姉妹村出来ました その4
「えっと……別に使うのはいいんだけど、そのもくもく島とか浮糸の毛玉って、なんなんだい?」
「え? もくもく島をご存じないんですか? もくもく島っていうのは雲の上に存在している浮遊大地のことでして、その下部が常に雲に覆われているせいで地上からはなかなか見つける事が出来ないのですが……」
テテが色々と説明してくれているんだけど……俺の後方3歩下がった位置に立っているエカテリナが、俺の目の前にウインドウを表示した。
そのウインドウは、ディルセイバークエストの用語集のページだったんだけど、その中の『もくもく島』の項目が表示されていて……って、ちょっと待って……これって更新日が昨日じゃないか……
フト見ると……俺達の様子を眺めていたファムさんがそっぽを向いて口笛を吹いているんだけど……これってひょっとしてファムさんの中の人の古村さんが言っていた『内政の大規模なアップデート』の1つってことなのかもしれないな。
その事に思い当たった俺は、
「説明ありがとう。じゃあ、この浮き糸の毛玉だけど好きに使ってくれていいからさ」
それ以上細かい事を詮索するのは辞めて、もくもく島で収集した毛玉を全てテテに手渡した。
NPCであるテテが欲しがるって事は、何かのイベントにつながるかもしれないしね。
「わぁ、ありがとうございます! 早速、商品開発に入らせて頂きますね!」
毛玉を受け取ったテテは、満面の笑みを浮かべながらお礼を言うと、その足で倉庫へ向かって駆け出していった。
その先で、荷物の運搬をしていた木人さんと何やら相談をはじめたみたいだけど……とりあえず、後はテテにまかせておけば大丈夫だろう。
「さて……となると、今度はあのもくもく島に住む人を決めないといけないな……村を作るとなると、それなりに人が必要になるだろうし……それに、ログインの街の新しい店も繁盛しているみたいだし、そっちにも人を補充した方がいいかもしれないし……それに、この村もあれこれ忙しくなってきているし、人手を増やした方がいいかもしれないし……」
「そうね、フオドーハのところで仲間キャラを補充した方がいいんじゃないかしら」
エカテリナの言葉を聞きながら、ウインドウを表示していく俺。
この村のステータスを確認しようとしたんだけど、
「……あれ?」
表示内容を確認した俺は、思わず首をひねった。
なんか……ウインドウの上部にタブが追加されていて、新しく出現したタブには
『姉妹都市(準備中)』
の文字が書かれていた。
そのタブをクリックすると……ウインドウ内に、さっきまで俺達が滞在していたもくもく島のヴィジュアルが表示されて、その横に文字が並んでいた。
そこには、
『もくもく島 No001 【仮称】』
と書かれていたんだけど……仮称ってことは、ひょっとして俺が名前を付けないといけないのか?
「……まぁ、名前といっても、メタポンタ村の姉妹都市なんだから『メタポンタ村2号』とかでいいんじゃないかな……」
そんなことを呟いた俺。
すると、俺の元に駆け寄ってきたクーリとフリテリナが、
「え~……パパ、その名前はちょっと……」
「お父様なら、もっと素敵な名前を付けてくださると信じてますわ!」
2人揃って微妙な表情を浮かべながら俺を見つめてきたんだけど……え? 何? これって駄目だしされてるってこと?
なんか、その後方ではファムさんまで微妙な笑みを浮かべているし……
「そ、そんな事はないわよ! わ、私はそれなりに素敵な名前だと思っているなからね!」
エカテリナ……『それなりに』って事は……やっぱりお前も微妙だと思っているんだよな……
その事に気がついた俺は、苦笑することしか出来なかった。
「ま、まぁ、姉妹村の名前についてはまた改めて考えるとして……」
頭をかきながら、そんな事を言っていると……俺の頭上に張り付いたままの羽毛さんが、俺の頬を羽根でちょんちょんとつついてきた。
「ん? どうしたんだい、羽毛さん?」
俺がそう言うと、羽毛さんはイヤイヤするかのように体を左右に振っていった。
「え? 何か嫌なのかい? ……って、まさか、羽毛さんも名前を付けてほしいとか……」
まさか、と思ってそう言ってみたんだけど……その言葉を聞くなり、嬉しそうに羽根をばたつかせていく羽毛さん……って……え? 羽毛さんの名前も考えないといけないわけ? ってか、もう羽毛さんでいいんじゃないの?
羽毛さんの様子に苦笑していると……テテと話をしていた木人さんまで、すごい勢いで俺の方に向かって駆けてくるのが見えたわけで……あぁ、これって木人さんの名前も考えないといけない流れなんだろうな、きっと……
壊滅的なネーミングセンスしか持ち合わせていない俺は、ただただ苦笑することしか出来なかったわけで……
◇◇
「……はぁ、まいったまいった……」
ログイン用のヘルメットを外した俺は、思わず苦笑を浮かべていた。
「まさか、また名前を考えないといけなくなるとはなぁ」
俺がそんな事を口にしていると、俺に送れて小鳥遊もヘルメットをはずしていった。
俺の膝の上に座っている小鳥遊は、俺がぼやいているのに気が付いたらしく、
「あ、あの……わ、私も一緒に考えますので……」
そう言いながら、背中を俺に預けてきた。
……なんかいいな、こういうのって
無意識なのかもしれないけど、俺に背中を預けてくれているってことは、それだけ俺の事を信頼してくれているって事なんじゃないか、と、思えるわけで……
そんな小鳥遊を、背後からそっと抱きしめた俺。
なんか、そうしたくなったというか……出会ってすぐの頃の小鳥遊だと、コミュ障がひどすぎて、こんな事をしたら即座に張り手を喰らわされていたと思うんだけど……っていうか、そもそも俺の膝の上に座る事がそもそもあり得なかったと思うし……
……ただ
俺に対してはずいぶん慣れたとはいえ、やっぱり恥ずかしいらしく背後から見てもわかるくらい、小鳥遊は耳や首筋まで真っ赤にしていたわけで……
そんな状態になりながらも、スマホで命名サイトを検索している小鳥遊。
「あ、あの……こ、こんなのはどうでしょう?」
「ん? どれどれ……」
小鳥遊の肩ごしにスマホの画面を確認する俺。
必然的に、俺の顔と小鳥遊の顔が真横に並ぶ格好になったんだが……どちらからともなく見つめ合う格好になっていって……気がついたら、俺と小鳥遊は唇を重ねていた。
そうだな、予行演習もかねて名前をつける練習もしておかないとな……
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