なんか村長になったらしいんだけど…… その3

「じゃあ、私は今住んでいる家を処分してきますので」


 イースさんはそう言うと、メタポンタ村を後にした。

 俺が村の門のところで見送っていると、仲間キャラのみんなが農作業の手を止めて俺の周囲に集まり、イースさんに向かって手を振ってくれていた、


「これから一緒に暮らす方ですもの」

「これくらい当然ですよ」


 仲間キャラのみんなは、笑顔でそう言いながら手を振ってくれていたんだけど……この一体感って、なんだかちょっと嬉しくなってしまった。


 イースさんを見送った俺達は、ファムさんの案内で村の様子を見て回った。


「仲間キャラのみんながすっごくやる気になってくれていて、どの農家もすでに野菜や薬草の栽培をはじめているんですよ」

「へぇ、そうなんだ」


 ファムさんの説明を受けながら村の街道を進んでいると、その周囲の畑にたくさんの苗が植えられているのがわかった。


「この苗を森に取りに行くの時、ポロッカとグリンが護衛を頑張ったベア!」

 

 俺のすぐ横を歩いているポロッカが笑顔でガッツポーズをしていく。


「森の害獣は、仲間キャラや私では退治出来ませんので、ポロッカちゃんやグリンには本当に助けられたんですよ」

「えへへ、そうでもないベア~」


 ファムに褒められて、嬉しそうに笑うポロッカ。

 グリンも、嬉しそうに笑みを浮かべながら体をくねらせている。


「うん、本当にありがとなポロッカ、それにグリン」


 俺も笑顔で1人と1匹の頭を撫でてやったんだけど、それを見ていたエカテリナが、


「旦那様、私、ちょっと村の周囲を見て回ってきますわ! べ、別に私も頭をなでなでしてほしいから、村の周囲の害獣を討伐してくるんじゃないんだからね!」


 ……相変わらず、本音がダダ漏れてるツンデレ発言を残して走り去っていった。

 ちなみに、俺の後ろに少し離れて立っていることが多いエカテリナなんだけど……


「……三歩下がって……三歩下がって……」


 って、ブツブツ呟きながら俺の後ろについて歩いていたところを見ると……妻は夫の後方三歩下がって歩くのが理想とか昔よく言われていたのをネットか何かで見つけて、それを実践しているのかもしれないな。

 俺的には、そんなのは全然気にしないんだけど……ただ、俺のためにエカテリナがそこまでしてくれているっていうのが、ちょっと嬉しく思えてしまったのもまた事実なわけで……


「……しかし、害獣ってのはすぐにまた沸くんだな。この間エカテリナが狩りまくってくれたってのに」


 何しろエカテリナが村の周囲の害獣を狩りまくったせいで、ポロッカの餌が無くなったくらいなんだから……


「フィールドに分布しているモンスターの数は一定時間を経過すると復活する設定になっていますので。ただ、エカテリナさんのように根こそぎ狩った後だと、復活する際の数が若干減る設定にもなっているんですけどね」

「あぁ、なるほどな……」


 まぁ、そのあたりはゲームの世界ならではの設定ってことなんだろう。

 でもまぁ、エカテリナがこうして害獣を定期的に、かつ徹底的に狩りまくってくれていれば、村の仲間キャラ達も森に入って畑で栽培するための野菜や薬草の苗を入手しやすくなるわけだし……


「……そうだな、エカテリナが戻ってきたら、頭を撫でてやらないとなぁ」


 そんな事を考えていた俺だった。


◇◇


 その後、半日近く村に滞在した俺。


 エカテリナは、どこまで行ったのかわからなかったんだけど……村の周囲に点在していた害獣の反応が綺麗さっぱりなくなっていたところを見ると、相当広範囲にわたって害獣駆除を行ってくれたみたいだ。


 村の中では、仲間キャラのみんなが休むことなく農作業を続けていた。

 俺がはじめてこの村にやって来た時は、住んでいるプレイヤーもNPCも一人もいなくて荒れ放題だったんだけど、その村がこんなに短期間でここまで活気に満ちあふれるなんて思ってもみなかった。

 仲間キャラの中には、家の庭部分に、森の中から採取してきた果樹の苗木を植えているキャラもいた。


「上手く育てば、果物も収穫出来るようになりますよ」


 仲間キャラが笑顔で話をしてくれた。

 ファムさんによると、


「果樹の木は、広い場所を必要としますが、一度根付くと何度も実をつけてくれますので、安定して大量の収穫が見込めるんです。ただ、その反面、絶対に根付くというわけではない上に、害虫対策も必要になったりと、結構大変なんですよね」


 ってことらしい。

 ファムの言葉を聞いた俺は、最近のVRMMOってのは、そんなところまでリアルに作りこまれているんだなぁ、って、なんか妙に感動してしまった。


 ……まてよ


 ここで俺はあることに思い当たった。


「……内政系でこれだけ作りこまれているってことは、結婚に関してもあれこれ隠し設定があるんじゃないのか? ……例えば、子供が出来たりとか……」

「こ、子供ぉ!?」


 腕組しながらブツブツ呟いていると、俺の真後ろから悲鳴にも似た声があがった。

 慌てて振り返ると、そこには害獣駆除に出かけていたエカテリナの姿があったんだけど……エカテリナってば、その顔を真っ赤にしながら俺を見つめていた。


 ……って、あぁ、そうか……俺が『子供が出来たり』なんて呟いたもんだから、それに過剰反応したってことか。


「ほら、このゲームはあれこれ隠し設定があるじゃないか。だから、そんな仕様も盛り込まれているかもなぁ、って思ったわけでさ……」


 そう、エカテリナに説明したんだが……しばらく真っ赤になったまま身動きひとつしなくなっていたエカテリナは、一度大きく咳払いをすると、


「そそそそうね、ああああくまでも可能性のひとつとして無いとは言えないかもしれないわね」


 声を裏返らせ、噛みまくりながらそう言うと、俺を抱き上げて家の中へ駆け込んでいった。

 リアル世界とは逆に、俺が小柄なキャラなもんだから、エカテリナ的にも抱っこの要領で抱き上げるのが楽なんだろうけど……この体勢って、エカテリナの豊満な胸が俺の顔を左右から挟み込んでくるもんだから、ちょっと気持ちいいというか、恥ずかしいというか……


 そんな事を考えていると、エカテリナは俺をベッドの上へ寝かせると、その上から抱きついてきた。


「かかか勘違いしないでよね、ここここれはあくまでも子供が出来るかどうかを試してみるだけであって、べべべ別に私が旦那様との子供が欲しいと思ったからとか、思いっきり甘えたいとか思ったわけじゃないんだからね!」

 

 さっき以上に声を裏返らせ、噛みまくっているエカテリナ。

 しかしまぁ……俺なんかを相手に子供が欲しいと思ってくれたり、甘えたいと思ってくれるっていうのも、なんだか嬉しく思えてしまうんだよな。


「……ありがとなエカテリナ」


 俺は笑顔でそう言うと、エカテリナを優しく抱きしめた。


「ふ、ふぇ……!?」


 エカテリナの奴、俺に抱き返されることは想定していなかったらしく、俺に抱きしめられたまま身動きひとつ出来なくなってしまった。

 そんなエカテリナを抱きしめながら、その頭をなでなでしてやったんだけど……


『エカテリナさんがログアウトしました』


 って表示とともに、エカテリナの姿がかき消えてしまった。


「……まさか、エカテリナの奴……キャパオーバーになって、思わず逃げ出してしまったとか……」


 ゲーム内では、積極的に話をしたりアクティブに行動しているエカテリナだけど……その中の人はコミュ障な小鳥遊だもんな……


「……とりあえず、ゆっくりと接してやらないとな」


 俺は、さっきまでリアルに体感していたエカテリナの体の感触を思い出しながら苦笑していた。

 まぁ、その……押し当てられていた巨大な胸の感触をメインに思い出していたのは、男の悲しい性ってことで……

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