改めて竜の村へ……って、あれれ? その3
改めて、スーガ竜の村へ向かっている俺たち。
トリミがゴンドラを運んでくれていて、その横をブランが並んで飛行している。
2人とも羽根を出現させているけど、ともに人型をしているので……
(ブランを見て、大騒ぎになることはないだろう)
そんなことを思いながら、2人の様子を眺めていた俺。
……しかし、なんだな……
ゴンドラの中のエナーサちゃんってば、すっごくはしゃぎまくっているなぁ。
「わぁ! やっぱりすごい眺めでしゅ! 前回もすごかったですけど、やっぱり空からの眺めって素敵でしゅ!」
相変わらず噛みながらなんだけど、それでも楽しそうに笑顔を浮かべながら歓喜の声をあげ続けている。
前回の時は、記事にしないといけないからってんで、角度を気にしながらスクリーンショットを撮影することに気を使いすぎていて、どこか楽しそうじゃなかったんだけど……せっかくのゲームなんだし、こうやって笑顔で楽しんでもらえているっていうのがやっぱり一番だよなって思うわけで……
「旦那様……あのJKってば、すごくはしゃいでいますわよね……」
そんなことを考えている俺の元に、少し頬を膨らませているエカテリナが歩み寄ってきた。
エナーサちゃんが、俺が結果的に送り迎えしている女子高生だってわかったもんだから、色々と思うところがあるんだろう。
「まぁ、さ。サークルを追い出されて落ち込んでいたエナーサちゃんが、こうして元気になれたんだし……今日のところは大目に見てあげてよ。それに、これからは僕とエカテリナの村の住人になるわけなんだしさ」
俺の言葉を聞いたエカテリナは、頬を赤く染めていった。
「そ、そうですわね、私と旦那様の村の住人になるのですものね! あんなにディルセイバークエストを楽しんでいるJKに対して腹を立て続けるのも大人げないですものね。私と旦那様の村の住人なのですもの」
どうやら、僕とエカテリナの村って言われたのが嬉しくて仕方ないといった感じなんだけど……まぁ、結果オーライってことでいいのかな。
「そう言ってもらえると助かるよ。エナーサちゃんもさ、本当の意味でこのゲームを楽しめるようになったみたいだしさ」
「本当の意味で……ですの?」
「あぁ、今までのエナーサちゃんってさ、メタポンタ村にやってきても記事のネタを探すのに必死で、全然楽しそうじゃなかった気がするんだけど、それって、あのサークルに所属していたことで、いいネタを探さなきゃって思う気持ちが強くなり過ぎていたからじゃないかって思うんだ。それがさ……こう言っちゃ悪いけど、あのサークルを追い出されたおかげで、このゲームを始めたきっかけというか、このゲームで本当にしたかったことを、誰にも遠慮することなく出来るようになったんじゃないかな、って思うんだ。やっぱさ、自分を偽るのって、辛いと思うんだよな」
俺は、そんな言葉を口にしながらエカテリナに笑顔を向けていた。
「そういう意味では、俺、エカテリナにも感謝しているんだぜ」
「わ、私にですの?」
「あぁ、だってさ……何年も趣味らしい趣味を持ってなくて、アフターファイブを無駄に浪費し続けていた俺に、こんなに楽しいゲームを教えてくれたんだもんな。ホントにありがとな」
「え……あ、あの……そんな……わ、私は……」
俺の言葉に、いつものようにツンデレ口調で返答しようとしているエカテリナは、腰に手をあてがってはいるんだけど……いつもとは勝手が違ったみたいで、顔を真っ赤にしたまましどろもどろになっていた。
そうだな、そんなエカテリナの姿を拝見出来るのも、悪くないって思えるな、うん。
そんな僕の側に、ブランが近寄ってきた。
「主殿、少しお邪魔してもよろしいだろうか?」
「ん? どうしたんだいブラン」
「は……ちょっと気になることがありまして……」
ブランは、地上を指さした。
そこは、俺達が飛行している地点よりもやや後方だった。
「あの森の中がどうかしたのかい?」
「は……我々を追跡していると思われるプレイヤーの気配を察知しております。気配遮断魔法を使用しておりましたので、不覚にもここまでの追尾を許してしまったのですが……この失態を挽回すべく、あの者達の殲滅を許可願えるでしょうか?」
俺に恭しく一礼するブランなんだけど、
「そのプレイヤーって、イースさんだったりしない?」
俺がこのゲームの中で知っているプレイヤーと言うと、エカテリナ・エナーサちゃん・イースさんの3人しかいないわけで、今、この場にいないのはイースさん1人なだけに、俺達が出発した後でログインしたイースさんが俺達を追いかけてきたんじゃあ……そんな事を思った俺だったんだけど、
「いえ、メタポンタ村の住人ではございません」
「あ、あぁ、そうなんだ……」
ブランの言葉に、首をひねる俺。
そのプレイヤーの意図がわからないけど……気配を消した状態で俺達を追跡しているとなると、なんか尋常じゃないというか、良からぬ事を考えているのでは、としか思えないというか……
「う~ん……どうしたもんか……ブランに攻撃をしてもらって、そのせいで逆恨みをされるのもあれだし……何より無用な争い事は避けたいというか……」
腕組みをしながら考えを巡らせている俺に、エカテリナが近づいてきた。
「旦那様は、その者達をどうしたいのですの?」
「そうだなぁ……とりあえず、穏便に煙にまけたらなぁ、って思うんだけど……スーガ竜が住んでいるドラゴンの村がどんなところかわからないだけに、最初はスーガ竜と面識のある俺達だけで出向きたいというか……」
「では、放っておけばいいじゃない」
「へ?」
エカテリナの言葉に、思わず目を丸くする俺。
「放っておくって……このままだと、ドラゴンの村までついてきちゃうんじゃないの? 下のプレイヤーの人達」
「それはあり得ませんわ。すっかり忘れているようなので教えてあげるけど、村関係のクエストで出現した他の村には、クエストを達成した村の住人しかたどり着けない設定なんだからね!」
「……あ」
エカテリナの言葉に、間抜けな声をあげながら大きく頷いた俺。
……そうだった
……そ、そういえば、そんな設定があったんだっけ……
「前回、村の住人でなかったあのJKを同行なさっていたのって、村の住人でない者がクエストで出現した村に向かったらどうなるのか……それを調べるために、あえて同行させたのかと思っていたんだけど……」
「そ、そんな事、思いつきもしなかったっていうか、完全に忘れていたよ」
苦笑しながら、俺はエカテリナの手をギュッと握った。
「教えてくれて本当にありがとう、エカテリナ」
「う、うぇ……そ、その……だ、旦那様のお役にたてて、う、嬉しいわけじゃない……んじゃ、なくて……えっと……その……」
俺に手を握られたエカテリナってば、さっきよりもさらに顔を真っ赤にしながらしどろこどろになっていた。
そのまま飛行を続けていると、前方からスーガ竜が飛行してやってきた。
ちょうどその時、森を警戒していたブランが、
「おや……あの者達の気配が消えました」
そう言いながら周囲を見回していた。
どうやら、村の住人でない者はこれ以上、ドラゴンの村に近づくことは出来ないみたいだ。
「フリフリ村長様、本日はお日柄も良く! こちらから先に出向かせて頂くつもりだったのですが、ご足労をおかけしてしまい申し訳ありません」
「いやぁ、そんな事は気にしないでください。俺も、ドラゴンの村がどんなところか拝見したかっただけですので」
俺の言葉を聞きながら、嬉しそうに頷いているスーガ竜。
「そう言ってもらえると嬉しいです。さ、では、ご案内させて頂きますね」
そういうと、スーガ竜は俺達を先導するかのように飛行しはじめた。
……ただ、時折ブランの方をチラチラ見ているんだけど……ま、まさか、ブランの気配からブラックドラゴンだとバレたんじゃあ……
思わず生唾を飲み込む俺。
そんな俺の前で、スーガ竜はというと……
「……うわぁ……あの女性の人すっごく素敵だなぁ……クールで格好良くて……で、出来たらお話出来たりしないかなぁ……」
そんな言葉をブツブツ口にしながら、頬を赤らめていたわけで……
えっと……スーガ竜さん……その人、あなた達の村をつい最近まで襲いまくっていたブラックドラゴンなんですけど……
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