村のレベルがあがって、思わぬ来訪者が…… その2
村のレベルがあがると同時にメタポンタ村にやってきたリザード族のザドラスさんに、回復ポーションを100本お渡しすることが出来たわけなんだけど……多分、これってメタポンタ村のレベルがあがったから発生したイベントなんだろう。
このイベントがどんなことにつながっていくのか……正直さっぱりわからないんだけど……でも、だからといって攻略サイトを確認するために一回ログアウトしたりする気はない。
そもそも内政系のイベントに関して記載してある攻略サイトなんてほとんどなかったし、数少ないそういったサイトのひとつであるイースさんのサイトにもそんな情報はなかったもんな。
いざとなれば、ファムさんにそれとなく話をふってイベントの大まかな内容を教えてもらうって方法もあるにはあるんだけど……ファムさんも、それを予期しているのか俺の方をジッと見つめている。
……でも
「じゃあ、早速ザドラスさんの村に向かいますか。お送りしますよ」
俺は、事前にファムさんと相談することなく、ザドラスさんに笑顔でそう言った。
だってさ、先に全部わかっていたら面白くないじゃないか。
俺はこのゲームの中で、内政プレイを思いっきり満喫しようって決めているんだし……だったら、目の前で起きた出来事を思うがままに体験してみよう……そう思ったわけだ。
「うむ……フリフリ村長、お気持ちはありがたいのでござるが……拙者の村までは、この村からですと山道を徒歩で半日はかかるのでござる……途中、Sランク以上の害獣が出没する箇所も多々ございますゆえ……」
「山道を半日に、Sランク以上の害獣かぁ……」
俺は、ゆっくりと後方へ視線を向けた。
その視線の先には、俺の後方きっちり3歩下がった位置に立っているエカテリナと、さらにその後方に立っているラミコの姿があった。
「ラミコ、徒歩で半日かかる山道を、ラミコの牽引と高速移動のスキルを使ったらどれくらいかかる?」
「ふっふっふ、主殿の願いとあらばこのラミコ、4時間で往復してみせるのじゃ」
俺の言葉に、ドヤ顔で胸を張っているラミコ。
……うん、まだまだ発育不足ゆえに、慎ましやかな胸なんだけど、その胸を……
「……主殿? 気のせいならよいのじゃが……何やら失礼なことを考えておられぬかえ?」
「あ、あぁ、いやいやいや、何でもないよ、なんでも……」
ジト目で俺の顔をのぞき込んできたラミコ。
そんなラミコに慌てて苦笑を返した俺は、視線をエカテリナへ向けた。
「そ、それよりもエカテリナ……君はレアモンスターの討伐に行きたいと思うんだけど……もしよかったらボディガード役として同行してくれないかな? 無理にとはいわないんだけど、一緒に来てくれたら心強いっていうか……」
「……ふふ……ふふふ……ふふふふふ……ま、まぁそうね、ボディーガードと言えばやっぱりこの私でないと不安ですわよね。さすがは旦那様、よくわかっているじゃない! 今日は死者の谷あたりでレアモンスターを狩りまくろうと思っていたんだけど……」
「あぁ、そっか、そりゃそうだよね……仕方ないな、じゃあ、ポロッカとグリンにお願いし……」
「わかったベア! 任せるベアよ!」
「うん! 行く!」
俺の言葉を受けて、笑顔で固定モーションのガッツポーズをするポロッカとグリン。
……すると、
「ちょ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~と待ちなさい!」
俺の眼前にエカテリナが駆け寄ってきた。
「え、エカテリナ? でも君はレアモンスターを狩りに……」
「ちょっと旦那様、人の話は最後まで聞いてよね! 私は、
『死者の谷あたりでレアモンスターを狩りまくろうと思っていたんだけど、旦那様にそこまでして頼まれたんじゃあ仕方ないから、同行してあげてもいいですわ。でもね、決して一緒にお出かけ出来て嬉しいわけじゃないんですからね!』
って、言葉を続けようとしていたのよ! ひ、人の話は最後まできちんと聞いてくださいな!」
俺の顔をのぞき込むようにしながら、必死になって言葉を続けていくエカテリナ。
必死過ぎて目に涙が溜まっているような気がしないでもないんだけど……っていうか、ツンデレな部分まで台詞として考えていたんだなぁ……って、妙なところに感心してしまった俺なんだけど……
◇◇
そんなわけで……
ザドラスさんの村へ行くのは
俺
エカテリナ
ラミコ
以上の3人ってことになった。
ポロッカとグリンも行きたがったんだけど、今のメタポンタ村で護衛が出来るのって、同行が決定しているラミコを除くと、エカテリナ・ポロッカ・グリンの3人しかいないわけで、その3人がみんな留守にしてしまうと村人のみんなが森へ行くことが出来なくなってしまうからね。
ファムさんは、
「同行したいのはやまやまなのですが……諸事情によりこのイベントには同行出来ないといいますか……」
ってことで不参加。
その口ぶりからして、テストプレーを行っているNPCに運営レベルで制約がかかっているんだろう。
「ポロッカとグリン、それに村のみんなには何かお土産を見繕ってくるよ。ファムさんには土産話でいいかな?」
「はい、とても楽しみにしております」
俺の言葉に、にっこり笑顔のファムさん。
ラミコが引く準備をしている荷車に乗り込んだ俺とエカテリナ、そしてザドラスさん。
エカテリナも高速移動のスキルを持っているので、その気になればラミコと一緒に走ることも出来るわけなんだけど、俺の真後ろに密着することが出来るポジションを確保すると、その場から動こうとしなかった。
……こ、これってあれよね……いわゆる新婚旅行的な……べべべ別に嬉しくなんかないわけじゃないというか……
何やらブツブツ呟いているエカテリナなんだけど、声が小さすぎてよく聞こえないんだよな。
「うむ……しかしフリフリ村長、本当に同行頂いてもよろしいので?」
「えぇ、かまいませんよ。ラミコの荷車ならすごく早く村に帰ることが出来ますし、もし万が一ザドラスさんの村で新たに回復ポーションを作らなくちゃならなくなったとしても、すぐに対応出来ますからね」
そう言って俺は背負っているリュックサックを親指で指し示した。
この中には、回復ポーションの材料になる薬草や生成用の道具を入れてあるんだ。
いざとなれば移動中の森の中で探してもいいしね。
俺は調査スキルを持っているし、なんとかなるだろう。
「じゃあ、出発するのじゃ!」
そう言うと、ラミコは腰を低くした。
「あら? どこかにお出かけなんですか?」
そんな俺達の元に歩みよってきたのは、先日メタポンタ村に引っ越ししてきたイースさんだった。
いつもはもっと遅くにINしているイースさんなんだけど……
「イースさん、今日は早いんですね」
「はい、今日は接待が早く……っと、すいません、今のはなかったことに……」
慌てて首を左右に振るイースさん。
そうそう、ゲームの世界の中でリアル世界の事情を話すのは御法度だしね。
いつもクールで、そんなミスを犯すはずがないイースさんなんだけど……ひょっとしたら接待の際に飲まされたお酒のせいなのかもしれないな。
そんな裏事情を推察した俺は、その内容に関してはそれ以上触れないことにした。
んで、そんなイースさんに、ザドラスさんの件を一通り説明したんだけど……
「あの……もしよかったら私もご一緒させていただくわけにはいかないでしょうか? このイベント、すごく興味があります」
イースさんは、目を輝かせながら俺の前で両手を組み合わせた。
この食いつき具合からして、イースさんも未体験のイベントってことなんだろう。
「そうですね、荷車には余裕がありますし、問題ないと思いますよ」
「本当ですか! ありがとうございます」
嬉しそうに笑顔を浮かべながら俺の手を両手で握りしめるイースさん。
……もう、せっかく旦那様と二人きりで新婚旅行を満喫出来ると思ったのに……
俺の後ろでエカテリナが何かブツブツ言っている気がするんだけど、やっぱり声が小さすぎてよく聞こえないんだよな……
「それじゃあイースさんも乗り込んだし、ラミコよろしく頼むよ」
「任せるのじゃ! ぶっちぎって見せるのじゃ」
俺の言葉を合図に、ラミコは荷車を引っ張りながら山の中へ駆け込んでいった。
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