湖ってことはやっぱりあれなわけで…… その4
リサナ神様が仲間になって、湖畔へ戻った俺達なんだけど……いやぁ、とにかく大変だった。
まず湖から出た俺達を出迎えてくれたザドラスさんが、リサナ神様を見るなり、
『うむぅ!? り、リサナ神様がご光臨なされたですとぉ!?』
っと、その場で土下座して何度も頭を下げていった。
次に、村へ戻ると、
『『『り、リサナ神様がご光臨なされたですとぉ!?』』』
俺達を出迎えてくれた村人達が全員、ザドラスさんと同じリアクションで驚いたかと思うと、全員でその場に土下座し、これまたザドラスさんと同じようにその場で何度も頭を下げはじめた。
そんなリザード族の村人達を前にして、リサナ神様は、
『いえいえ、皆様そのように恐縮なさらなくても大丈夫でございますわ』
にこやかな声でそう言うと、お辞儀を返していったんだけど……頭を下げた拍子に被り物のワニの頭が取れてしまって、地面を転がっていった。
それを、リサナ神様が、右手で顔を押さえながら、
『あらあらまぁまぁ』
なんて言いながら慌てて追いかけていたんだけど、そんなリサナ神様を前にしたリザード族の皆さんは、
『皆、今、頭を上げてはならぬぞ!』
って言ったザドラスさんの言葉に従って、リサナ神様がワニの頭の被り物を被り直すまで、全員頭を地面にこすりつけたまま微動だにしなかった。
……ゆるきゃらの運動会なんかで、時たま着ぐるみの頭部が取れてしまって中の人の顔が露わになった時なんかも、司会進行役の人が『今、見てはいけません!』とか言ってたけど、なんか、その光景を思い出してしまったというか……
リサナ神様が俺達の仲間になってメタポンタ村に行くとなると、ザドラスさん達が動揺するんじゃないかと思ったんだけど、
『あ、石像はそのままにしてありますので、皆様、これからも変わらずにお祈りしてくださいませ』
って、リサナ神様が言うと、
『『『ありがとうございます! リサナ神様!』』』
ザドラスさんをはじめとした村人の皆さん、一斉にそう言いながら最敬礼していたわけで……拍子抜けするくらいあっさり認められてしまったもんだから、逆に俺達の方が呆気にとられてしまった。
その後、俺とザドラスさんの間で話合いを行い、
『うむ、リサナバッジを入手されたのですから、約束どおりメタポンタ村と交易をさせていただきましょう』
正式に、リザード族の村と俺のメタポンタ村との間で交易することが決定した。
『つきましては、メタポンタ村に我らの交易所を開設させて頂きたく思いますゆえ、明日にでも作業員を派遣させていただきます』
『わかりました。お待ちしてますね』
そんな会話を交わした後、俺達はラミコが引っ張る荷車でメタポンタ村へと帰っていった。
途中、荷車が揺れるたびにリサナ神様のワニの頭の被り物が転がってしまい、
『あらあらまぁまぁ』
と言いながら、ワニの頭の被り物ごとリサナ神様が荷車の外へ落下しそうになるのを、俺やエカテリナ、イースさんが必死になって引き留め続けていたわけで……いや、もう、ホントに、この帰路が一番疲れたといっても過言じゃなかったわけで……
村に戻った俺達をファムさんが出迎えてくれた。
『あらぁ!? すごいですねぇ、リサナ神様まで仲間にしちゃったんですか!』
荷車から降りてきたリサナ神様を見るなり、目を丸くしていたファムさん。
そんなファムさんに、リサナ神様は仲間になった経緯と、明日、リザード族の村から作業員がやってくることを告げてから、ログアウトするために家に戻った。
で、家に戻ってベッドに横になると、
『旦那様、わ、私もご一緒させていただいてもいいんだからね!』
って、言いながら俺の隣で横になり、腕に抱きついてきたエカテリナ。
『パパ! 一緒に寝るベアよ!』
さらに、エカテリナとは逆側に飛び込んで来たポロッカ。
『あ、主殿……わ、妾も今日はよく頑張ったゆえにじゃな……』
そう言って、俺の足元ににじり寄ってきたラミコ。
これだと、エカテリナがまた絶望のオーラモーションを発動させるんじゃ……って思ったんだけど、
『確かに、ポロッカは村でお留守番を、ラミコは荷馬車で頑張ってくれたし……い、今だけなんだからね!』
そう言って、ポロッカとラミコが俺に抱きついてくるのを許可したエカテリナ。
……んで、3人(1人と2匹?)に抱きつかれている俺を、いつの間にか入室していたリサナ神様がベッドの脇ににじり寄って見つめていた。
『まぁまぁまぁ、3人一緒にだなんて、なんて素敵な光景なのでございましょう……私、興奮してまいりましたわぁ』
そう言いながら……なんか、ハァハァ荒い息を繰り返していた。
……ホントにこの人、神様なのか?
そんな事を考えながら、俺はログアウトした。
◇◇
翌朝。
「ふわ~ぁ……」
会社に着くなり、大あくびをした俺。
そりゃそうだよな……どんなに遅くても深夜0時には寝ている俺なのに……昨日ログアウトしたのが午前3時だったんだから……
……まずいな……今日は会議が続くってのに……
そんな事を考えながら、あくびをかみ殺していると。
「……お、おはようござい、ます」
出社してきた小鳥遊が、俺の机の側までやってきて、頭をさげた。
相変わらず声は小さいけど、それでもこうして声に出して挨拶が出来るようになったのは、人と接するのが苦手な小鳥遊にしたら大きな進歩だと思っている。
部屋に入って来た時にも、ペコリと頭を下げてたしな。
「あぁ、おはよう小鳥遊。今日も頑張ろうな」
笑顔で返事を返す俺。
そんな俺の机の上に、小鳥遊が何かを置いた。
……これって、ブラックコーヒーと、眠気覚ましの飴……
俺がそれを手に取ると、小鳥遊は再度ペコリと頭を下げてから自分の席へ戻っていった。
そうか……昨夜、俺がログアウトしたのが遅かったから、気にしてくれたんだな。
その事に気がついた俺は、小鳥遊に向かって、
『ありがとう』
とばかりに、右手を軽く挙げた。
それをチラッと見た小鳥遊は、すぐにパソコンへ視線を向けていった。
……しかし、小鳥遊のヤツは俺がログアウトした後もしばらく遊んでいたはずなんだけど……全然眠そうな感じがないんだよな。
毎日結構な時間までディルセイバークエストをプレイしているはずなんだけど、仕事中に長時間離席したり、椅子に座ったまま居眠りしたことも一度もない……って、こういうのってやっぱ若さなのかなぁ、なんて考えてしまう俺。
まぁ、ゲームの事はあくまでもプライベートなことなので、それを職場で話題にする気はないんだけどな。
そんな事を考えながら、出勤してきた他の社員達に挨拶を返していると、
「武藤係長、おはようございます」
そう言って、部屋に入って来たのは東雲課長だった。
「東雲課長、おはようございます。朝から何か御用ですか?」
「いえ、大したことではないのですが……」
そう言いながら、俺の机の前まで移動してきた東雲課長。
その手に、何やらコンビニの袋を持っていたんだけど、
「……あら?」
俺の机の上へ視線を向けた東雲課長は、
「一足遅かったみたいですね……ふふ。では、会議でお会いしましょう」
そう言いながら部屋を後にしていった。
東雲課長が見たのって、小鳥遊が差し入れてくれたブラックコーヒーとかだと思うんだけど……ひょっとして、東雲課長も、昨夜俺が遅くまでゲームをしていたのを気にして、眠気覚ましに何か買ってきてくれたのかもしれないな……
しかしまぁ、小鳥遊と東雲課長の2人に心配されたんだし、こりゃあ意地でも会議で寝るわけにはいかないな。
俺は、気合いを入れ直しながら、小鳥遊が買ってきてくれたブラックコーヒーを一気に飲み干していった。
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