あの……イースさん? その1
ログインした俺を出迎えたのは、
「あらあらあらまぁまぁまぁ」
すっかりお馴染みになったリサナ神様だった。
まぁ、俺の家にリサナ神様の家である神殿がくっついちまっているわけだし、こうして出迎えられるのも仕方ないといえば仕方ないんだけど……なんか、今日のリサナ神様の声は、いつも以上に熱が籠もっているというか、すっごく嬉しそうというか……
「今日はご夫婦お2人同時にログインなされたのですわねぇ。いいですわぁ、愛人の方との略奪愛も燃えますけれども本妻様との燃えるような愛があってこそですものねぇ」
あぁ……そういう事か。
リサナ神様の言葉を聞いて、俺は納得した。
そう……
ベッドに横になって出現した俺なんだけど、そんな俺の隣にエカテリナが同時に出現していたんだ。
ぴったり寄り添って……さらに、俺の腕に抱きついた状態で……
「相変わらず仲睦まじいご様子ですわねぇ、いっそのこと、このままゲームの禁忌に触れるような熱い接吻からの……あ、あらぁ!?」
「ちょっとあなた、うるさいのよ!」
胸の前で両手を組み合わせながら、興奮した声をあげまくっていたリサナ神様。
そのワニの頭の被り物の上から、額のあたりを鷲づかみにしていくエカテリナ。
うん……見事なアイアンクローだ。
「私と旦那様が何をしようと別にいいでしょう? それよりも、それをのぞき見するのはいい加減にしてくれないかしら?」
「あわあわあわ……わかりましたわ、わかりましたわ……私、これからはもう少し遠くから見守らせて頂きますので、どうかこの手をお離しくださいませぇ」
ギリギリとリサナ神様の額のあたりを締め付けていくエカテリナ。
みるみるワニの被り物が変形し、リサナ神様は慌てた口調で言葉を発しながら、エカテリナの手に向かって必死にタップし続けていた。
「わかればいいのよ、わかれば……じゃ、じゃあ私は狩りに行ってくるわね」
そう言いながら、俺の方をチラッと見つめてくるエカテリナ。
そんなエカテリナに笑顔を向けながら、右手を振る俺。
「あぁ、くれぐれも気を付けてな」
「まかせなさい。私はあなたの奥さんなんだからね! 言われなくても気を付けるわよ!」
いつもの、どこかちょっとずれているツンデレ口調を口にしながら、エカテリナは猛烈な勢いで家の外に駆けだしていった。
加速系のスキルも所持しているもんだから、その速さたるや、似たスキルを所持しているラミコを凌駕しているというか……
「奥方様……相変わらずすさまじい速さなのじゃ……」
エカテリナの後ろ姿を見送りながら、そのラミコが唖然とした表情を浮かべているあたりで、そのすごさがおわかり頂けたと思う。
……まぁ、今日のエカテリナは、恥ずかしいのもあって急いでこの場を離れたんだと思う。
何しろ、現実世界では、俺の膝の上に座って背中を俺の胸に預けているんだしな。
……いかんいかん、そんな事を考えてしまうと、俺も妙に意識してしまって妙なところが反応しかねないというか……
「あれぇ? フリフリさんじゃないですかぁ」
頬を張りながら、雑念を払っていた俺に声をかけてきたのは、ファムさんだった。
「あ、あぁ、ファムさん、おはよう。今日もよろしくな」
「えぇ、それはもう、こちらこそよろしくなのですけど……お帰りになっていたのですねぇ、さっきは……」
いきなりそんな会話を始めるファムさん。
そうなんだよな……ファムさんの中の人こと、古村さんってば、偶然にも俺の隣の部屋に引っ越してきちゃったもんだから……ちょっと前に、小鳥遊と一緒のところを見つかってしまって慌てて逃げ出した上に、居留守を使ってごまかしたばかりだったわけで……
「あ、っと……ファムさん、そういう発言はまずいんじゃなかったかな。その、プライベートな発言は御法度っていうか……」
「あ、あぁ、そ、そうでしたねぇ……はい、すいません」
俺の言葉を聞いて、ハッとなった古村さん……じゃ、なかった、ファムさんは、アハハと笑いながら改めてNPCっぽい動作をしはじめた。
内政系のプレイをしている俺を、テストプレイを兼ねてNPCとして手伝ってくれているファムさんなんだけど、NPCとしての一線を越えた言動を繰り返したせいで、あやうくテストプレイ禁止になるところだったもんだから、その事を指摘されて慌てて自重してくれたわけだ。
……と、とりあえずこれで、俺の部屋に小鳥遊がいることはばれずに済みそうだな
思わず安堵のため息を漏らす俺。
「さて、今日の作業を始めるとするか」
家の外に出た俺は、村を見回した。
俺の家を中心にして、家の数が増えている。
どうやら、昨日街で仲間にしたNPC達の家が完成したみたいだ。
こういったところがサクサク進むのは、さすがゲームの世界だなぁ、と改めて感心してしまう。
まぁ、現実世界のように、家が出来上がるまでに何ヶ月もかかっていたら、その間に飽きてしまうもんな。
新しく出来た家にはそれぞれ畑が隣接していて、そこで住人達が農作業を行っている。
村人達のリーダー的な存在の、NPCのテテが忙しく動き周りながらみんなに声をかけてくれている。
ああいったNPCを仲間に出来ていたのは、本当に運がよかったと思っている。
「フリフリ村長……これから村人と一緒に森に行ってくる」
俺に声をかけてきたのは、ゴブリンのグリンだった。
「あぁ、よろしく頼……って、え?」
グリンの姿を見た俺は思わず目を丸くしてしまった。
……いや……以前にもレベルアップして、少女だった容姿から少し女の子っぽい姿に変化していたグリンなんだけど……今のグリンってば、もう一段階レベルアップして、お姉さんな容姿に変化していたんだ。
……しかも、胸のサイズが増量されたというか……歩く度にポヨンポヨンと揺れてないか?
「どうした? フリフリ村長?」
「あ……あぁ、いや……なんていうか、またレベルアップしたんだなぁ、と思ってさ」
「うん……これもみんな、フリフリ村長のおかげ……処分されそうになっていたアタシを買い取ってくれて、村の住人にしてくれて、ありがと」
嬉しそうに微笑むグリン。
「いやいや、こちらこそみんなを守ってくれてありがとな」
最近のグリンは、戦いにも慣れてきているそうで、俺がログアウト中には森でモンスターに遭遇した村人達を一人で守れるまでになっているそうなんだよな。
でもまぁ、とりあえず……今度ブラジャーを買ってきてあげないとな、うん……
そんな事を考えながら、グリンとポロッカに付き添われながら10人くらいの村人達が森に向かって進んでいった。
「さて……じゃあ、俺達はリザード族の武具を仕入れて、それを街に売りに行くか」
「うむ、主殿よ任せるのじゃ!」
俺の言葉に、右手を挙げて応えるラミコ。
ラミコの高速移動のおかげで、余裕を持って街を往復出来るようになったのは本当に大きいんだよな。
俺はラミコと一緒にリザード族の交易所へ足を向けた。
「あの……フリフリさん」
そんな俺を呼び止めたのは……イースさんだった。
「あれ、イースさん。今日は早いんですね」
「えぇ、ちょっとね……」
俺の言葉に、いつもの笑顔で応えるイースさん。
おかしいな……今日のイースさん、というか、イースさんの中の人の東雲さんは接待があったはずだから、今日はINが遅くなるはずなんだけど……
「えぇ、ちょっと……あの、少しお話をさせてもらいたいんだけど、時間を頂いてもよろしいかしら?」
「えぇ、別にかまいませんよ」
イースさんの言葉に笑顔で頷く俺。
そんな俺にお礼を言うと、イースさんは俺を、村の中にある自分の家へと案内した。
「また取材ですか? 遠慮なくなんでも聞いてくださいよ」
笑顔の俺。
そんな俺の前で、イースさんは急に真面目な顔になった。
「……あの……フリフリさん……」
そう言うと、イースさんはいきなり俺を抱きしめてきた。
「い、イースさん?」
現実世界では、俺の方が背が高いんだけど……ディルセイバークエストの世界の中では、イースさんの方が背が高いもんだから、俺はイースさんの胸に顔を挟まれた格好になっていた。
いや……いくらゲームとはいえ、この感触はまずくないか? ……思わずそんな事を思ってしまうほど、リアルなポヨンポヨン感に、思わず頬を赤くしてしまう俺。
そんな俺を、ぎゅっと抱きしめ続けているイースさん。
「……すいません……こういう行為は不謹慎だって、わかってはいるのですが……明日、フリフリさんがエカテリナさんとデー……い、いえ、あの……その……」
いつも冷静沈着な東雲さん。
そんな東雲さんの分身らしく、イースさんもいつもは冷静沈着なんだけど……今のイースさんはしどろもどろな口調のまま、俺を抱きしめ続けていた。
……おいおい、一体何が起きてるんだ、これ……
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