まぁ、しょうがない……のか? その3
「あ、そういえばひろっち、ドラゴンの村のイベントをクリアしてたよね?」
「あ? あぁ、そうだけど……」
「あの時さぁ、『ドラゴンの村のイベント 開始』とか『ドラゴンの村のイベント クリア』とか、出なかったことなくない?」
「あ……そ、そうなんだよ、うん」
古村さんに言われて、俺は目を丸くしました。
そうなんだ……今まで突発的なというか、隠しイベント的なものが発生する時には必ずウインドウが表示されていたんだけど、ドラゴンの村のイベントに関してはそれが一度も表示されなかったんだ。
「そうなんだよ。それで、機会があったら古村さんに聞こうと思っていたんだよ」
「あ~、やっぱりかぁ……」
あちゃ~、っていった具合に、額に手を当てながら天井を見上げている古村さん。
「実はねぇ……あのイベントってば、超レアイベントなんですよねぇ……以前、一緒に内政イベントの管理を担当していた同僚のさとこっちがやってたんだけど……さとこっちってば、ある日『探さないでください』って書き置きを残して消息不明になっちって……イベント発生モーションとかが未完成のままだったみたいなのですよ」
腕組みをしたまま、うんうんと頷いている古村さんなんだけど……ちょ、ちょっと待ってくれ……そのさとこっちさんって人がその後どうなったのかが気になって、その後の話の内容が全然頭に入ってこないんだが……
「そんなわけでですね、その辺りに関してはボクが修正パッチをあてておくから、それが終わるまでは、ドラゴンの村との交易で得た品物は売買しないでほしいのですよ」
「そういえば……スーガ竜からもらったアイテムがすっごい能力だって、エカテリナも言ってたもんな」
……あれ? ちょっと待てよ
「……あのさ、古村さん」
「なになに? ひろっち」
「ドラゴンの村のアイテムなんだけど……とりあえず1つだけ、人にあげちゃったんだけど、それも回収した方がいいのかな?」
そうなんだ。
あのアイテムってば、エカテリナにあげちゃってるんだよね。
この状態だと、それも回収して一度返還した方がいいのかも……
俺がそんな事を考えていると、古村さんは、
「あぁ、あげちゃったものは仕方ないから。うん、後はどうにかしておくよ」
って……なんか、すっごくお気楽に笑っていたわけでして……
ま、まぁ、プログラム担当の中の人がそう言っているんだから、まぁ、いいんだろう。
そう納得した俺。
そんな俺の前で、古村さんはニパッと笑みを浮かべると、
「んじゃ、ボクは部屋に戻って修正パッチをあてておくのです、なるはやで!」
ボクに向かって手を振りながら部屋を出ていったのですが……
その後ろ姿を見送っていた俺は、何か重大な事を忘れているような気がしていました。
部屋を出ていく古村さんの後ろ姿を見送っている俺。
その視線を下へ移動させていくと、そこに……生まれたてのお尻が……
「って、古村さん! 下着とズボンはき忘れてる!」
トイレの前の廊下に放置されたままになっていた古村さんの下着とズボンを回収した俺は、古村さんの後を慌てて追いかけていった。
◇◇
「……はぁ……なんか、どっと疲れた……」
部屋に戻り、ソファに座った俺は、天井を見上げながら大きなため息をついた。
そんな俺の前に、小鳥遊がコーヒーの入ったカップを置いてくれた。
「あ、あぁ、ありがとう小鳥……」
その名前を呼びかけて、俺はぎょっとなった。
コーヒーカップを机に置いた小鳥遊なんだけど……その顔には笑顔が浮かんではいるものの、その背後には絶望のオーラモーションが透けて見えるような……
……うん、明らかに怒っているな、これ……
「……あの……先ほどの女性は、いつもああやって来られているのですか?」
「え? あ、いや、そんな事は無いぞ。トイレを借りに来たのだって、今日がはじめてだし……」
「……でも、あの人って、以前、一緒にお出かけした際にも、部屋を訪ねてこられていましたよね?」
……い、いや
や、やましいことは微塵もないんだが……なんだろう……小鳥遊に言葉で責められる度に、なんかこう……すっごい罪悪巻がこみ上げてきているんだが……い、いや、マジでやましいことは微塵もないんだが……
……で
「……とにかく、だ。古村さんとはゲーム友達で、それ以上でもそれ以下でもないから」
何十回目かの言葉を口にした俺。
そんな俺を、いまだにジト目で見つめ続けている小鳥遊。
「……」
その、無言のため息がすっごいプレッシャーなんだけど……
そんな事を考えている俺の前で、小鳥遊は自分の部屋へ移動していった。
小鳥遊の部屋と言っても、元々俺の部屋なわけなんだけど、そこに一度入った小鳥遊は、その手にログイン用のヘルメットを持って戻ってきた。
「……あの人の件は、理解しました……だから……しよ?」
「あ、あぁ、わかった」
上目使いで俺を見上げてくる小鳥遊。
その手に、ゲームのヘルメットを持っていなかったら、別の意味にとってしまいそうな言葉を口にしながら俺に近づいてきたんだけど……
「……あ、あの小鳥遊?」
いつもは、俺の足の間にちょこんと座る小鳥遊なんだけど……どういうわけか、今日の小鳥遊は、座る場所は同じなんだが、向きが逆……そう、俺に向き合う格好で座っているんだ。
結果的に、俺に抱きつくような格好になっている小鳥遊。
むにゅ
って……こ、この体制だと、必然的に小鳥遊の胸が俺に押し当てられてしまうわけで……さ、さすがにこの体制はまずいというか……
「あ、あの、小鳥遊……この体制は……」
そう言いかけた俺なんだけど……小鳥遊ってば、すでにヘルメットを被ってログインしちゃってる!?
何度かヘルメットを叩いてみたんだけど、反応はなかった。
「……はぁ、仕方ないか……」
諦めた口調の俺。
とっととログインして、ゲームに集中しないとマジでおかしくなってしまいそうだ……
体を動かして、座りやすい位置に移動する俺。
すると、小鳥遊の体も動いてしまい、その胸が俺の体に押し当てられて……
「はぅ、ん……」
って……た、小鳥遊……そ、そこでその艶っぽい声がはまずいだろう!?
「い、いかんいかん、早くログインしないと」
俺は、ソファの上に置いてあるヘルメットを手に取って、それを被っていった。
そんな俺の膝の上に座っている小鳥遊。
少し頬が赤くなっているように見えるのは、さっき胸に変な感触が伝わったからだろうな……しかし、職場の上司でしかない俺を信頼して、ここまで無防備な姿をさらすなんて……
「……その信頼を裏切るような事をしちゃいけないよな、うん」
小さく呟きながら、ヘルメットを被った俺。
◇◇
程なくして……俺の目の前に、最近では見慣れた天井が映し出された。
うん、間違いなく、ゲームの中のベッドの上にある天井だ。
……すると
眼前にいきなりウインドウが表示された。
ピロン
『ドラゴンの村のイベント 強制スタート』
ピロン
『ドラゴンの村のイベント クリア』
ピロン
『ドラゴンの村のイベントをクリアしたことにより、村のレベルが……』
と、まぁ、怒濤のように、俺の目の前にウインドウが重なっていくわけで、
「なんだ? なんだ?」
その光景に目を丸くした俺なんだが、同時に部屋の中にテテをはじめとした村のみんなが駆け込んできて、
「村のレベルアップおめでとうございます!」
「さすがフリフリ村長様!」
「おめでと~!」
「パパ、さすがベア!」
「妾が主と認めた男じゃしな、これぐらい当然の結果なのじゃ!」
ポロッカやラミコも加わって、僕を取り囲みながら拍手をし始めました。
周囲には、紙吹雪のモーションも発動していて……ひょっとしてこれって、古村さんが言っていた修正パッチの影響なんだろうか……だとしたら、ちょっと雑過ぎないか? これ? 未発動だったヤツを一気に全部消化しちゃおう、って……
そんな事を考えながらも、祝福してくれているみんなに向かって笑顔で手を振り返していた俺だった。
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