村のレベルがあがって、思わぬ来訪者が…… その3

 いやぁ……ラミコは早かった。


『主殿のお願いじゃからの、妾も張り切らざるを得ないのじゃ!』


 そう言うと、すさまじい速度で荷車を引っ張りはじめたラミコ。

 幸いなことに、ラミコがザドラスさんの村の場所を知っていたのでザドラスさんの道案内が無くてもどんどん進んで行った。

 途中、


『こっちが近道なのじゃ』


 と言っては草むらの奥に伸びている獣道へ向かって駆け込んでいき、


『ここを飛び越えるとショートカット出来るのじゃ』


 と言っては切り立った崖を飛び越えていき、と……まぁ、まるでジェットコースターのような道中をちょうど2時間進んだところで、ザドラスさんの村へ到着したんだけど……


「……す、すいません……ちょっとだけ休憩を……」


 真っ青な顔をして口元を抑えているイースさん……いや、気持ちはわかる。

 何しろ、ラミコが引っ張っている荷車の振動がモロに体に伝わってきたもんだから、そりゃ乗り物酔いもするってわけで……

 街を往復した時は、舗装された街道を通行したからここまでひどい揺れはなかったもんだから……うん、まさかここまですごいとは思わなかった。


「VRMMOってのはホントにすごいなぁ……」

 

 そう言いながら、背伸びをする俺。

 そんな俺の横で、イースさんは体育座りをしてうなだれたままだった。


 イースさんの場合、今日は接待からの帰宅直後なわけで、お酒が入っていたのもあって余計に堪えたのかも知れないな。


「イースさん大丈夫ですか? ……よかったら回復ポーション飲みます? 効果があるかどうかはあれなんですけど……」


 イースさんの側に歩み寄った俺は、背中をさすりながら回復ポーションを差し出した。

 今のイースさんが気分がアレなのは、おそらく飲酒後に激しく揺れまくったのが原因……つまりリアルの方に問題があるわけなので、ゲーム世界の薬が効果があるかどうかと言われると……うん、正直ないよなぁ、と思ってしまうんだけど……


「あ、はい……ありがとうございます。すごく助かります」


 イースさんは、俺から受け取った回復ポーションをグイッと飲み干していった。

 正直、気休めだよなぁ、と思っていたんだけど……しばらくすると、イースさんはすっくと立ちあがった。


「うん……少し気分がよくなった気がします、はい」

「本当です? 無理はしない方が……」

「いえいえ、本当にさっきより少し気分がよくなりましたので」


 俺の言葉に、笑顔で頷くイースさん。

 正直、顔色はいまいちなんだけど……本当に大丈夫かな……

 

 エカテリナとラミコも心配そうにイースさんの顔をのぞき込んでいた。

 ラミコとイースさんは初対面じゃなかったっけ、って思っていたら、


『昨日の夜中に会って話をしたのじゃ』


 って、ラミコが教えてくれた。

 そのラミコなんだけど……昨夜の事を思い出した途端に、エカテリナを横目で見つめながら固まってしまったんだけど……これってやっぱり、昨夜俺がログアウトする際に、絶望のオーラモーションを発動させていたエカテリナとの間に何かあったってことなのかもしれないけど……突っ込んだら、なんかもっとすごいことになりそうな気がしたので、あえて突っ込みはしなかった。


◇◇


 イースさんが一休みしている間に、ザドラスさんは一足先に村の中へと戻っていた。

 ザドラスさんに気がついたリザード族の人達が、その周囲に集まっていった。


「うむ、皆の衆! 回復ポーションを入手してきたであります!」


 そう言って、背負っていたリュックサックを、集まって来たリザード族の人達に誇示するザドラスさん。

 すると、一斉に歓声があがった。


「なんと! こんなに早くですと!」

「さすがはザドラス族長!」

「ありがとう! ザドラス族長」


 そんな声が飛び交う中、ザドラスさんはリュックサックの中からポーションを取りだしていく。

 それを受け取ったリザード族の人達は、村の中へ向かって駆け出していった。


 イースさんの様子も落ち着いたので、俺達もザドラスの側へ歩みよっていった。


「ザドラスさん、何かお手伝いしましょうか?」

「うむ、この調子なら大丈夫でございます。回復ポーションのおかげで流行病に倒れていた者達が次々に元気になっておりますゆえ」


 そう言うと、ザドラスさんは嬉しそうに笑顔を浮かべた。


 ……しかし


 回復ポーションを飲むとすぐに元気になるあたりは、さすがはゲームの世界だなぁ、って思わず感心してしまった。

 まぁ、そのあたりにリアリティを持たせすぎてしまうと、何をするにしても時間がかかり過ぎてしまってゲームとしての面白みが欠けてしまうと思うし、こういうのは良いことじゃないかなって思う。


 時間にして30分もかからないうちに、流行病で倒れていた村人達は全員回復した。

 ザドラスさんは、そんな皆さんを村の中央にある広場へ集めた。

 んで、俺達はそんなザドラスさんの横に並んで立たされていた。


「うむ、皆の衆に紹介するであります。この度、我が村のために回復ポーションを売ってくださったメタポンタ村のフリフリ村長殿と、その奥方エカテリナ殿、それに村の方々である」


 ザドラスさんが笑顔でそう言うと、広場に集まっていた皆さんから一斉に歓声があがった。


「フリフリ村長殿、ありがとう!」

「フリフリ村長殿のおかげで子供が元気になりました!」

「フリフリ村長殿、バンザイ!」


 そんな声があちこちからあがっていき……気がついたら俺は、リザード族のみんなに担ぎ上げられて、胴上げされていた。

 ちなみに、ザドラスさんに『俺の奥方』と紹介されたエカテリナは、


『だ、旦那様の嫁なのは当然のことだから、べ、別に嬉しくもなんともないんだからね!』


 って言いながら顔を赤くしていたんだけど……リザード族の人達に囲まれて、


「旦那殿のおかげで本当に救われました」

「素晴らしい旦那様ですね」


 そんな言葉をかけられると、


「い、いえ……その……すべては旦那様のおかげですので……」

「わ、私にはもったいない旦那様でして……」


 恐縮しまくりながら、何度も頭をさげていたわけで……なんというか、ゲームキャラが相手とはいえ初対面の人達が相手なのでコミュ障、爆発していたんだろうなぁって思った。


 50回近く胴上げをされた後、どうにか解放してもらえた俺は、少しフラフラしながらザドラスさんの横へと移動していった。


「うむ、フリフリ村長殿のおかげで、我が村は救われたのです。つきましてはぜひお礼をさせて頂きたく思っております」


 ザドラスさんが右手をあげると、その後方から数人のリザード族の人達が歩み寄ってきた。

 みんな、何やら防具のような物を持っていたんだけど……それを見たエカテリナが目を丸くした。


「ちょ!? そ、それってリザード族の防具なの!?」

「うむ、奥方殿、いかにも。我が部族に伝わる手法にて作成された、リザード族の防具であります。これを今回のお礼として献上させていただきます」


 ザドラスさんの言葉を聞いたエカテリナは、目を丸くしたままリザード族のみんなが持って来た防具をマジマジと見つめていた。

 その横には、イースさんも駆け寄っていた。


「り、リザード族の防具って……過去にイベントで一回だけ配布された、ユニークアイテムですよね?」

「えぇ……しかも……イベントの際に配布されたヤツはR級だったけど……これ、S級なのよ」


 防具のステータスを確認しながら盛り上がっているエカテリナとイースさん。

 以前からこのゲームをやっていたからこそ共有出来る驚きってやつなんだろうな。


「その防具はそんなにすごいのかい?」

「そうなのよ旦那様! この防具を装着していると水の中でも窒息判定がでなくなるの!」

「イベントで配布された物は、制限時間が30分だったのですが……このS級の防具は制限時間がないみたいなんです」

「え? ……ってことは、水の中でいつまでも活動出来るってわけなのかい?」

「「そう! そのとおり!」」


 俺の言葉に、同時に頷くエカテリナとイースさん。

 2人がこれだけ興奮しているってことは、それだけすごいアイテムってことなんだろうな。

 このゲーム初心者の俺としては、


『へぇ、そうなんだ』


 くらいしか思えないんだけど……そこで、俺はあることを思いついた。


「……あの、ザドラスさん。これは提案なんですけど……もしよかったら、このリザード族の防具を定期的に購入させて頂くわけにはいかないでしょうか?」

「うむ、この防具をですかな?」

「はい、俺の村からは野菜や回復ポーションを販売させていただきますので……すいません、まだ出来たばかりの村なので、それくらいしかお売り出来る物がないのですが……」


 頭をかきながらザドラスさんを見つめている俺。

 せっかくのご縁だし、ザドラスさんの村と俺の村で交易みたいな事が出来たらなぁ、と思ったのと、俺の村でこの商品を扱えるようになれば、村を発展させることも出来るんじゃないかって思ったりしたもんだから提案させてもらったんだけど……


「うむ、そうですな……本来であれば門外不出のこのアイテムなのですが……ほかならぬ、村の恩人のフリフリ村長殿の申し出ゆえに、お断りするのも失礼でありますゆえ……」


 そう言っているザドラスさんの頭上に、何やらウインドウが表示された。

 そのウインドウには、


『ドルゴドムの試練イベント 開始』


 って書かれているんだけど……

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