成長と、新人と、相変わらずな、ってなわけで その4
ラミコの息が整ったのを見計らって、買い物に出発した俺とラミコなんだけど……なんだろう……休憩してからラミコの様子がなんかおかしいんだよな。
チラチラ俺の方を見ていたかと思うと、なんか急にため息をついたりして……
「ラミコ、大丈夫なのか? まだ疲れが抜けていないのならもう少し休憩してもいいんだぞ?」
「だだだ大丈夫なのじゃ、ここここれは疲れておるのではないのじゃ……」
「そうか? ならいいんだけど……でも、くれぐれも無理はするんじゃないぞ」
「わわわわかっておるのじゃ……まったくもう、主殿は優しすぎるのじゃ……」
気のせいか、顔を赤くしているラミコと一緒に街道を移動していった俺なんだけど……すぐにあることに気がついた。
街道を移動しているプレイヤー達が俺とラミコを交互に見つめながら、何やらヒソヒソ話をしているんだ。
んで、耳を澄ましてみると……
「お、おい……あのドワーフ、ラミアを仲間にしてるのか!?」
「あのドワーフ、プレイヤーじゃないか……ってことは、イースの攻略サイトに書いてあった『仲間に出来るモンスターがいた』っていうのは本当だったんだ……」
そんな会話が聞こえてきた。
ドワーフキャラは人キャラよりも耳がいいみたいで、意識を集中すると独り言でも聞くことが出来るんだ。意識を集中していない時は人キャラと同じ程度の聴力しかないもんだから、さっきラミコがゴニョゴニョ言っていた言葉は聞き取れなかったんだけど。
しかし……下半身が蛇だから、一目でモンスターのラミアと判別出来てしまうラミコと一緒にいるもんだから、ずいぶん目立ってしまっているようだ。
「そうだな……ラミコの下半身が人のようになれたら、もう少し目立たなくて済むんだけど」
苦笑しながらそんな独り言を言った俺だったんだけど……
「出来るのじゃ」
「へ?」
「30分くらいなら下半身を人の足に変化させることが出来るのじゃ」
「そ、そうなんだ……」
それを聞いた俺は、一度建物の影に移動して、そこでラミコに下半身を人の足に変化させてもらうことにした
次回からは、街に入る前に変化させてもらっておけば、今回のように目立つことはないだろう。
ちなみに……
このゲームでは、自分の視界の中の様子をスクリーンショットとして撮影して保存する機能がある。
その画像をスマホの待ち受けにしたり、自分のツイッターやライン、サイトにアップしたりすることが出来るんだけど、勝手に撮影をされたくないプレイヤーのために、
『スクリーンショット設定』
っていうのを設定することが出来るようになっているんだ。
この設定には
『常時撮影許可』
『許諾時のみ撮影許可』
『撮影不許可』
の3種類設定することが出来るようになっていて、俺は常時、
『許諾時のみ撮影許可』
にしている。
『撮影不許可』
にしておいてもいいんだけど、イースさんがサイトにアップするスクリーンショットを撮影する際にいちいち設定を変更していたらめんどくさいと思ったからなんだ。
イースさんは同じ村の住人になったわけだし、内政関係の情報を公開しているサイトを運営しているし、このディルセイバークエストで内政を楽しもうっていうプレイヤーを増やすためにも協力したいと思っているからなんだよな。
「……んで、ラミコ……足を変化させることは出来たかい?」
誰も近寄らないよう周囲に気を配っている俺の後ろで、蛇の下半身を人の足に変化させていたラミコなんだけど……
「う、うむ……うまくいったのじゃが……その、なんというか……」
「うん? どうかしたのか?」
俺が振り向くと、視線の先には、二本足で立っているラミコの姿があったんだけど……なぜかラミコはスカートの裾を恥ずかしそうに抑えていた。
下半身が蛇の姿の際に着ていたその服は、スカートの丈がかなり短くなってしまっていたもんだから、それで恥ずかしいのかと思っていたら……
「あ、あの……下着がなくてじゃな……」
「そ、そうなのか!?」
俺の前で顔を真っ赤にしながら頷くラミコ。
そうか……下半身を蛇から人の足へ変化させたら……確かに下着はないとないよなぁ。
っていうか、そのあたりはゲームなんだから多少融通を利かせてくれてもいいんじゃないかと思ったんだけど、
「と、とにかく、まずは服を買いに行こう。えっと、確か雑貨屋でよかったよな」
俺は、羽織っていたジャケット風の上着をラミコに渡し、スカートの上から巻かせた。
これで、少しはマシだろう。
そんなわけで、スカートの裾を気にしているラミコと一緒に、俺はまず雑貨屋へと移動していった。
◇◇
どうにか、ラッキースケベ的なイベントに遭遇することもなく、最初に入った雑貨屋でラミコの下着を購入することが出来た。
試着室でそれを身につけたラミコは、
「主殿が買ってくれた物なのじゃ……ずっと大事にするのじゃ」
って、すごく嬉しそうにしていた。
その雑貨屋が調理道具と生成用の道具も販売していたので、それらも一緒に購入していった。
結構な量になったけど、荷車があるので問題なく積載することが出来た。
この荷車がなかったら、所持枠の関係で今購入した品の10分の1も持ち帰ることが出来なかったはずだ。
もう少し時間があったら、新たな仲間キャラを購入したかったんだけど……ラミコの変化の制限時間が残り少なかったし、俺もそろそろゲームを止めて寝ないと明日の仕事に差し支えるから、今日のところはあきらめることにした。
あと、買い物をしている俺に、
『よかったらフレンド登録してくれませんか?』
って声をかけてくるプレイヤーも結構いた。
ラミコがラミアっぽくなくなってはいるものの……一緒にいたのがドワーフだってばれてるし、ドワーフでプレイしているプレイヤーってかなり少ないから、まぁ、すぐに目を付けられだろうしなぁ……
ただ、申し訳なかったんだけど、
『申し訳ないけど、俺、まだ初心者なんで……それにモンスター討伐には興味がないんで、登録してもらっても役に立てないって思うんで』
そう言って、今回は全てのお誘いを断らせてもらった。
俺がもう少しこのゲームに慣れた頃に、また改めて登録させてもらえたら、って思っているんだけど……さすがに内政メインのプレイヤーに声をかける人は、そうそういないだろうな。
そんなことを考えながら、買い物を全て終わらせた俺は、ラミコへ視線を向けた。
「よし、じゃあ帰るか、ラミコ」
「わかったのじゃ、主殿」
笑顔でそう言うと、俺が乗った荷車を引っ張っていくラミコ。
下半身が人の足に変化しているラミコなんだけど、下半身が蛇の時と同じ勢いで荷車を引っ張ることが出来た。
このあたりは、牽引と高速移動のスキルのおかげなんだろう。
かなりの速度で街を出たラミコは、
「さぁ、主殿。来た時よりももっと速く村に帰ってみせるのじゃ!」
そう言って、さらに速度をあげていったんだけど……次の瞬間、
ポン
って、音とともに、ラミコの下半身が蛇の姿に変化した。
どうやら、制限時間になっちゃったみたいだな。
「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」
「ど、どうしたラミコ!?」
「あああ主殿が買ってくれた……」
声を震わせながら、破れた布を手に持っているラミコなんだけど……よく見たら、その布って俺が街で買ってあげたラミコの下着だった。
……あぁ、そうか……人の下半身からラミアの下半身にいきなり戻っちゃったから……下着が破れちゃったのか……
って、そのあたりもさぁ、自動で持ち物に収納されるとか出来なかったのかなぁ……
ラミコはすっごいショックを受けていたんだけど……
「それは破れちゃったけど、もう一組買ってあるからさ」
俺が、荷物の中から下着の入った袋を取り出すと、ラミコはぱぁっと笑顔を輝かせた。
「ありがとうなのじゃ! 主殿からのプレゼントが1日の間に2つに増えたのじゃ」
「2つって、破れたのは捨てればいいじゃないか」
「いやなのじゃ、これはこれで宝物にするのじゃ」
そう言うと、ラミコは手に持っていた破れた布を自分の所持枠の中へ入れていった。
その後、ご機嫌になったラミコは、更に加速して村へ戻ってくれた。
そのおかげで、村のみんなに買ってきた調理道具と生成用の道具を手渡す事が出来た。
村のみんなは、すごく喜んでくれて、
「次にフリフリ村長さんがこられるまでにはたくさん弁当とポーションを作っておきますね」
口々にそう言ってくれていた。
「ありがとう。でも、くれぐれも無理はしないでよ」
みんなにそう声をかけて、自分の家に戻った俺はログアウトするためにベッドの上で横になった。
すると、ラミコが何やらモジモジしながら俺の側に歩み寄ってきた。
「ラミコ、どうかしたのかい?」
「そ、その……わ、妾も主殿の横で寝てもいいかの?」
顔を真っ赤にしながら、そう言ったラミコ。
「別にいいけど……俺がログアウトしたら、俺の姿は消えちゃうけど……」
「そ、それでよいのじゃ、その少しの時間でよいのじゃ」
「うん、まぁ、それでいいのなら……」
俺がそう言うと、ラミコは飛び跳ねながら俺の隣で横になった。
んで、嬉しそうに俺の腕を抱きしめてきた。
まぁ、これくらいなら問題ないだろう……
そんなことを思いながらログアウトした……その時だった……
なんだろう……ラミコの背後に、絶望のオーラモーションをまとったエカテリナの姿が見えたような気がしたんだけど……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます