なんか村長になったらしいんだけど…… その1

 再度俺がログインすると、ポロッカが駆け寄ってきた。


「パパが留守の間、グリンと一緒に村の周囲を警備してたベア!」


 満面の笑顔ですっかりお馴染みになったガッツポーズをしていた。

 なんでも、俺が留守(ログアウト)の間に、野菜の苗や薬草を取りに森へ行った仲間キャラがいたみたいなんだけど、護衛として同行したそうなんだ。

 で、森の中で害獣に出くわしたところを、ポロッカが退治してくれたってことらしい。

 ……だいたいの状況は把握したんだけど……俺は、首をひねっていた……『グリンと一緒に』って……そんな娘、いたっけ? エカテリナならともかく、そんな戦闘を得意にしている奴がいた覚えがないんだけど……そんなことを考えながらポロッカを見ていると、ポロッカの影に隠れるようにして、一人の女の子が恥ずかしそうに立っていた。


「……あ、ど、ども」


 目があった俺に、恥ずかしそうに頭を下げてくれたのは、小柄なゴブリンの女の子だった。

 あぁ、そういえば……仲間キャラの中に1人いたな、このゴブリンの女の子。

 この娘、NPCなんだけど性格設定が「引っ込み思案」になっているもんだから、常に他の仲間キャラの後ろか物陰に隠れているんだ。

 だから、俺もその存在をすっかり忘れていたというか……うん、なんかごめん。


「……じゃあ、グリンがポロッカと一緒に害獣を退治してくれたんだ」

「……う、うん……ほとんどポロッカがやってくれた……私は、ちょっとだけ……」


 笑顔で話しかけている俺なんだけど、グリンはとにかく俺と視線を合わせないようにポロッカの後ろに隠れながら話をしている。

 昔のアニメに出てくるゴブリンといえば、冒険者相手に集団で襲いかかっていく、雑魚だけど侮れないモンスターって印象が強かったんだけど……俺の目の前でモジモジし続けているグリンからは、そんな印象はまったく受けない……ひたすら、シャイで可愛い女の子って感じなんだよな。

 グリンのステータス画面を確認してみると……他の仲間キャラ達よりも戦闘系の数値が若干高めなだけで、後は軒並み能力が低めだった。

 

 ……これでもっとレアリティが高くて能力値がずば抜けてるキャラだったら、結構人気が出たんじゃないのかな? 肌は緑色だけど、結構美少女顔をしているし……


 そんな事を考えてしまう俺。


 俺は改めてポロッカと、その後方に隠れているグリンへ交互に視線を向けた。


「ポロッカもグリンも、村のみんなを害獣から守ってくれてありがとな」


 そう言うと、笑顔で二人の頭を撫でていった。

 もっとも、ポロッカは俺が頭を撫でようとしているのに気付いて即座に頭を下げてくれたんだけどね。


「ベア! 褒めてもらえて嬉しいベア!」


 俺に頭を撫でられて嬉しそうに喉を鳴らしているポロッカ。

 グリンも、うつむきながら嬉しそうに笑顔を浮かべていた。


「グリンは害獣退治というか、戦闘の方が得意なのかな?」

「……農作業の方が好き……でも、戦闘も嫌いじゃない」


 そう言うと、背中に背負っていた自前の棍棒を構えて見せてくれたグリン。


「アタシは戦闘大好きベア! がう~!」


 すると、ポロッカも両手を上にあげて襲いかかるポーズをとって見せてくれた。

 まぁ、ポロッカは魔獣なんだし、納得の返事だよな。

 そんなポーズを取りながら、互いに笑い合っている2人。

 なんかこの2人……出会ってそんなに時間が経っていないにもかかわらず、もうすっかり仲良しになっているみたいだな。

 笑顔で一緒にポーズを取っている様子を見ていると、釣られて俺まで笑顔になってしまう。


◇◇


 グリンには、村の仲間キャラが森へ行く時にはポロッカと一緒に護衛をしてほしいって伝えておいた。


「護衛任務をしてくれたら、護衛手当を支給するからさ」


 そう言ったんだけど、グリンは、


「ん~ん、お金はいらない。この村に住まわせてもらえているだけで十分だし……」


 少しはにかんだ笑顔を浮かべながら、俺に向かって頭を下げてくれた。


「……あ、でも……」

 

 すると、グリンは何か思いついたらしくて、ハッとした表情を浮かべた。


「なんだい? 何かしてほしいこととかあるんなら遠慮なく言ってよ。できる限りのことはさせてもらうからさ」


 俺の言葉を聞いたグリンは、しばらくモジモジしていたんだけど……ようやく、少し口元を引き締めながら俺へ視線を向けた。


「……あの……一人で寝るのは寂しい……だから、ポロッカと一緒に寝たい……駄目?」


 そう言って首をひねるグリン。

 あぁ、そっか。今回仲間になった仲間キャラの中で、ゴブリンはグリンだけだから、家もグリン1人に一軒割り振られているのか。

 しかし、ポロッカと一緒に寝たい、ってことは、だ……ポロッカは、俺とエカテリナと一緒に住んでいるわけなので……つまり、俺達と一緒に寝るってことになるんだよな……

 俺はともかく、エカテリナがどう言うか……その事を考えながら腕組みをしていると、


「……駄目? うん、駄目ならあきらめる……」


 シュンとしながら肩を落とすグリン。


「いやいやいや、駄目ってわけじゃないんだ……その、俺達が暮らしている家で一緒に暮らすとなると、何かと大変なんじゃないかと思ってさ」


 俺が慌ててそう言うと、ポロッカが俺の腕に抱きついてきた。


「パパ! ポロッカは大丈夫ベア! グリンと一緒がいいベア!」


 そう言いながら、俺の腕をグイグイ抱き寄せているんだけど……ポロッカの魔獣らしからぬでかい胸が思いっきり押し当てられているもんだから……ってか、何、この気持ちいい感触は……このままじゃあ警告が表示されちまうんじゃないのか……

 なんてことを考えつつも、ポロッカの胸の感触の前に身動き出来なくなっていた俺なんだけど……ここで、グリンが俺の反対側の腕を引っ張ってきた。


「……駄目?」


 おずおずと上目使いに俺を見つめてくるグリン。


 片や、天真爛漫に我が儘ボディを押しつけながらお願いしてくるポロッカ。

 片や、上目使いで健気に一生懸命お願いしてくるグリン。

 左右からまったく違うお願い攻撃をされた俺……この攻撃に耐えうるだけの防御力を、俺は有していない。


「……そ、そうだな……ポロッカも一緒にいたいって言うのなら……」


 エカテリナには、後でしっかりと事情を説明しておけば、なんとかなるだろう……そう思った俺は、大きく首を縦に振った。

 そんな俺を見て、


「パパありがとベア!」

「……すごく嬉しい……」


 ポロッカとグリンが笑顔で、俺に抱きついてきた。

 グリンはともかく……ポロッカの胸は、やっぱり反則じゃないか? 魔獣なのに、なんでこんなにリアルな感触が……って思ってしまうんだけど……でもまぁ、二人が喜んでくれたのならよかったって思うことにしよう、うん。


 俺がそんなことを考えていると、


「フリフリさん、こんにちは」


 そう言って、俺の前に駆け寄ってきたのは……エルフのイースさんだった。

 もう、その正体はわかっているんだけど……このイースさんは会社の同僚の東雲さんのキャラなんだよな……とはいえゲームの中では、相手の正体に関する発言はマナー違反だし、


「やぁ、イースさん。こんにちは」


 無難に挨拶を返しておいた。


「……あれ? この間とは服が違うんですね」


 ゲーム内でのプレイヤーは、あまり服を変更しない……村で暮らしている仲間キャラのみんなも、エカテリナが服を買ってあげてなかったらすべての作業を初期装備の服でこなしていたはずなんだ。

 イースさんも、はじめてあった時の冒険者風の服装とは違って、少しお洒落な感じの衣装を身につけていた……っていうか、胸元がざっくりと開いているもんだから、つい谷間に視線が行ってしまうというか……イースさんってば、スレンダーかと思っていたら、結構……


「あ、気がついてもらえました? 少しおめかししてみたんですよ」


 俺が服装の変化に気がついたからなのか、イースさんは嬉しそうに笑顔を浮かべている。

 気のせいか、少し頬が赤くなっているような……確かこのゲームってプレイヤーの感情を読み取ってそれをキャラの状態に反映させているはずなんだけど……これって東雲さん本人も喜んでくれてるってことなのかな……


 そんな事を考えながらイースさんと向き合っていると……俺はいきなり後ろから抱き上げられてしまった。


「こんにちは、フリフリの妻の、妻の、つ・ま・の・エカテリナと申します」


 俺を抱き上げながら『妻の』の部分を3回繰り返したエカテリナ。

 なんていうか……さっきのポロッカの胸もすごかったんだけど……エカテリナの胸も相当なもので……抱き上げられている俺の頭は、その胸の間に挟まれていて……いや、ちょ、ちょっとこの感触はさっき以上にまずいって……


 そんな事を考えている俺なんだけど、エカテリナはそんな俺を抱き上げたままイースを凝視していたんだけど……


「この人は私の旦那様なんですから、絶対に渡さないんだからね!」


 って、ゲームの中では初対面のイースさんに、いきなりツンデレ全開なエカテリナ……

 これには、イースさんも俺も思わず苦笑するしかなかったみたいだ。


 っていうか、小鳥遊の奴ってば、ゲームの中ではこんなに感情を露わに出来るんだな。職場の様子からは想像出来ないというか……案外これが小鳥遊の素なのかもしれないな、なんて事を考えている俺だった。

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