改めて竜の村へ……って、あれれ? その2
メタポンタ村にやってきて、いきなり村に住みたいって言い出したエナーサちゃん。
「あ、あの……エナーサちゃんって大手攻略サイトのグループに所属していたんじゃなかったっけ? その人たちと連絡を取るのに……」
そう口にしかけて、俺は慌てて口を押さえた。
そうだった……
エナーサちゃんってば、あのグループを首になっていたんだっけ。
心ない言葉を口にしてしまった俺は、眉間にシワを寄せていた。
間違いなく、今のエナーサちゃんは傷ついているはず……そんなエナーサちゃんの気持ちに塩を塗るような言葉を発してしまった事を悔いているものの、一度口にしてしまった言葉は覆せないというか……
額に嫌な汗を……って、このゲームってば、俺の心情を察してこういったモーションまで自動で発動させてくれるんだな……その事に半ば現実逃避しながら関してしたいた俺なんだけど……
そんな俺の前で、エナーサちゃんはニコニコ笑顔を浮かべ続けていた。
「はい、だからお約束通り一緒に遊ばせていただこうと思って、こうしてやってきたんでしゅ」
相変わらず語尾が噛んだ口調になっているエナーサちゃん。
その言葉に、違和感を覚える俺。
「……あ、あれ? 約束通りって……?」
「ほら、言ってくれたじゃないでしゅか。『俺のやってるゲームでよかったら、一緒に遊ばないか? 少しは気が紛れるかもよ』って」
頬を赤らめながら、俺を見つめているエナーサちゃん。
「???」
いや……その言葉を口にした記憶は確かにある……だが、それはエナーサちゃんに対してじゃない。
「あ……えっと……それって、俺がいつも電車で出会っている女の子に言った言葉であって……って、あれ? エナーサちゃんが、なんでその言葉を知っているんだ?」
困惑しながら首を左右に振る俺。
そんな俺の前で、エナーサちゃんはニコニコ笑顔を浮かべ続けている。
そして、はっきりした声で言った。
「だから、私がその早な【PI~】……じゃなくて、その女子高生でしゅ」
ゲーム内で本名を名乗ろうとすると発動するビープ音のせいで全部は聞き取れなかったけど……今の台詞で十分だった。うん、ゲームに疎い俺でもさすがに俺も理解した。
そう……今、俺の目の前に立っている少女な姿のキャラクターを使用しているプレイヤーこそ、電車で毎日顔を合わせている早苗ちゃんだったんだ……
エナーサちゃんも、俺が今朝スマホのスクリーンショットを見せたからわかったんだろうけど……いや、しかしだな、まさかこんな偶然が起きていたっていうか、世の中広いようで狭すぎないか……
「わ、私も信じられませんでした……グループを首になって、も、もうディルセイバークエストを辞めようと思っていた……そんな私の前に、一緒にやろうって言ってくれるが現れて……そ、その人が、げ、ゲームの中でも仲良くしてくださっていた方だったなんて……あぁ、やっぱりこれって運命でしゅ」
このゲームって、脳内で考えた言葉がキャラの言葉として発せられる仕組みになっているわけなんだけど……特に今の早苗ちゃん=エナーサちゃんってば、いつも以上にどもり、噛みながら……それでも一生懸命俺に気持ちをぶつけてきているわけで……
「……まぁ、そのなんだ……運命かどうかは別として……こうして出会ったのも何かの縁じゃないかって思うしな。これから一緒に楽しくやっていこうよ」
「は、はい! よろしくお願いしましゅ!」
「あ、でも俺って、モンスター討伐とかはしないけど、それでもいいのかな?」
「は、はい! もともとそっち方面は、運動神経が鈍くて苦手だったので、むしろありがたいでしゅ!」
俺の言葉に、嬉しそうに頷くエナーサちゃん。
まぁ、そうだな……こんなに喜んでくれているわけだし、それに一緒に楽しめる仲間が出来たわけだし……
「……この小娘が……あのクソJK……」
「……主殿にちょっかいを出す相手がまた増えるのは嫌なのじゃ……いっそここで……」
って……おいおい、エカテリナとラミコの2人ってば、俺の後ろで、何、絶望のオーラモーションと一緒に敵意を剥き出しにしてんだよ、まったく……
と、まぁ……一部で不穏な空気も発生したものの……そこは追々にってことで……
◇◇
「じゃあ、早速だけど、スーガ竜の村へ行ってみるか」
前回、ブラックドラゴン退治のイベントが、村に到着する前に終了してしまったので、まだ村に行ったことがないんだよな。
ドラゴンの村ってどんなところなのか興味があったってのもあるし、こっちからお邪魔してみようと思ったわけだ。
イベントクリアの文字が表示されていないのも、なんか気になるしね。
「はいはいはい! 私行きたいでしゅ! ぜひお願いしましゅ!」
俺の言葉に対して真っ先に手をあげたのはエナーサちゃんだった。
「そう言えば、前回も途中まで一緒だったわけだし……いいんじゃないかな」
「はい! サークルのみんなもドラゴンの集落にはすごく興味を持っていたんでしゅ……でも、私が、取材に失敗したせいですごく怒っていたんでしゅ……だから今度こそしっかりと取材を……」
「おいおいエナーサちゃん。気持ちはわからないでもないんだけど、もうサークルの取材は考えなくていいんだろ?」
「あ……あぁ、そうでした」
「そんなに気張らずに、純粋にドラゴンの村を満喫しに行こうよ」
にっこり笑う俺。
そんな俺の前で、エナーサちゃんは少し困惑した表情を浮かべていた。
「……? どうかしたのかい?」
「あ、いえ……その……今までは、いつも記事のネタを探して、そればっかり気にしながらゲームの中を走り回っていたんでしゅけど……そっか……これからは自分が楽しむためにゲームをしていいんでしゅね……」
……なんだろう……その言葉を聞いた俺は、なんかすごく複雑な気持ちになってしまった。
いや……エナーサちゃんが以前所属していたサークルが、記事のネタを求めて必死になっているのもわからないでもない。
実際、俺もその記事の情報のおかげでこのゲームの世界の情報を入手出来ているわけだし……ただ、なんだろう……まだ女子高生のエナーサちゃんがそんな世知辛いプレーをしていたというか、そんな遊び方が身に染みついていたというのが、なんか可愛そうというか……
そんな事を考えている俺の横で、エカテリナがエナーサちゃんの元に歩み寄っていった。
そして、両肩をガッシと掴むと、
「苦労したのね……でも、もう安心なさい。私と旦那様が、ディルセイバークエストを心の底から楽しませてあげるんだからね!」
……なんか、目から大量の涙を流しながら力説しはじめたわけで……
その後方では、ラミコが、
「エナーサ……なんて不憫な子なんじゃ……」
って、こっちも
エカテリナ同様に号泣していたわけで……なんか、心配していたエナーサちゃんとエカテリナ達の関係が一瞬にして雪解けしたというか……いや、でも、その気持ちもわからないでもない……むしろ、俺もそんな気持ちになっていたわけだしな。
「よし、そうと決まったら早速メンバーを決めて向かうとするか!」
「「「おー!」」」
そんな気合いを入れた後……この日の遠征メンバーを、
俺
エナーサちゃん
エカテリナ
ラミコ
の4名に加えて輸送運搬係のトリミの合計5名で決定した……の、だが。
「主殿、お側にお仕えすることになったご奉仕として我も同行させていただきたいのだが……」
「あ~……それなんだけど……」
人の姿で、俺にそう申し出てきたブラックドラゴンなんだけど……
「君はつい最近までスーガ竜の村を襲っていたわけだし、もう少し時間をおいた方が……」
「襲う? 何を言っておられるか。我は、同じドラゴン種族がいたので、一緒に運動していただけであるぞ」
……運動?
あの……討伐クエストが出る程の運動って……
あ、いや……でも……ブラックドラゴンって、スーガ竜よりも相当強いみたいだし、それに態度もどこか大きいというか、常に上から目線で威圧的な言葉遣いもしているし……真意は伝わらなかったとしても不思議ではないか……
「そうだな……飛行していけるんなら……」
「無論だ。我の事を我で出来る」
そう言うと、俺の前で斜め45度に頭を下げたブラックドラゴン。
「……ところで主殿……約束していた、我の新しい呼び名は、もう決めて頂けたのであろうか?」
……う
キャラに名前を付けるのがとにかく苦手なもんだから、この場は一度やり過ごそうと思ったんだけど……なんか、ブラックドラゴンってば、表情はクールなままなのに、尻尾がフリフリ左右に動いているわけで……あぁ、lこれってすっごく楽しみにしているってことなんだろうなぁ……
ジッと俺を見つめているブラックドラゴン。
そんなブラックドラゴンの前で、あたふたしている俺。
その後……悩むこと15分。
「じゃあ、行こうかブラン」
【ブラ】ックドラゴ【ン】から3文字とって「ブラン」……我ながら安直な名前だなぁ、って思ったものの、ブラックドラゴン改めブランは、
「主殿……こんなに素晴らしい名前を……我の予想をはるかに超えております……」
って、な、なんでそこで感涙を流しながら片膝をついているわけ!?
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