改めて竜の村へ……って、あれれ? その6

 スーガ竜と交易所の建造の件で少し打ち合わせをした俺。


「では、その方向で準備してまいりますね」


 話合いを終えたスーガ竜は、俺と握手を交わしてから笑顔で飛び去っていった。

 途中、俺の後ろに立っていたブランの方へチラチラ視線を向けていたのは言うまでもなく……そんなスーガ竜を見つめていたブランはというと、


「主殿……あの者は、なぜ私を時折見つめているのでしょう?」


 って言いながら首をひねり続けていたわけで……スーガ竜の好意は微塵も伝わっている様子がなかった。


 ……まぁ、そうだな……ドラゴンの村の村長のヤーシュウ竜に正体がばれそうになっている気がしないでもないだけに、当分の間はこのままにしておくのがいいかもしれない……スーガ竜には申し訳ないけど……


「うむ? 主殿、どうかなさいましたか?」

「あ、いやいや、何でも無いんだ、なんでも」


 そんな会話をブランと交わしていると、


「フリフリ村長様」


 テテが俺の元に歩み寄ってきた。


「では、先ほどのお話通り、エルフ族の村の交易所の隣にドラゴンの村の交易所を建造する方向で準備させていただきますね」

「あぁ、すまないけどよろしく頼むよ」

「お任せください! 明日、フリフリ村長様がログインされるまでに、しっかり準備を整えておきますので」


 スーガ竜との打ち合わせにも参加してくれていたテテは、そう言うと右腕で力こぶを作って見せてくれた。

 これってNPCの固定モーションの1つらしくて、ポロッカがよくやる力こぶポーズと仕草がそっくりだった。


 こういったところを見ていると、やっぱりこの世界はゲームの中なんだなぁ、って改めて実感してしまう。

 逆に、こんな事でもないと、まるでこの世界で生きているような……そんな感覚になってしまうこともあるわけで……そりゃみんながはまるわけだよな、って改めて実感してしまった。


「しかしあれだな……時間が時間だし、今日もログインの街へ行くのは無理そうだなぁ」


 交易は、リザード族の村と続いているので、街の店で販売するのも問題ないわけなんだけど……今のところ店番が出来る仲間キャラがいないんだよな。


「そうですね……私でしたら店舗経営スキルを持っていますので可能なのですが……そうなると、フリフリ村長様が不在の間のメタポンタ村の統率を行う者がいなくなってしまいますので……」


 俺の言葉に、申し訳なさそうに肩を落とすテテ。


「いやいや、テテのせいじゃないから。むしろ、規模が大きくなっているメタポンタ村を取り仕切ってくれて、本当に助かっているんだから」

「そう言って頂けると本当に助かります……最近は、よからぬ輩がよくうろついていますので……」

「よからぬ輩?」

「はい。先ほども、ドラゴンの村へ向かわれたフリフリ村長様の後を追跡しようとしていた者達がいたので、きちんとご説明させていただいた上で、丁重にお引き取り願ったのですが……本当、村が大きくなって有名になってくるといろんなことが起きますね」


 小さくため息をついたテテ。


 その後方で土竜族のモグオがドヤ顔で胸を張っていたのが妙に気になったんだけど……丁重にお引き取り願ったって……まさか落とし穴に……そうだな、それ以上はあえて聞かないことにしておこう。


「前にも話したけど、普通に村の視察を希望してきたり、俺の話しを聞きたいってプレイヤーさんだったら、取り次いでくれてかまわないからね。内政の事を特にことさら極秘にするつもりはないからさ」


 俺としては、内政プレーを楽しんでくれる人が増えるのはむしろ喜ばしいことではあるんだけど……メタポンタ村が交易している村々って、村としてクエストをクリアしたからたどり着けるわけであって、その条件としてクエストをクリアした村の住人しか、その村に入れないわけで……俺達の後をついてこようとしたり、村に交易にやってくる村の人の後を追跡しても、その途中で見えなくなってしまうらしいんだ。


 以前、それで、


『イースの記事にある交易の村って嘘っぱちだ』

『そんな村、存在しない』


 的な噂が蔓延したことがあったんだよな。

 ただ、


『でも、リザード族の武具は実際に売ってたじゃん』

『他の村に行くには条件があるって書いてあるじゃないか』


 そんな感じで、実際に事実検証を行ったり、記事を丁寧に読み解いてくれた人たちの反論なんかもあって、今ではかなり沈静化しているんだけど、そんな事がまた起きないように、と、テテにお願いして、村の周囲にやってきて、怪しい動きをしているプレイヤー達と遭遇したら、丁寧に説明してほしいってお願いしているわけなんだけど……なんか、別の意味で心配になってきたわけで……


 改めて、テテに


『くれぐれも丁重にね』


 と、念押しをして、俺は村の中にある自宅のベッドに横になってログアウトすることにした。


 イースさんは、エナーサちゃんともうしばらく村の中で過ごすとのことだったので、ここで挨拶をして別れることにした。 

 ファムさんは今日も姿を見せなかったんだけど……新アップデートの準備が相当忙しいみたいだなぁ。

 しかしまぁ、明日はログインの街に行かないと……さすがに3日も店をほったらかしにするわけにはいかないもんな……


 そんな事を考えていた俺なんだけど……そんな俺の隣には、当然のように、エカテリナが寄り添っていて、その後一緒にログアウトしたわけで……


◇◇


 目を覚ますと……座っている俺の膝の上に、エカテリナが座っていた。


 うん……ゲームを始めた時と同じ格好だ。


 ……っていうか……小鳥遊が小柄なもんだから、俺が下へ視線を向けると小鳥遊の豊満な胸の谷間が思いっきり目に入ってくるわけで……いかんいかん、これじゃあ余計な事を考えてしまうというか……


「お疲れさん、小鳥遊」

「あ、はい……今日も一緒にプレーしてくださって、ありがとうございます」


 少しどもりながらそう言うと、小鳥遊はペコリと頭を下げた。


 時間は深夜を回っている。

 20代前半の頃の俺なら全然問題ないんだけど、もうじき40の俺には、明日の事が気になる時間ではあるものの……


「どうする、小鳥遊。家に帰るのなら送っていくけど……」


 この時間に、女の子に一人で帰れって言うほど鬼じゃないわけで、そう質問した俺。

 そんな俺に、小鳥遊は少しうつむくと、


「……あの……出来ましたら泊めて頂けたら嬉しいのですけど……」


 小さな声で、そう言った。

 その頬は赤く染まっていて、チラチラと上目使いで俺を見つめている。


 最初に俺の部屋に泊まった時の小鳥遊って、朝までゲームをしてたんだよな。

 翌日が休みだったってのもあったけど……以前の小鳥遊なら、俺と一緒にログアウトしたりしていなかったと思うんだよな。

 それに、ゲームの中でも……以前なら、俺の事を気にしながらも、レアモンスター討伐に没頭していて行動を共にする事がほとんどなかったんだけど、最近は一緒にあちこちに出向くことが増えている気がする。


「あぁ……お前がいいのなら、別にかまわないけど……じゃあ、小鳥遊はいつものようにベッドで寝てくれ。俺はソファで寝るから」

「……あ、あの……」

「ん?」

「……わ、私の方が小柄ですし……私がソファに……」

「そんな事、気にしなくていいって。さ、行った行った」


 俺に背を押されながら、寝室へ移動していく小鳥遊。


「あ、あの……それじゃあ、お言葉に甘えて……すいません」

「気にするな。んじゃ、お休み」


 俺は、小鳥遊の頭をポンと叩くと、笑顔を浮かべながらソファへ戻っていった。

 そんな俺を、小鳥遊ってば顔を真っ赤にしながら見つめていたんだけど……ダボッとしたトレーナーから、裸の足が伸びている姿ってのは……なんか、すごい破壊力だな、おい……


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