寒い日にアイスカフェラテなんて飲むかよ
@s1250198
第1話 導入
年も暮れてきた11月も中旬。日に日に激しさを増す寒風にさらされながら、喫茶店に足を運ぶ。街並みはどこもかしこも灰色に見えるのは、この曇り空のせいなのか、寒すぎて心に特殊なもやでもかかっているのか。道ゆく人も寒さのせいで顔が凍っているんだろう。みんな表情が険しい。喫茶店で頼むメニューはいつも安いアイスカフェラテである。いくら店員に「この寒い中アイスなんて…」みたいな顔をされても、気にもならない。もはやその目線までが1セットである。絶対にアイスを頼むし、冬だろうとそれは変わらない。釘を刺しておくが、私は猫舌ではない。そもそも、人間は熱いものを食べる時は、舌先の炎上に脅かされながら口にしなければばらないが、食事にストレスを感じなければならないというのは、おかしなことではなかろうか。当初の目的であるエネルギーの補給という行為の中で、エネルギーを消費しているのに等しいのだから。そんな状態で飲むカフェラテが美味いわけがない。よってカフェラテはアイスだ。ほかの食べ物も冷ため、もしくはほの温かくすべきである。ちなみに他のメニューなんてものは知らない。カフェラテしか頼んだことがない。こうして想定される、表面的な事実からレッテル貼りをする阿呆どもを駆逐したところで、駅の中にあるオープンスペースの喫茶店に到着した。ここはもっとも足繁く通う店だ。味もさることながら、雰囲気が実にいい。特に場所柄静かすぎないから、かえって読書に集中できる。
「いらっしゃいませ、こんにちは」
いつも笑顔で挨拶をしてくれる店員さんたちには本当に頭が下がる。しっかり仕事をこなすということは当たり前ではあるが、それのできない人間のなんと多いことか。心ながらに尊敬しております。だからといって、いつもより多めに食事を頼むということはない。これは金欠だから、とかではない。それとこれとは話が別なのだ。列の待ち時間内にメニューの隅々を舐めるように目を通す。飲み物以外にも、ホットサンドやサンドウィッチにデザート、相性のよさそうなものが一通り揃っている。とはいえ、頼むものは決まっているが。そうしているうちに自分の番が回ってきた。
「いらっしゃいませ、ご注文はなににされますか」
見かけない人だった。バイトの人だろうか。
「カフェラテ、トール、ホットで」
丸くて大きな目とスッキリとシャープな目頭を併せもったのような形で黒目がち。鼻筋が通っていて、長い髪を後ろで一本にまとめた髪型がよく似合っている。
「お飲み物と一緒にお食事はいかがですか。」
「じゃあホットサンドを」
肌が白く、笑みを絶やさないその表情は、端整な顔立ちをより一層際立たせる。
「できましたら、こちらのレシートの番号でお呼びします」
整えられた細長い指と女性にしては大きな手で丁寧にレシートを渡された。しばらくすると番号が呼ばれ、温かいカフェラテとホットサンドを受け取り、隅の角の席に陣取った。
カフェラテは温かかった。うまかった。
ホットサンドも温かかった。うまかった。
本は117ページすすんだ。内容は全く覚えていない。
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