短編

@tanabe_ak

短編

「ブラッドベリの短編で、こういうのがあるの」

 二人で遅めの朝食をバーガーキングでとっていると、出し抜けに彼女がそう言った。「たしか奥さんが結婚して何年目を迎えて、全て新しい細胞になった私は新しい伴侶を見つけるの、だからあなた離婚してって」

「ぶっ飛んだ生き方する奥さんだ」

 一口噛じったアボガドバーガーをトレーに置き、俺はホットコーヒーに口をつける。

「でもよく考えれば、細胞って少しずつ代わっていくものだし、そういう意味だと人はって言えない?」

 一日が始まったばかりにしては、少々文学的ロマンチックな話題だ。

「たしかに。それで夫のほうは奥さんにどうしてあげたの?」

「僕もキミと同じように、結婚したあのときより全く新しくなったんだ。だから新しい私を伴侶にするのはどうだい、って」

「アホな夫婦だなぁ。はいはい、よろしくやってろって感じ」

 へんな話をするなと思って、ふと彼女の指を見ると、つきあって3ヶ月目に一緒に買いに行った指輪をしていなかった。

 彼女は軽く握っていた右手を、テーブルの上に持っていき、開いた指を机上に置いた。石の叩く音がした。

「それでね、私もどうやら細胞が全部入れ替わっちゃったみたい」

 元ネタとは違う結末オチが言い渡されたのだった。

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