色々おかしいというか その5
店が繁盛しているのには2つ理由があると思う。
1つは、イベントに有利なレアアイテムを扱っているから。
もう1つは、そのレアアイテムの事をエカテリナが宣伝しまくってくれているから。
エカテリナによると、
「イベントを有利に進めるためのアイテムって、ドロップアイテムでしか入手出来ないって言われていたんだからね。NPCの店でも取り扱いがなかったし。
入手するには、ひたすらイベントモンスターを狩りまくるかドロップがダブった人が取引掲示板にアップしたのに入札するしかなかったんだから」
ってことらく、俺の店のようにイベントを有利に進めることが出来るレアアイテムを定期的に販売している店っていうのは前代未聞らしいんだよな。
まぁ、イベントやモンスター狩りに興味がない俺としては、みんなのお役に立てればそれでいいって気持ちなんだけど……ただ、それでもやっぱりエカテリナの役にたちたいと思うのは旦那として当然の気持ちだと思っているわけで……
そんな事を考えながら街道を歩いていると、ログイン広場の2箇所に人だかりが出来ているのに気がついた。
1箇所は、メタポンタ村の新しいアンテナショップ。
で、もう一箇所は……
「あぁ、あそこはイベントフィールドへ瞬時に移動出来る門(ゲート)があるんですよ」
「へぇ、そうなんだ」
エナーサちゃんの説明を受けて、改めてその人だかりの方へ視線を向けると、プレイヤーのみんなが列を成しているその先に、大きな門が設置されていて、その中に次から次へと人が入っていっていた。
あの門って、俺の家に出来たロックトータスの別荘へ行き来出来る扉みたいなものなのかもしれないな。
「……でも、門に人が殺到しているのってあんまり記憶にないんだけど……」
「多分ですけど、フリフリ村長さんのお店が原因なのではないかと」
「俺の店?」
「はい、フリフリ村長さんのお店でイベントを有利に進めることが出来るアイテムが販売されていると、多くのプレイヤーさんが知りましたので、ログインしたらまずフリフリ村長さんのお店に向かって、買い物を済ませてからイベントフィールドに向かう人が増えたんだと思います」
「そうね。今までだと、イベントフィールドの中に宿営地を設営して直接ログイン出来るようにする人がほとんどだったはずなんだから」
エナーサちゃんの言葉に、エカテリナも納得した様子で頷いている。
「……俺の店がそんな影響力を持ってるなんてなぁ」
2人に言われても、あまり実感がなかったんだけど……改めて人の動きを注視していると……
ログイン広場の中央に、ログインして出現
↓
俺の店に直行
↓
店を出ると門へ直行
ほとんどのプレイヤーが同じ動きをしていたわけで……
「まぁでも、みんなの役にたてているのなら俺も嬉しいな……その分、エカテリナがランキング上位に行きにくくなるのは複雑な気持ちなんだけど……」
俺が苦笑していると、エカテリナが右腕を突き上げた。
「そんな心配は無用なんだからね! もう一回行って、ちょっとごぼう抜きにしてくるんだから!」
そう言うが早いか、背に天使の羽根を出現させたエカテリナは、空に向かって飛翔していった。
その姿が見えなくなってから数分後……
「お、おいイベントランキング掲示板を見て見ろよ」
「エカテリナがすごい勢いで順位を上げてるぞ」
「マジか……上位陣は今もポイントを稼ぎ続けているっていうのに……」
門の前に並んでいるプレイヤー達が、そんな言葉を口にしはじめていたわけで……
俺もランキング掲示板を確認したんだけど……俺の目の前でエカテリナの名前がトップ10の中に入っていったわけで……いや、マジですごいなエカテリナってば……
改めてエカテリナのすごさを実感した俺だった。
◇◇
メタポンタ村へ戻った俺は、一足先にログアウトした。
ヘルメットを外した俺。
俺の膝の上には、小鳥遊がちょこんと座っている。
背中を俺に預けて、無防備なことこの上ない姿勢の小鳥遊。
それだけ、俺の事を信頼してくれているって事なんだろうけど……とはいえ、それなりの事はすでにいたしてしまっているわけで……その信頼をすでに破壊してしまっている気がしないでもないんだけど……
「とはいえ、責任はしっかり取るつもりだしな……」
ヘルメットを被ったまま、ゲームをプレイし続けている小鳥遊。
そんな小鳥遊を、俺は背後からそっと抱きしめた。
気のせいか、小鳥遊の体が一瞬強ばった気がしたんだけど、すぐに硬さがほぐれ、俺に体を預けてきた。
心なしか、露わになっている胸元まで真っ赤になっている気がしないでもないんだけど……そんな小鳥遊の様子を見つめながら、いつしか俺は眠りに落ちていた。
この日、エカテリナが信じられないポイントを稼ぎ出し、ランキングトップに躍り出たことを知ったのは翌朝の事だった。
◇◇
翌朝、仕事中に内線電話がなった。
「はい、武藤です」
『お疲れ様です、東雲です。今、お時間よろしいでしょうか?』
「えぇ、大丈夫ですよ」
『お知らせがありますので、人事部までご足労願えないでしょうか?』
「はい、わかりました」
はて? ……人事から呼び出しって……俺、何かやらかしたか?
最近は、東雲課長のお供としてあちこち出張してた以外は、ごくごく普通に仕事をこなしていただけなんだが……部下のみんなも特に問題を起こした風はなかったはずだし……
着任早々の頃、配属されたばかりの女の子が不倫騒動を起こしたことがあったけど、あの時は結構な修羅場だったよなぁ……
そんな事を思い出しながら、人事部へと顔を出した。
「お呼びだてして申し訳ありません」
出迎えてくれた東雲課長に、奥の応接室へ通された俺。
「早速なのですが……」
そう言うと、東雲課長は俺に冊子を手渡した。
「……『新営業部の立ち上げについて』ですか?」
「はい。実は以前から内々にプロジェクトが進行していまして、私がその根回しをしていたのですが、ようやく実現出来る目処が立ったんです」
俺の会社は営業がメインなわけで、営業部は会社の主力なわけだ。
そこに新しい営業部を立ち上げるとなると、会社がそれだけ期待を寄せているってことに他ならない。
だからこそ、エリートコースど真ん中な東雲課長に白羽の矢が立ったってことなんだろう。
手渡された資料を確認していた俺。
組織図によると、トップの営業部長には東雲さんが昇格するみたいだ。
20代で、主力の営業の部長に抜擢って……さすがは東雲さんだなぁ。
まぁ、彼女の今までの実績から言えば当然といえば当然だろう。
最近、ディルセイバークエストにログインしていなかったのも、新営業部の立ち上げ作業で忙しかったからなんだろうな。
「……ん?」
その組織図を確認していた俺は、ある事に気がついた。
組織図の中に、俺の名前がある……それも、東雲さんのすぐ隣に……
「……つきましては、武藤係長に部長補佐に就任して頂き、私の補佐をお願いしたいと思っているのですが、いかがでしょうか?」
いつもの微笑を浮かべている東雲課長。
そんな東雲課長の前で、俺はおそらく唖然としてあんぐりと口を開けていたと思う……って、ちょっと待って、俺が? 部長補佐?
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