2つのNEW その3

 罠にかかったトリセンバーグが、本気で仲間になりたそうに俺の事をみているわけなんだけど……

 浮島の村を管理してくれていたグラシーズさんが、両手に包丁を持って

『これから焼き鳥パーティですわ』

 的な表情を浮かべているだけに、果たしてこれを受け入れていいものかどうか……なんて事を腕組みして考えていると……トリセンバーグの長い尻尾が伸びて来て、ウインドウの


『はい』

 

 のところをクリックしようと……


 ガシッ


 ……したんだけど、その尻尾をグラシーズさんが鷲づかみにした。


「この下郎……何をしようとしてやがりますの?」


 そう言って、その顔に不敵な笑みを浮かべているグラシーズさん。

 そんなグラシーズさんを涙目で見つめているトリセンバーグ。

 体の大きさでは、トリセンバーグの方がグラシーズさんの3倍くらい大きいんだけど、力関係的には完全にグラシーズさんが優位に立っている感じになっていた。

 改めてトリセンバーグへ視線を向けてみると……

 最後のお願いとばかりに、俺のことを涙目で見つめていた。


「……とはいえ、ついさっき助けようとしたところで手のひら返しをしたヤツだしなぁ……」

「そうよ! こんなヤツ助ける必要なんてないんだからね!」

「その通りです。焼き鳥の材料で十分ですわ」

 

 俺の言葉に、エカテリナとグラシーズさんも即座に同意した。

 そんな俺達の様子を見ていたトリセンバーグの目から滝のように涙が流れ落ちていた。

 ……う~ん……さっきの手のひら返しが確かに問題ありすぎたんだけど……


「……そうだな……まぁ、今回は『本気』って記載されているし……仲間にしてやろうよ」

 

 俺がそういうと、エカテリナは最初眉間にシワを寄せていたんだけど、程なくして

大きく息を吐き出し、


「……そうね……旦那様は優しいんだもんね……だから大好きごにょごにょ……」

「ん? 最後の方、なんて言ったの?」 


 なんか最後の方が急速に小声になったせいでよく聞き取れなかったんだけど、


「ななな、なんでもないんだからね!」


 顔を真っ赤にしながら首を左右に振って、必死にごまかそうとしていたエカテリナ。

 まぁ、本人が語りたくなさそうだったのでそれ以上はつっこまなかったんだけど……


 ただ、そんなエカテリナの隣に立っているグラシーズさんが、


「……ったく……この鳥畜生めが……運がいい……えぇい、疎ましい……」


 まるで呪詛でも口にしているかのようにブツブツブツブツ呟きながら恨み骨髄的な表情をしていて、思わず背筋が冷たくなってしまった俺。


◇◇


 とまぁ、そんな経緯がありまして、選択肢『はい』をクリックした。

 同時に、罠から開放されたトリセンバーグが地面の上に降り立った。

 同時に、エカテリナが俺の前に出て剣を構えた。

 さっきの手のひら返しを踏まえての対応だったんだけど、さすがにトリセンバーグも2度も同じ事をするつもりはなかったようで、地面に降り立つと同時にその場で土下座をして何度も何度も頭を下げていった。


「お助け頂きありがとうございます、ありがとうございます。このトリセンバーグ、フリフリ村長様のために身を粉にして働く所存でございますゆえに、末永くご愛顧頂けますと幸いですぅ」

「あ、いや……別にそこまで卑屈にならなくても……」

 苦笑しながらトリセンバーグの肩をぽんと叩いた俺。


 ……すると


 その場で胡座をかいて座り直したトリセンバーグは、


「じゃあ、お言葉に甘えて……これからよろしくしてやるからな、フリフリ!」


 って、いきなり超フレンドリーな態度をとってきた。

 その変わり身の早さに唖然とした俺なんだけど、そんなトリセンバーグの喉元にエカテリナの剣が、その両耳にグラシーズさんの包丁がそれぞれ突き立てられていた。


「あんたね、節度がなさすぎるんだからね!」

「フリフリ村長様への度重なる無礼、万死に値します」

「ひ、ひえええええええええええええ!?」

 

 その場で、真っ青になりながらガタガタ震えているトリセンバーグ。

 その光景を見つめながら、苦笑していた俺だった。


◇◇


「まぁ、とにかく、この村でしっかり働いてくれるのなら、命の保証はするからさ」

「ははぁ! あ、ありがたき幸せ」


 俺の言葉に、土下座してひれ伏しているトリセンバーグ。

 その背後には、絶望のオーラモーションを具現化させているエカテリナとグラシーズさんの姿があった。

 まぁ、この状況でさっきみたいななれなれしい態度をとったり、手のひらを返したりは出来ないだろう。


「それでですね、フリフリ村長様。お仕えするにあたりまして、まずは献上させていただきたいものがございまして」

「献上したいもの?」

「えぇ、これなんですけど……」


 そう言うと、その巨大な羽根を左右に広げたトリセンバーグ。

 その羽根の内側には、なんだかフワフワした物がいっぱいくっついていた

んだけど、


「あれ? これってアナザー羽毛さん?」


 そう、それは間違いなくアナザー羽毛さんだった。

 この浮島の特産品のアナザー羽毛さんなんだけど、村のあちこちで偶発的に発生して、空中を漂っているのをNPC達が捕縛して回っていたんだけど、そうやって捕縛したアナザー羽毛さんの量の倍、いや3倍近い量がその羽根の内側にびっしりくっついていた。


「ここで休息していると、私の羽根の中にこいつらが集まってきて、こんな状態になるのです。私にとってみればゴミみたいなものですけど、プレイヤーであるフリフリ村長様にとっては、重要なアイテムだと思いますので」

「そうだね、確かにこれはありがたいよ」


 俺がそう言うと、その後方に控えているエカテリナとグラシーズさんは、


「焼き鳥要員のくせに、生意気なんだからね……」

「焼き鳥要員のくせに、役にたつなんて……」


 そんな言葉を呟きながら、舌打ちを繰り返していて……


「おいおい、トリセンバーグもようやく改心して俺達の役にたとうてしてくれているんだし、受け入れてやろうよ」


 苦笑しながら二人へ視線を向けた俺。


「ま、まぁ……旦那様がそういうんなら、仕方ないから仲良くしてあげるんだからね!」

「不本意ですが……フリフリ村長様のご命令でございますし、仕方ありませんね」


 そんな事を口にしながら、ようやく納得してくれた2人だったんだけど……なんか、今度も色々と問題を起こしそうだな、トリセンバーグってば……


◇◇


 その後、NPCのみんなが総出で、トリセンバーグの羽根の内側にこびりついているアナザー羽毛さん達を回収していった。

「この調子だと、かなりの量が収穫出来そうだな」

「そうですね。集まりました、すぐにメタポンタ村へ輸送するよう手配しておきますわ」

「ありがとうグラシーズ、よろしく頼むよ」

「はい、お任せくださいませ、フリフリ村長様」


 恭しく一礼するグラシーズさん。

 んで、後の対応をグラシーズさんにお任せして、今度はスローライフ世界へ向かうことにした俺。

 

「じゃあ、行こうかエカテリナ」

「えぇ、仕方ないからお供してあげるんだからね!」


 そんな会話を交わしながら、一度メタポンタ村へ戻った俺とエカテリナ。

 部屋の中に、新たに出現していた、

『スローライフ世界への扉』

 を開けて、その中へ入っていった。

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