キルタイム・オンライン -Kill Time Online-
渡葉たびびと
第1部(完結)
第1話 何も贈られなかった少年(1)
人は、生まれながらに平等じゃない。
誰もが知っている当たり前のこと。
特に才能というやつは残酷だ。
天才のことを、英語で「ギフテッド」ということがある。
才能というのは天からの
当然、貰える人と貰えない人がいる。
俺も小学生になる頃にはわかってきた。
――「この俺、
勉強が特別できるタイプではないらしいことがわかった。
運動が特別できるタイプでもないらしいことがわかった。
絵も、音楽も、特に秀でているわけではないらしい。
友達も特におらず、コミュ力なんてあるはずもない。
結局俺には何にもなかった。
未来に希望は見えなかった。十年後、二十年後……自分が幸せになるイメージはまったく持てなかった。
きっと世の大人たちのように、毎日グチを言いながらギリギリ平凡な暮らしを送るのがせいぜいだろう。
ああ、今回の人生はハズレを引いたってことなんだろうな。
そう納得して諦めるしかなかった。
だが。
文明の発達したこの時代に、それは突如現れた。
世の大半の人が「持たざる者」。
そんな諸行無常な現実を、変えてしまうかもしれないゲームが――!
そのゲームは「世界最高の暇つぶし」を名乗って市場に登場した。
――「すべての退屈を殺す」。
そんな挑戦的なキャッチコピーとともに。
〈キルタイム・オンライン〉。
そのゲームは、最新にして最高の、体感型VRゲームだ。
極限までリアルなフィールドは、現実世界と並ぶ第二の世界と呼ばれるほど。
プレイヤーは自らのアバターを操作して仮想世界にダイブし、第二の世界で第二の人生を送るのだ。
〈キルタイム・オンライン〉は戦闘ゲームでもあり、VR空間での戦いを楽しめる。
超人的な力を持つ戦士になりたいという願望も、ここでは容易く叶えることができる。
戦闘ゲーム要素、アバター着せ替え要素、動画配信機能、SNS機能などが高度に融合した〈キルタイム・オンライン〉は、ゲームとはいうものの、実態としては総合電脳プラットフォームとでも呼ぶべきものになっているのだ。
そして何より特筆すべきは、ゲーム開始時に全員に与えられるスキル……「ギフト」の存在。
ギフトは一人一人にそれぞれ設定される強力なスキルで、ひとつとして同じものはないのだという。
それはプレイヤーの脳波を読み取り、本人の性格や嗜好、適性から計算して設定される。
つまり登録した全員が「自分だけの」能力をもってゲームを開始することになるのだ。
そんな革新的なシステムとともに、Kill Time Online……通称
すべての人間に
人々は思うようにいかない今の
と、いうようなことを、俺は興奮して母さんに語ったものだ。
「どんな人間にも、自分だけの能力が与えられる。つまり!」
ちょっと普段出さないくらいの大きな声で。
「全員が
まあ俺の説明もへたくそだったし、母さんも半分くらいしか理解してなかったと思うけど。
それでも母さんは笑って聞いてくれた。
日頃の「あー、天才に生まれたかったなー!」という俺の声も耳に入ってたろうし。
「はいはい、わかったわよ」
友達もロクにいない俺の楽しみが、ゲームくらしいかないのも母さんは知ってる。
だからだろう、決して裕福じゃない家だったけど、許可が出た。
実家の店の手伝いをしたら、バイト代を出す。それで買いなさいと。
「よぉーし。最短で貯めてやるぞ。RTAだ!」
この時の俺は珍しいくらいポジティブだった。
希望に満ちてた。俺も天才になるんだ! ……ってね。
そうして運命の日はやってきた。
「ひい、ふう、みい……よし、十回数えたけど、お金は足りてる!」
本当は三十回数えていた。
とにかく……ソフトとハード、ヘッドセット等の装備一式。
つまり、
数か月かかったせいで他の人からはだいぶ出遅れたけど。
この時、
「天才に生まれたかった!」誰もが抱くであろうその願いを、
人々は「自分にはどんな能力がもらえるだろう」とワクワクしながら登録し、ゲーム人口はまたたく間に増大した。
「すぐに追いついてやるぞ……何しろ、俺にだって『ギフト』が貰えるんだ!」
もうこの日の俺は活発だった。同じ人物と思えないくらい。
何度もチェックした売り場へスマートに向かい、
最短距離でスマートに商品を持ってレジにドン。
で、そこが違う売り場のレジだったので大慌てして、すべてのスマートを失いつつ。
隣のレジで会計、即、帰宅!
「おお……本物だ……!」
ドキドキしながら開封すると、そこには間違いなく
自分の部屋でセッティングしながら、俺の心臓は人生で最高に波打っていた。
「もうすぐ……もうすぐ……!」
ここでなら、何らかの
ああ、まさに今日は運命の日だ。
今回の人生はハズレを引いたってことなんだろうな――リアル人生ではそう結論していた俺が、そんな結論を投げ捨てて第二の人生を生きられる!
ゲームくらいしか好きなもののない、何ひとつ他人に誇れない俺が――
そんな俺が、ゲームの世界で生まれ変わる!
そして。そして――
すぐに大ブームとなった
「目指すはもちろん、
俺はそこまで決めていた。
己の
そうして、準備は整った。俺は緊張とともに、電源のボタンを押した。
「さあ、いくぞ。スイッチ、オン……!」
もうすぐだ。すぐそこだ。
ああ、やっぱりゲームは素晴らしい。始めてもいないのに俺は思う。
人生が変わるかのようなワクワクを、未来に希望を感じさせてくれる。
そして目の前に……新しい景色が広がる。第二の人生と呼ばれる世界が。
「ここが……
正直、その時点でちょっと感動してしまった。いや早すぎるだろ。
自分の姿を確認する。そっけない初期アバターだが、俺には輝いて見える。
とはいえ、まあ、デザインなんかは後で好きに変えればいい。
それよりも。なによりも――
今すぐ確認しなきゃいけないことがあるだろう。
メニュー欄が一か所、光っている。ゲーム側としても確認を促してるんだろう。
そうだ。ステータス画面だ。ほとんど反射で選択する。
つい一度、目を閉じる。はやる気持ちを抑える。気が付けば呼吸が浅くなっている。
大丈夫。夢じゃない……現実だ。あとは、この目で見るだけ。
「さあ、どうだ……!」
目を開ける。見るべきは「ギフト」の欄。決まってる。
ぼやけた視界が次第に像を結ぶ。
さあ果たして、そこに見えたものとは。
俺の目に映った、俺の才能とは?
そこには――
〈
たったそれだけ、書いてあった。
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