁっ!」

「男子って馬鹿」

 呆れる女子も続出していた。

 二人の少女が、高速で激突をして、接近戦で戦闘を再開。

 バトルアニメみたいに、拳や蹴りの応酬。

「えいえいっ、はああっ!」

「やっ、とうっ、だだだだっ!」

 激しい攻撃の応酬で、剥き出し乳房やお尻が弾み、開かれた一瞬の脚間にも注目が集まる。

 力と力の高速激突で衝撃波が発生し、ひび割れた築五十年の校舎が少しずつ、崩壊させられてゆく。

 屋上から駆け下りてきた更乃助が、裸でバトる二人を止めに入った。

「ふ、二人ともやめてくれ~! このままじゃ校舎も–!」

 カシャカシャと小さな機械音がして、振り向くと、男子たちの一部が二人の写真を撮っていた。

「お前らっ! 写真なんか撮るな!」

 少年の怒りを、ハイパー・ゴッド様が拾ってくれる。

「自分の女の裸は独り占めしたいか? ふふん、若いのぉ」

 小馬鹿にした風で小さな奇跡を起こすと。

「あああっ、写真が全部消えたぁっ!」

「ちくしょおおおっ! なぜだああっ!」

 アチコチで男子たちの嗚咽が上がっていた。

 更乃助が、そっちの方で安心すると、そんなタイミングで上空に白黒迷彩の宇宙船が出現。

「こ、今度は何っ!?」

「お前さん、モテモテだから」

 黄色い光が校庭に差し込まれると、中から更に、宇宙人の女が姿を現す。

 全身は、鍛え上げられた男性のボディビルダーのように筋肉質で屈強で、バストがあるから女性だと分かるレベル。

 両手に極太い謎のレーザー兵器を携帯し、背中にも重火器を山ほど背負っている。

 そして顔は、リアルに文鳥そのものだ。

 文鳥の女ソルジャーが、問われもしないで名乗りを上げる。


「ドヒャヒャヒャヒャっ! アタイは宇宙盗賊の集金首、ブンチョ様だよっ! さぁて、反応のあった宇宙のお宝は、ドコのどいつだい?」

「うわっ、気持ち悪いっ!」

 つい素直な感想が口を突いた更乃助を見た文鳥宇宙人は、一瞬で目がハートマークに。

「ドッヒャ~ンっ! アタイ好みのラブリーボーイっ! こっちにいらして~っ!」

 身長二メートルをゆうに超える、文鳥顔の雌ゴリラが、ドスドスと地響きを立てて追ってくる。

「うわ~っ、文鳥の怪物だ~っ!」

「イェイ! イッツ・ユアー・モテモテ!」

 比喩ではなく物理的に食べられてしまいそうで、必死に逃げる少年を、文鳥ゴリラが涎を垂らして追い回す。

「あっ!」

「んっ?」

 少年の危機に気づいたアヤとリンが、バトルを中断して、文鳥ゴリラと対峙した。

「何よあなたっ!?」

「サラノスケは渡さないんだからねっ!」

 ピシっと身構える半裸の少女戦士たちと、守られる少年。

「ふ、二人ともっ!」

 武装盗賊のブンチョは、邪魔する少女たちの言葉に、高笑いで返礼とする。

「ドヒャヒャヒャヒャっ! うるさい小娘どもだねえ! 人の恋路を邪魔する奴ぁ、馬に蹴られて死んじまえってねぇっ! ドリャっ!」

 何であれ知的生命体には似たような認識と諺が存在するのだと暗に明した宇宙盗賊が、立ち塞がる二人に向けて、両手の謎レーザーブラスターを放った。

「あっ、危ないっ!」

 銃口が光ったと同時に、更乃助は無意識に飛び出し、少女たちの盾となっていた。

「うわあっ!」

「さっ、更乃助くんっ!」

「サラノスケっ!」

「ドヒャっ! マイ・ダーリンっ!」

 ブラスターを受けた更乃助が倒れると、アヤとリンが泣きそうな顔で、抱きすくめてくる。

「更乃助くんっ、しっかりしてぇっ!」

「サラノスケっ、目を開けてよっ!」

 泣きそうな二人の必死な声で、更乃助は衝撃から目を覚ます。

「いてて…ああ、びっくりした。大丈夫だよ、比喩とかじゃなく かすり傷っぼいから…」

 見ると、二人を庇った両腕に、謎レーザーがかすった痕跡があるくらいで、命に別状はなかった。

「モテモテ効果じゃのう、宇宙強盗とはいえ恋する女のレーザー補正で、たいした傷にはならんかったようじゃわい」

 ハイパー・ゴッド様が特に守ってくれたワケではないと、今ハッキリ証明された。

「更乃助くんっ、無事でよかったー!」

 少年の無事を知って、少女たちは安堵した涙を浮かべ、左右から抱擁。

「そ、それよりあのっ–二人とも…っ!」

 右の頬にはアヤの微乳が、左の頬にはリンの豊乳が、ぷるんむにんと柔らかく圧迫をしてきて、マジでドキドキ。

「サラノスケ…ワタシ、あなたを金塊と交換しようとしたのに…なのに、サラノスケは…私を助けようとして…っ!」

 赤面する少年。リンは真顔で、対戦相手へと想いを告げた。

「アヤ、この戦いはワタシの負けでいいよ! だってワタシ、サラノスケへのアヤの想い、いま本当に、わかっちゃったから!」

 戦い合ったアヤは、黙って聞いている。

「だから 今からが、本当の勝負開始だよ!」

「…ええ!」

 二人の笑顔が、解り合った者同士の爽やかさで、輝いていた。

「え? なに?」

 少女同士の納得がよくわからない更乃助に、ゴッド様が解説をくれる。

「まあアレだ。物欲が情欲になったって話だ」

「「もっと崇高!」」 

 お互いの意思を理解した二人が、少年の盾として立ち上がる。

「よくも、更乃助くんを傷つけたわね!」

「絶対に許さないんだから!」

 凛々しい二人に、宇宙強盗が威嚇をする。

「ドッヒャっ! 小娘相手なら容赦なしだよ! 死になぁっ!」

 謎ブラスターを放とうとした文鳥ゴリラに、二人は高速の跳躍で急接近。

 全力で、トドメの攻撃を放った。

「アヤ・キーーーック!」

「リン・ストライクーっ!」

 半裸少女たちの開脚ダブルキックが、宇宙強盗の大柄ボディにド真ん中でヒット。

「ドオッブゴオオオっ!」

 お腹を蹴られたブンチョが凄い勢いで吹っ飛ばされて、激突した宇宙船ごと、大気圏外に排出された。

「「勝利っ!」」

 二人の半裸変身少女が、ビシっとポーズ。

「ほほう、戦いは引き分けじゃのう」

「? どういう事?」

「お前さんを巡る恋のバトルは、新たなフェーズに突入って事じゃのう」

 なぜか老人キャラが気に入ったらしいゴッド様。

 少女たちの勝利宣言に、やはりよくわからない生徒たちが、拍手をくれる。

 こうして、よくわからない闘いが終了して、学園に平和が戻った。


☆エピローグ バトル・ガールズ・ネイキッド!


 翌朝の教室。

 学園は、リンロの宇宙船の謎光線で一時間とかからず修復をされて、やったしばらく休校だと喜んでいた学生たちをガッカリさせつつ、いつものHR。

 担任である初老の男性教師が、紹介をする。

「え~、新しくクラスメイトになる、転入生だ」

 入ってきたのは、赤髪の宇宙少女。

「初めまして~! ワタシ、地球人には難しい名前だから、略してリンロって呼んでね~!」

「あっ、キミは…!」

「リンロさん…!」

「いた! アヤメ~! サラノスケ~!」

 更乃助と彩愛の姿を見つけたリンロは、嬉しそうな笑顔を輝かせている。

 駆け足で少年に抱き着くリンロ。

「うわっ、あの、リンロ…!」

「ワタシ、更乃助と一緒にいたくて、コッチ来ちゃったんだよ~!」

 リンロの大胆さは、変身とは特に関係ない様子。

「だ、だめ~! 更乃助くんに抱き着かないで~!」

 対して彩愛は、指先も触れられずに内気な抗議。

 戸惑う更乃助の頭上でくつろぐゴッド様が、サラっと告げる。

「はいお二人さん。また宇宙から、更乃助に興味を持った者が到着しましたよっと! こりゃまた暴力的な愛の持ち主だなっと」

「「「えっ!?」」」

 校庭の上空を見上げると。新たな宇宙船が出現。

 虹色の光が射されると、中から八頭身の、豊艶な悪の華が。

「「また恋のライバルっ!」」

 昨日の騒ぎを思い出した生徒たちが、ザワザワと逃げ出し始める。

 頬を上気させる彩愛と、平気っぽいリンロは、ウン、と頷く。

 胸元に右手を充てて意識を集中させると、それぞれの変身チョーカーが、細い首に巻かれる。

「「メタモル・ア~ップ!」」

 半裸変身少女のアヤとリンが、朝の教室に降臨して、更乃助の目の前には裸のお尻が並び立った。

「ふ、二人ともまた…っ!」

「「大丈夫」」

 羞恥と心配で顔が赤青している少年の頬に、二人はまたキスをくれて。

「「変身少女・リン&アヤ!」」

「更乃助くんは!」

「渡さないんだから~っ!」

 地球と恋を護る戦いが始まった。


                      ~終わり~

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バトル・ガールズ・ネイキッド! 八乃前 陣 @lacoon

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