みんな色々あるわけで その2
日中はいつも通りに仕事をこなした俺。
昼になり……電話当番の俺を残してみんな部屋を出ていった。
小鳥遊も例外ではなく……っていうか、そりゃ朝まで俺の部屋に一緒にいたわけだし、弁当を準備する時間なんてなかっただろうしな……って、おいおい、俺ってば何を考えているんだ……まったく。
まるで、小鳥遊と一緒に飯を食べるのを楽しみにしているみたいじゃないか。
……っていうか、みたい、というよりも、最近はそれが当たり前になりつつある気がしないでもない。
最初の頃は、小鳥遊にえらい目つきで睨まれてた俺だけど……色々話をしたり一緒に仕事をしていると、コミュ障で色々と不器用だけど、何事にも自分なりに一生懸命取り組む姿には感心しきりなわけで……実際、集計関係の仕事はかなりのハイレベルでこなせるのがわかったから、他の出世が見込める部署へ異動させてやろうと思ったんだけど……でも、あいつは俺と一緒がいいと言って、あの話を蹴っちゃったんだよな……
……しかし、だ
話を蹴った理由……俺と一緒にっていう中に、『俺が小鳥遊の事をはじめて正当に評価したから』っていうのがあったのは紛れもない事実だと思うんだけど……それ以上に、小鳥遊が俺に対して恋愛感情を抱いているのも紛れもない事実というか……ただ、これは、俺が小鳥遊の事を正当に理解したからであって……
「……って、俺ってば、何を考えているんだ……」
あれこれ小難しい言葉を並べているけど……小鳥遊と一緒にいることを、どこか心地よく思っているのは間違いないわけで……そうでもなければ、俺の家に泊めたりしないわけで……
早苗ちゃんと、東雲さんからもらった弁当を口に運びながらそんな事を考えている俺。
早苗ちゃんはともかく、東雲さんにも熱烈な告白をされているわけで……いや、確かに、東雲さんといえば、美人で仕事も出来て、気遣いも一級品で、胸もでか……げふんげふん……
なんか……今まで恋愛といえば『いい人』どまりだった俺に、なんでこんなモテ期がきてるんだ?
……って、それは自意識過剰……かなぁ……って、古村さんもいるし……
「……ったく、なんで俺、こんなことで頭を悩ませているんだろうな」
思わず苦笑してしまう俺。
なんか、妙に考え込んでしまったもんだから、弁当の味がいまいち印象に残らなかったな……
◇◇
昼飯が終わった後、めずらしくスマホでディルセイバークエストの攻略サイトを覗いてみた。
東雲さんがイースとして運営している攻略サイトのヒット数がかなり伸びていた。
内容を見てみると、エカテリナの攻略記事がいくつかアップされていて、どうやらその影響が大きいみたいだ。
今開催されているイベントに出現するレアモンスターの攻略方法の記事なんだけど……
武器の選び方
遭遇しやすい場所
遭遇した時の対処方法
攻撃の際の注意事項
そんな事を、懇切丁寧に解説してあった。
エカテリナのインタビューに続いて、イースさんが捕捉説明を入れてくれているので、モンスター討伐をしたことがない俺でも、思わず頷ける内容にまとまっている。
武器にしても、エカテリナがいつも使用しているSSS級のアイテムだけでなく、ノーマル武器での攻略方法まで懇切丁寧に説明してあった。
さらに、記事の中ではさりげなく、
『今回のレアモンスターの攻略に適した武器は、ログイン広場の裏通りにあるメタポンタ村の店で購入出来ますわよ』
って、俺の店の宣伝までしてくれていた。
「……そういやぁ、昨日は店に行ってなかったし……今夜は絶対に行かないとな」
記事には、一応不定休で、夜の時間帯中心に営業しているって捕捉説明までしてくれているけど……せっかく紹介してくれているんだし『なんだよ、全然営業してないじゃないか』って言われないようにしないとイースさんのサイトの記事の信憑性に関わってきてしまうし。
……しかしあれだな……出来ることなら、店に常勤出来る仲間キャラを配置することも考えた方がいいかもしれないな。
「……なんか、こんな事を考えていると、本当に村の経営をしているみたいだな」
そんな事を考えながら、思わず笑みを浮かべる俺。
イースさんのサイトの記事に寄せられているコメントを見ていると、内政に興味を持った人の書き込みが結構寄せられていた。
この調子で、俺みたいに村長になる人が出て来て、仲良く出来たら楽しそうだな。
そんな事を考えながら、スマホを眺めていた俺。
「……あれ?」
イースさんのサイトに続いて、いくつか有名な攻略サイトを流し読みしていると、最大手の攻略サイトに気になる一文がアップされているのに気がついた。
『当サイトのメンバーだったエナーサは、諸事情により当グループを脱退いたしました。今後は当サイトとは無関係となります』
……エナーサちゃん……いい記事が書けないって悩んでいたけど……まさかサイトを辞めさせられちゃったのか……
なんていうか……協力を申し出ていたものの、イースさんを優先したのもあって、あまりいい情報を教えてあげられなかったのもあって、ちょっと責任を感じてしまうな……今度あったら、励ましてあげないと……
「……そういえば、早苗ちゃんもそんな事を言っていたような……」
朝の出来事を思い出していた俺なんだけど……エナーサ……逆から読んだらサーナエ……
「って、いや、そんな馬鹿な……」
苦笑しながら、俺は空になった弁当箱を洗いに行くために席を立った。
◇◇
自販機コーナーで一緒になった東雲さんに弁当箱を返した俺。
「ありがとう、美味かったです」
「そうですか、お口にあったのでしたらよかったです」
俺の言葉に、嬉しそうに笑顔を浮かべた東雲さん。
「今夜は早めに帰れそうなので、ご一緒しましょうね」
「えぇ、よろしくお願いします」
そんな会話を交わしながら、お互いの部署に戻っていった。
仕事を終えると、小鳥遊はいつものようにすごい勢いで帰宅していった。
俺も、片付けを終え、
「みんなも、早くしまえよ」
そう声をかけながら、帰路についた。
駅に向かっていると、小鳥遊からメッセージが届いたんだけど、
『晩ご飯作って行きます』
って……おいおい、そんな無理しなくても……って思ったものの、俺としても一人で食べるよりも二人の方が楽しいし……って思ったもんだから、
『わかった。気を付けて』
そう返信しておいた。
駅につくと……いつものように早苗ちゃんが俺の事を待っていたんだけど……今日の早苗ちゃんは、妙に浮かれていて、俺から弁当箱を受け取ってもどこか上の空だった。
「あの……早苗ちゃん? 大丈夫かい?」
思わずそんな言葉をかけてしまった俺なんだけど、そんな俺に早苗ちゃんは、スマホを差し出してきた。
その画面には、
『はい、とっても幸せな気持ちでしゅ』
って……いつものように語尾が噛んでいる文面に安堵してしまうものの……どこか上の空のままの早苗ちゃんの様子に、終始首をひねり続けていた俺……
家に帰ると、古村さんの部屋には電気がついていなかった。
「……そういえば、ディルセイバークエストで近々大規模なアップデートがあるって公式サイトに書いてあったし……その準備で忙しいのかな」
そんな事を考えながら、自室へ戻った俺。
……しかし
もう少ししたら、今日も小鳥遊がやってくるわけなんだけど……
そんな事を考えながら、ソファに乗せている小鳥遊のリュックサックへ視線を向けた俺。
「……まさか、俺の部屋にくるための口実にするために、わざと忘れていったとか……いや、そんな、まさか……」
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