姉妹村出来ました その3
「しかし、こうして降りたってみると地面の上と変わりないんだな……」
時折ジャンプして足音を確認していた俺なんだけど……立っているだけだと、ここが空の上だなんて想像すら出来ない感じなんだ。
「エカテリナ、ディルセイバークエストってこんな空の島みたいなのがあるのか?」
「以前、飛来する鳥系モンスターを討伐するクエストがあったことはあったけど、こんな島なんて登場しなかったんだから……」
俺の言葉に返事を返しているエカテリナなんだけど、俺同様に島のあちこちを見回しているところだった。
ディルセイバークエストをやりこんでいるエカテリナも知らないとなると……ひょっとしたら、最近実装されたばかりなのか、内政系のイベントを進めていかないと出現しないのか……
俺が腕組をしながら考えを巡らせていると、
「なぁなぁ、フリフリ村長はん、ここどうかな?」
トリミが笑顔で話かけてきた。
「どう……って?」
「いややわぁ、フリフリ村長はんが探して来いいうてた、新しい村の候補地として、ってことに決まっとるやんかぁ」
「え?」
トリミの言葉に、思わず目を丸くしてしまった俺。
「ちょ、ちょっと待って!? ここに村を作れるわけ?」
「まだ調査途中やけど、問題なさそうやよ」
トリミは俺の言葉に笑顔を浮かべ続けている。
ってことは、だ……本当に、ここに村を作ることが出来るってことなのか……
改めて周囲を見回していく俺。
広さ的には、メタポンタ村の敷地と同じくらいの広さがありそうだ。
村の境界のあたりには土壁みたいな物が盛り上がっていて、あれが落下を防ぐ仕様になっているんだろう。
木々も生い茂っているし、畑を作れそうな平地もあるし……
「ここに第二の村を建設するのもいいかもな。現実世界じゃありえないし、なんか面白そうだ」
あらかた周囲を見回した俺は、ニカッと笑みを浮かべた。
そんな俺の言葉に、エカテリナも笑顔で頷いた。
「そうね、確かに面白そうね! 仕方ないから、アタシも付き合ってあげるんだからね!」
口調はいつものツンデレモードなんだけど、ワクワクしている様子が全然隠せていないエカテリナ。
どうやら彼女も気に入ったみたいだな。
「……しかし、この島の構造って、どうなっているんだ?」
そう思った俺は、羽毛さんにお願いして島の周囲を旋回してもらうことにした。
俺が頭の中で思考すると、それを羽毛さんが理解して行動してくれている感じなんだ。
端から見たら羽根の生えた帽子を被っているように見えるのかもしれないな……
そんな事を考えていると、俺の体は土壁を飛び越えて、再び空中へ移動していった。
そこから見ると……
「……へぇ、この島の周囲は雲で覆われているんだ」
雲の上に島がのっかっているといった表現がぴったりくる感じだった。
雲の中に入っていって、島の大地部分に触れようとしたんだけど、
『ここから先は侵入不可領域です』
途中でそんなウインドウが表示されてしまって、大地部分まで到達することが出来なかった。
多分、島を覆っている雲が消える事はないんだろうな。
しかし、その雲があるおかげで島がより幻想的に見えているのも事実だった。
島の周囲を5周した俺とエカテリナは、改めて島へ降り立った。
「どうやろ? フリフリ村長はん」
「いいんじゃないかな。 ここに新しい村を作りたいと思うよ」
「アタシもその意見に賛成なんだからね!」
俺の言葉に、エカテリナも賛同してくれた。
ちなみに、俺の後方3歩下がった位置をキープしているのは言うまでもない。
「ほな、その方向で調査を続けとくなぁ。調査終了までもうしばらく待ってなぁ」
そう言うと、トリミは島の周囲を旋回しはじめた。
メタポンタ村で新しい村の候補地を探しに行く役目を任せる相手としてトリミ・グリン・モグオの3人を推薦されたんだけど、あの時グリンやモグオを選択していたら、全く別の候補地を紹介されていたのかもしれないな。
それ以前に、ノーマルの仲間キャラを仲間にしていなかったら、そもそも選択することすら出来なかったわけだし……
更に言えば、羽毛さんを仲間にしたことで、俺まで空を飛べるようになったわけだし……まさか、そんなスキルまで手に入れることが出来るなんてなぁ……
頭上の羽毛さんを見上げながらそんな事を考えていた俺なんだけど……
「……ん?」
その時、俺はあることに気がついた。
羽毛さんは相変わらず俺の頭上に張り付いているんだけど……その周囲に何やらフワフワ浮かんでいる物体が……
「あ、あれ? ……なんで羽毛さんが他にもいるんだ?」
そう……羽毛さんの周囲に浮かんでいたのは、羽毛さんと同じ鳥の羽が球状に集まった物体だったんだ。
最初は1つだったアナザー羽毛さんなんだけど、どこからともなく新たなアナザー羽毛さんが近寄ってきて……1個が2個、2個が4個……と、まぁ……どんどんその数が増加していって……気がつけば、俺の周囲はアナザー羽毛さんで覆われていたわけで……
「ちょ……こ、これってどうなっているんだ!?」
周囲を見回しながら、思わず目が点になる俺。
見たところ、危害を加えてくる様子はない……むしろ、俺と羽毛さんにじゃれているとでもいうのだろうか、なんかそんな感じにしか見えないんだよな。
「……しかし、アナザー羽毛さんがこんなに現れるなんて……ひょっとしてこの島って、羽毛さんの故郷なんじゃあ……」
俺の言葉に、頷くかわりに羽根を元気にばたつかせる羽毛さん。
どうやら、俺の推測は間違っていなかったってことなんだろう。
改めて周囲を見回してみると……アナザー羽毛さん達は木々の枝葉の中から出現しては、俺達の方へ近づいてきているみたいだった。
アナザー羽毛さん達って、その体の周囲に薄い膜というか、すっごくきめ細やかな毛玉みたいなものがくっついているんだけど、俺達にすりよってくる度に、その毛玉が俺達にくっついてくるんだよな。
とりあえず、その毛玉はすべてストレージの中へ収納して毛玉まみれになるのを防いでいたんだけど……
「うわ、ちょっとこれはキリが無いな……」
俺達にじゃれて毛玉をくっつけては木に戻り、新たな毛玉を体にくっつけて再び戻ってくるアナザー羽毛さん達を前にして、タジタジになってしまう俺。
「え、エカテリナ……今日のところはメタポンタ村に戻るとしよう」
「そ、そうね、それがいいと思うわ」
エカテリナもまた、俺達同様に毛玉まみれになっていたもんだから、俺の言葉にすぐに賛同してくれた。
そんなわけで……雲島【仮称】の調査をトリミにまかせて、俺達はメタポンタ村へ戻っていった。
「いやぁ、しかし……さっきまで雲の上にいたなんてちょっと想像出来ないよな」
村の広場に降り立った俺は、思わず苦笑を浮かべていた。
「そうですわね。雲の上まで上昇することなんて考えたこともなかったから、とっても新鮮だったんだからね」
「そうなんだ……せっかく飛翔スキルを持ってるのに、行ってみようと思ったりしなかったのかい?」
「えぇ、だってこのスキルはモンスターを討伐するためのものって認識だったんだから」
まぁ、でも……エカテリナの考えの方が正しいのかもしれないな。
このディルセイバークエストは、あくまでもモンスター討伐がメインのゲームなんだし……
とはいえ……
あんなところまで作成してあるって事は、そこまでたどりつくプレイヤーがいるって仮定されていて、そのためにプログラムが用意されていたってことなんだろうし……このディルセイバークエストはモンスター討伐を売りにしているけど、それだけじゃないって事なんだろう。
実際、内政専門のスタッフも存在しているわけだしね。
そんな事を考えている俺の元に、テテが駆け寄ってきた。
「やぁ、テテ。ただいま」
右手をあげて挨拶をした俺……なんだけど、テテはそんな俺の挨拶を無視して、俺の体に手を伸ばしてきて。
「ちょ、ちょっとフリフリ村長さん!? これって、もくもく島の特産品『浮糸の毛玉』じゃないですか! これ、いったいどこで入手なさったんですか!? これ、もっと大量に手に入りますか!? これ、使わせてもらってもいいですか!?」
いつも冷静なテテが慌てているもんだから、俺まで目を丸くしてしまっていたんだけど……え? もくもく島? 浮糸の毛玉?
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