2つのNEW その4

「……わぁ」

 

 しばらく無言だったエカテリナが、ようやく発した言葉がそれだった。

 それまで、目の前の光景を見つめながら固まっていたエカテリナなんだけど……


「いい……とってもいいんだからね、ここ!」


 どうやら、スローライフ世界で取得した俺の土地のシチュエーションをことのほか気に入ってくれたみたいだ。

 ちなみに、スローライフ世界で新たに取得した俺の土地は、広大な森の中程に位置しているんだけど、目の前にでっかい湖が広がっている。

 んで、その湖の一角がまるまる俺の土地ってことになっていた。


「思ったより広いんだな。それに、湖もけっこうでかいし、それに何よりロケーションがすごくいいな」


 湖の周囲は森で囲まれているんだけど、湖そのものがでかいもんだからあまり閉塞した感じはなかった。

 その湖に面している俺の土地には、木製の船着き場がすでに設置されていて、その先に木製のボートまで置かれていた。


「旦那様! このボートに乗って湖上デートしてあげてもいいんだからね!」


 って言いながら……すでにボートに乗り込んでいるエカテリナ。

 ディルセイバークエストの世界の中ではいつもツンデレな言動を心がけているエカテリナなんだけど、今の彼女は思いっきり童心にかえっている感じだった。


「わかったよ。んじゃ、行ってみるか」


 遅れてボートに乗り組んだ俺。

 オールは当然俺が持ったわけなんだけど、そんな俺と対面式に座ったエカテリナは、頬を上気させてワクワクしっぱなしの状態だった。


「よし、いくぞ」


 俺がオールを漕ぎはじめると、ボートはゆっくりと湖上へ進みでた。

 湖の透明度がかなり高いみたいで、結構深いところまで見えているみたいだ。



「旦那様! お魚! お魚が泳いでいるのが見えるんだから!」


 子供のようにはしゃぎながら、湖の中を見つめているエカテリナ。

 右手を湖面に少しつけて、その感触も楽しんでいるみたいだ。

 俺が漕いでいるオールにも、水をかいている重さが伝わってきいているし……ホント、すっごくリアルに作りこまれているなあ、と感心してしまった。

 こうやって、女の事一緒にボートに乗るのって、学生時代に何度かあったくらいだな。

 当時付き合っていた彼女と、何度か一緒に乗ったんだけど……その彼女には二股かけられていて、結局向こうにとられたんだよな。

『武藤くんって、いい人なんだけど、普通過ぎて刺激がないのよね。それに付き合って間もない頃から結婚を意識してるし、正直重いのよ』

 っていうのが彼女の別れの言葉だったんだけど……その彼女は、その時選んだ彼氏とは違うヤツと結婚したものの、そいつとも2年で破局して……それから3回破局を繰り返して、全員父親の違う子供を3人連れて、今は実家に引きこもっているって、同窓会で話題になってたっけ……

 

 そんな事を考えながら、エカテリナの事を見つめていた俺。

 こいつが、ディルセイバークエストの世界での俺の嫁で、子供までいるんだよな……

 そんな事を考えていると、妙に照れくさくなってしまうというか……


「さ、さて……湖を一周したら、あの土地をどうするか考えようか」


 そう言うのが精一杯だった。

 そんな俺に、


「えぇ! わかったわ!」


 と、笑顔で応えるエカテリナ。

 湖面に反射している陽光をバックにしているその笑顔が、反則的に可愛くて……俺は思いっきり惚れ直していた。


「あ、あのさ……エカテリナ」

「何かしら?」


 怪訝そうな表情を浮かべているエカテリナの肩をそっと抱き寄せてみた。

 エカテリナは、抵抗することなく俺に身を寄せてきた。

 んで、そんなエカテリナに、俺はそっとキスをした。

 

◇◇

 

 俺の土地に戻った後……どうにも照れくさくて、エカテリナの顔をまっすぐ見る事が出来なくなっている俺。

 そんな俺の横では、顔を真っ赤にして俯いているエカテリナの姿があった。

 そりゃ、湖上であんな事をしてしまったら、そうなるよなぁ……

 そんな状態でも、俺の後方きっちり3歩下がってついてきているエカテリナ。

 良妻賢母のため、って言っているエカテリナなだけど……ここまで徹底していると、それが当たり前に思えてくる。


 そんなエカテリナと一緒に、俺が新たに取得した土地を歩いて回った。

 広さ的にはメタポンタ村とほぼ同じくらいなんだけど、土地の三分の一くらいが砂浜になっているので、その領域を開拓したりすることが出来るのかが、今のところ不明だったりする。


 土地をクリックすると、クリックした土地の上にウインドウが表示された。

 そこには、


『この土地を開拓しますか? はい/いいえ』


 って書かれていた。

 

「まぁ、ここは当然『はい』だよな」


 すると、そのウインドウの上に、重なるようにして新たなウインドウが表示された。


『ここに何をつくりますか?


・畑

・家屋

・通路

 ・

 ・

 ・

          』


「へぇ……選択肢が結構多いんだな」


 しかも、選択する度に新たなウインドウが表示されるもんだから、終盤は結構疲れ気味になっていた。

 そんな作業を繰り返して、土地の中に、


 倉庫を二棟

 畑を五区画

 それをつなぐ通路

 土地の周囲を囲む木柵

 

 とりあえず以上の物を造っていった。

 この作業にはゲーム内通貨が必要なんだけど……交易とかを頑張っているおかげなのか、ゲーム内通貨が結構たまっているんだよな。

 狩猟をメインにしてプレイしていれば、新たな武具を購入するのにお金がかかるし、高性能な武具は当然高いわけだし、結構お金が必要になるみたいなんだけど、内政プレイをしている俺の場合、最初にメタポンタ村内にあった廃屋を買い取る時以外にはそんなにお金がかかってないんだよな。

 しかも、メタポンタ村の交易が軌道にのると、ログインする度に結構な額のお金が増え続けていた。


『お金もたまったし、初期投資の際に貸してもらったお金を返すよ』


 って、リアル世界で、小鳥遊に言ったことがあるんだけど、


『あ、あの村は、わ、私と武藤係長、二人の物なので……』


 って言って、絶対にお金を受け取ろうとしなかったんだよな。

 ちなみに、狩猟をメインにしている(……最近は俺と一緒に内政の方ばかりしているような気がしないでもないんだが……)、そんなエカテリナなんだけど、彼女はいつもイベントで上位に入賞していたもんだから、賞品でレアな武具を大量にゲットし続けているもんだから、お金を使う事がほとんどないみたいなんだよね。

 

 そんな事を考えながら、土地をクリックしながら回っていたんだけど……


「あれ? こんなところに家を建てることが出来るんだ」


 そこは、ボートの船着き場がある一角だった。

 家の居住が可能って表示されている一角って、一部湖にかかっているんだけど、


「これって、湖の上に家を建てることが出来るってことなのかな?」


 ウインドウを見つめながら、腕組みをして考えを巡らせていると、


「あ、あの……旦那様……」


 モジモジしながら、俺に声をかけてきたエカテリナ。


「ん? どうかしたのかい?」

「そ、その……そ、そこに家を建ててもいいんだからね!」


 最初こそモジモジしていたものの、最後はいつものように胸をはってツンデレ口調に戻っていたエカテリナ。

 そういえば、湖の側に家を建てるのが夢だったって言ってたっけ。

 リアル世界では難しいけど、今、この土地ではそれが可能だとわかったわけだしな。


「わかったよ。じゃあ、ここに家を建てるとするか」


 そう言って、俺はウインドウ内の『はい』をクリックした。


 すると、区画一帯が幕で覆われて、その上部に『建設中』って文字が表示された。

 しばらく、トンカンと工事をしている音が響いた後……


「わぁ!」


 幕が消え去った後の光景を見つめながら、目を輝かせているエカテリナ。

 そこには、湖面に柱を延ばした状態になっている高床式の家が出来上がっていた。

 一階部分は湖に面しているため部屋とかはないんだけど、船着き場が建物の真下になっていて、家の中からそこに降りるための階段が設置されていた。

 んで、実質1階部分にあたる2階と3階が居住空間になっているみたいだ。


 早速家の中を確認しようと歩き出すと、そんな俺の腕をエカテリナが掴んだ。


「あ、あの……旦那様……」


 俺の顔を見ながら、真剣な表情をしているエカテリナ。

 ん? 何かあったのか?

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おっさんですが、巨乳でコミュ障な年下女と新婚生活はじめました~ゲームの中のお話ですが…… 鬼ノ城ミヤ @kinojomiya

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