ゲームの合間に、ちょっとびっくりしたというか その2
しかし、あれだな……東雲さんとこうしてプライベートで話をするのって、何気にはじめてだった気がする。
一流大学卒で、入社した時から出世街道間違いなしって言われていた東雲さんは、新人時代から妙に浮いていたというか……まぁ、実際新人離れした仕事をこなしまくってたんで仕方ないんだけどね。
ただ、そんな東雲さんも時々自販機コーナーで疲れたような顔をして立ちつくしていることがあったっていうか……まぁ、そんな時にちょっと先輩風を吹かせて、
『なんか奢ってやるよ』
って、缶コーヒーを奢ってやったことがなんどかあったっけ。
当時は先輩だった俺なんだけど……今じゃ、俺の方が役職下なんだよなぁ……まぁ、理不尽な要求を突きつけてきた取引相手を鉄拳制裁しちまったわけだし、訴えられなかっただけでもよしとしなきゃいけないんだけどな……
まぁ、東雲さんの場合、他の名ばかり役職連中……って、俺もその一人なんだけどさ、そんな連中に比べれば、彼女は実際に仕事をバリバリこなしていて、その手腕や結果を正当に認められた上での異例の出世を続けているわけだし、俺としてはむしろ素直に応援したいと思っている。
……東雲さんがこのゲームで遊んでいるのも、ひょっとしたら仕事の憂さ晴らしなのかもしれないな
そんな事を考えながら、しばらく電話を続けた俺。
ちなみに、小鳥遊がエカテリナだってことは秘密にしておいた。
こういった個人情報は本人の同意なしに他人に教えていいことじゃないしな。
最初はあたりさわりのない会話を続けていたんだけど、
「そういえば……」
って、メタポンタ村の空き家を全部買収したことを伝えると、
『えぇ!? い、いったいいくら使ったんですか!?』
東雲さんは、結構な勢いで食いついてきた。
ブログのネタというよりも、純粋に興味があって聞いてきている感じだったんだけど……まぁ、エカテリナが支払った額を伝えると、ちょっと言葉を失っていた。
とはいえ、エカテリナの名前が出ると、
『……やっぱりトップランカーは違いますねぇ……』
すぐに東雲さんは、この事を受け入れていたんだけど……それだけエカテリナがとんでもない存在ってことなんだろうな。
その後の東雲さんは、村のことであれこれ質問してきたんだけど……
「俺もまだ、村を手に入れたばかりなんでよくわかってないんだよね」
って答えることしか出来なかった。
この件に関してはわかった事があったらお知らせするってことにさせてもらった。
あとは、ノーマルの仲間キャラを入手したことを告げると、
『私も以前、仲間キャラを使っていたんですけど……』
そう言って、自分の経験談を話してくれた。
東雲さんも、レア度の低い仲間キャラが売り払われたり、囮に使用される風潮を好ましく思わなくて、今の俺みたいにプレイヤーから仲間キャラを買い取っていた時期があったそうなんだ。
『……仲間キャラを仲間にすると、自分の所持品枠を1つ使用しないといけなくなるんです……課金で増やすことも出来るんですけど、やっぱり枠は貴重なんです……』
モンスター討伐に向かう際の装備
モンスターを討伐した際のドロップアイテム
フィールドで発見した宝物
モンスター討伐をしていると、こういった物事のせいですぐに所持枠がいっぱいになってしまうそうなんだ。
今の俺はモンスター討伐をまったく考えていないもんだから、これに関しては問題ないんだけど……
『モンスターを討伐しないと入手出来ない薬の素材もありますので……どうしてもモンスター討伐を行うことになるんですよね』
「なるほどなぁ……まぁ、俺はエカテリナがモンスター討伐をメインにしているし、お願いすればそういったアイテムを入手してくれるだろうから……」
……ん?
そう考えると、今回導入された結婚システムって……一人がモンスター討伐をメインに行って、もう一人が内政をメインで行うのにすごく適したシステムってことになるんじゃないか?
だとすると……結婚システムが導入されてからこのゲームを始めた俺は運が良かったってことになるのかもしれないな。
そんな会話を行っていると、あっという間に時間が過ぎていって……
「あぁ、悪い。そろそろクリーニングを出しにいかないといけないんで」
『あ……も、申し訳ありません……つい、話に夢中になってしまって』
最後は、
『長々とすいませんでした』
「いえいえこちらこそ……」
『いえいえいえこちらこそ……』
と、まぁ、社会人あるあるの謝罪合戦を繰り広げてから電話を切った。
◇◇
クリーニングを筆頭にあれこれ用事を済ませた俺は、いつものコンビニで食糧と飲み物を購入して家に戻った。
「さて、ログインする前に、まずは腹ごしらえを済ませるか」
買ってきたばかりのおでんと焼き鳥を口にしながら攻略サイトをチェックしていると……
「……おいおい、エカテリナの奴……」
俺がログアウトしている間、エカテリナは現在開催されている竜の谷のイベントに参戦していたみたいなんだけど……2位との差が三倍近くにまで広がっていた。
そういえば、東雲さんが言ってたけど……
『エカテリナさんは、ずっとソロでプレーしているんですけど、NPCを盾にしたり囮にするようなプレーは絶対にしないで、いつも自分自身で試行錯誤してのし上がっていくものですから、ディルセイバークエストのトッププレイヤーの中でも英雄視されているんですよ。ただ、自分が見つけた情報を公開しないせいで、一部で批判もされているのですが……』
……まぁ、情報を公開しないのは、単にコミュニケーション能力が低いからって気がしないでもないんだけど……NPCを大切にしているあたりは、なんかエカテリナらしい気がしないでもない。
「さて、そんな立派な奥さんに買ってもらった村を、しっかり運営しに行こうかね」
そう言いながら、俺は改めてログイン用のヘルメットを被っていった。
◇◇
「……え?」
再度ゲームにログインした俺は、まず驚いた。
村の畑で、仲間キャラのみんなが農作業を行っていたんだけど……エカテリナが購入した農作業用の服に着替えているみんなは、
「さぁ、しっかり耕すよ!」
「ご恩に報いないとね!」
そんな声をあげながら、結構な勢いで作業を行い続けていたんだ。
ステータス画面を確認してみると、仲間キャラのみんなの名前の後ろに、
『やる気上昇中』
って一文が点滅しながら表示されていた。
「……これって、あれか? 俺がみんなを買いとって、エカテリナが服を買ってあげたからとか……」
あくまで憶測とはいえ、仲間キャラのみんながすごく頑張ってくれているのは紛れもない事実だった。
んで、この時、もうひとつ気がついたことがあった。
ログアウトする前に、仲間キャラのみんなに、メタポンタ村の中の家を割り当てていたんだけど……その結果、仲間キャラのみんなは俺の所持枠から外れて、
『メタポンタ村の住人』
って表記になって……村の所持枠に計上された……そんな感じになっていたんだ。
メタポンタ村の中でウインドウを開くと、メタポンタ村のステータス画面が表示されたんだけど、
『メタポンタ村 Lv1 住人枠 14/30 フリフリ村長』
そんな内容が表示されていた。
「……つまり住民の上限30人のうち、14人が住んでいるってことか……あと16人住まわせることが可能みたいだけど……村にレベルがあるってことは、そのレベルを上げれば、村に住むことが出来る住民の上限を上げることが出来るかもしれないな……」
そんな事を考えながら、俺はしばらくの間ステータス画面を見つめていたんだけど……いつの間にかポロッカが俺の背後に駆け寄ってきていて、俺のマネをしてウインドウを見つめていた。
なんというか……でっかい図体のブラッドベアが背中を丸くしながらウインドウをのぞき込んでいる姿って、妙に可愛いく感じるもんだな。
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