第二章 4 感度3000倍
僕が餅搗うさぎという少女と出会ったのは僕が生徒会の会計をやっていたとき、らしい。
……うん、『らしい』というのは実は覚えていないからで、僕が覚えているうさぎとの最初の出会いは、彼女が生徒会に入ったときの顔合わせのときだった。
「生徒会に入っちゃいました☆」
そして完璧なウィンク。
「あ、うん、初めまして。副会長の杵柄穂高です。一年間よろしくね」
このときの生徒会室は本当に寒かった。生徒会選挙は10月頃にやってたから、確かに寒くなり始めだったのだけれど、それとは関係無く寒かった。っていうか凍り付いていた。
「ちょっとちょっと穂高君! この子、餅搗さんだよ! 逆らったら最後、醤油や砂糖と一緒に美味しいみたらしにされて、市場に卸されちゃうっていう噂の!」
「副会長は何を言ってるんだ」
「もう副会長じゃなくて会長だよ!」
そうだった。こいつもうこの生徒会のトップなんだった。
なんとなく先行き不安だなぁ。
「あのー。二人でしゃべってないで先輩にはわたしのこと思い出してほしいんですけどー」
ああ、そうだった。でも、餅搗さん。いや、名前は知ってるよ? 有名だしね。でも会ったことあるっけ?
「その……、書類を、提出に、来たんですけど、以前。それで、訂正印……」
「わー! 泣かないで! 餅搗さん――ううん、うさぎちゃん! 穂高君ってこういうクソみたいなところあるから!」
「な、泣いてないですし」
っていうか会長、クソみたいってなんだよ。
うーん、提出書類で訂正印?
「思い出した! そういえば前に提出しにきてたよね!」
ごめん、嘘です。確かに訂正印うんぬんの話があったのは覚えているものの、それが餅搗さんであることはまったく覚えていません。
ただ、もう雰囲気がやばすぎたので、とりあえず思い出したことにしました。
うさぎ、ごめんね!
それから一年間、僕とうさぎは生徒会で一緒に仕事をして、ただの学校の先輩後輩ってだけじゃないような関係にはなっていた。別に、告白とか、付き合うとかそういうイベントはなかったけど、なんとなく好かれているような気はしていたし、僕が彼女のことを悪く思っていなかったことは彼女も分かっていたと思う。
生徒会以外でも、色々なところに遊びに行ったし、お互いの色々なことを知っていった。
彼女はキャベツとにんじんが好きで、色は空みたいな透き通った青色が好きで、運動はあまり好きじゃないみたいだけど、ボウリングとかレジャー性の高いものは別にいいらしい。僕もボウリングはそんなに得意じゃなくて、二人合わせて100点を越えられなくて大笑いをした。
中三の秋になって、勉強が忙しい中でも彼女(この頃には生徒会長になっていた)の生徒会業務を手伝わされたりして、なんだかんだ、中学校生活の多くの時間をうさぎと一緒に過ごした。
「先輩! 高校でも一緒に、生徒会で幅効かせましょうね!」
これが、彼女が卒業式で僕に送った言葉だった。いや、流石に送辞じゃなかったけどさ。むしろ送辞でそういうサプライズを噛ませてきやしないかと、ずっとヒヤヒヤして聞いてたから、正直内容とか全然覚えてないんだけど。
話は戻る。
奥の部屋で、僕はぼーっとそれを見上げていた。
警察に連絡しなくちゃいけないと頭の中で思いつつも、それに体がついてこなかった。
手足も冷え切っていて、このまま体中の体温が抜け出していって、僕もこのまま死んでしまうんじゃないかと思った。
ピンポーン
インターホンが来客を知らせる。
電話を掛けることもできない体が、それでもその音にはなぜか反応した。
誰かも確認せずに玄関の扉を開けると、門扉のところにうさぎが立っていた。
なかなかインターホンが繋がらないとでも思っていたのか、不思議そうに顔を傾げながら、インターホンを覗き込んでいた。
しかし、玄関の扉が開くのに気付いて、すぐに敷地の中に入ってくる。
「先輩なんでインターホン出てくれないんですかぁ。いきなり玄関から出てきてびっくりしちゃいましたよ。まぁ、いいですけど」
そんなことを言いながら、視線はあちこちへと飛び回る。今日って何かあったっけ。なにかあった気はするんだけど……。
「先輩……? どうしたんですか?」
「え……?」
「先輩なんか変ですよ。それにその紙は?」
ああ、この紙。
いつから握っていたのか、便せんはくしゃくしゃで、握りしめた拳は力の入れすぎて上手く開けなかった。
「父さんと母さんが死んだ」
それでもゆっくりと開いて、くしゃくしゃの便せんの束を彼女に渡す。
「え……?」
僕の言葉を聞いたうさぎはすぐさま便せんを受け取り、目を左右に動かして、手紙を読む。
場違いだけど、その瞳がすごく綺麗に見えた。
それから、ああ、もうこの瞳を見ることもできなくなっちゃうのかな……なんてことを思った。
遺産放棄というものが子供の僕にはよく分からないけど、つまりは財産を何も受け取らないということだろう。
家も。
お金も。
僕には何も残らない。
そんな状態で今までと同じ生活なんてできはしないだろう。
恐らくどこかの親戚の家に預けられるのだろう。
そうしたら、もうこの土地には住めない。
今、通っている学校には通えない。
うさぎと一緒にいることは、できない。
「ごめん」
「……っ、なんで、先輩が謝るんですかっ」
うさぎの目からは涙が大量に溢れていた。
うさぎは僕の両親に会ったことがあるからだろうか。
「ごめん、約束、守れない」
去年、うさぎが僕に向けて言った約束。
高校でもう一度、一緒に生徒会になって、幅を効かせること。
それはもう守れそうにないから。
「ごめん」
僕は謝るしかなかった。
「……ません」
「……?」
うさぎが何かをつぶやいたが、よく聞こえなかった。
「先輩に学校を辞めさせたりなんかしません。先輩にはわたしと一緒に生徒会をやってもらうんですから……」
「……でも」
無理なものは無理だ。
「先輩」
彼女の顔がまっすぐに僕を見上げる。
その決意を秘めたような顔に、僕は一歩下がる。
しかし、うさぎは更に一歩、前に踏み出した。
「わたしの執事になってください。わたしの家に住んで、わたしのお世話をして、わたしを一番に想ってください。もちろん一緒に学校に通わなくちゃ駄目ですし、わたしが生徒会をやる以上、先輩にも生徒会をやってもらいます。ずっと……ずっと、一緒にいてください」
それは許されるの、だろうか。
うさぎと一緒にいられるのは嬉しい。でも、そんな頼ってしまって、いいんだろうか。
「先輩の返事は二つ、『はい』か『イエス』かです」
それに僕がどう答えたのだったか、今の僕は覚えていない。
ただ、今、僕はこうして、うさぎの――お嬢様の執事をやっている。
◇◆◇◆◇◆
「というわけで、この壁掛け時計の時間はずれています。実際の時間よりも若干遅く進んでいるのです」
「つまりー、今までわたしたちが25分でタイムリミットだと思っていたものも……」
「ええ、実際は30分の時を過ごしていたということですね。なんともまあ人間の感覚というのは当てにならないものです」
さて、では改めて、時計を調べてみましょうか。
時計をタップし、『調べる』を選択する。
【何も見つからなかった】
「ダメじゃないですか」
あれ? おかしいな?
あ、そっか。時間を測るなり、しないとイベント発生が発生しないんだ。
キッチンからタイマーも持ってきて、掛け時計の前で1分測る。
それから、もう一度、掛け時計を調べてみると、今度はさっきとは違うメッセージが出てきた。
【振り子の奥の方で引っかかっているものを見つけた!】
タップしてメッセージを進める。
すると振り子時計からポトリと小さな物が出てくる。
「これは……銃弾?」
【感度3000倍の銃弾を手に入れた! どんなものでも当たれば感度が3000倍になる!】
「「どう使えと!?」」
僕とお嬢様の声が見事に重なる。
いや、っていうか感度3000倍って。
ネタとしては微妙に古い気がしてしまうのだが……、まだどこかで流行っているのだろうか。
そんな疑問を抱きつつも、僕は机から拳銃を取り出し、拳銃をタップする。
そこには予想通り、『調べる』の他に『弾を変える』の選択肢があった。
「やっぱり、この弾って拳銃に込めるんですねぇ……」
お嬢様が出てきたメニューを覗き込みながらつぶやく。
そのメニューをタップしてみると、感度3000倍の弾が消え、代わりに、『普通の銃弾』が手に入る。
「ふむ……。これ、どうしましょうか」
「どうするって……はっ、先輩のケダモノ!」
はい?
「どうせその拳銃でわたしのことを撃って、あられもない姿になったわたしを楽しむとか、記録に撮ってあとで脅したりするんでしょう! 先輩の持ってるエロ同人みたいに!」
こ、このお嬢様はどこでそんな言葉を! 恐ろしい子!
「そもそもなぜ僕の本棚事情を! あれはシリアルの箱に入れて隠していたはずなのに!」
「本棚の中にシリアルの箱が置いてあったら気になるに決まっているじゃないですか!」
確かに!
世のエロ同人誌を持っている皆! サイズがちょうどいいからってシリアルの箱を本棚に置いておくと不思議がって家族が見たりするから気をつけるんだゾ☆
「で、でも、感度3000倍ってわたしも気になりはしますけどぉ。どんな快感なんですかね……。別に撃って欲しいとはこれっっっっっぽっちも思いませんけどっ、タイムリミットが近づいてきたらまあ、仕方なく打たれてもいいというか? 従者を守るのも主の役目っていうか!」
あー、はいはい。なんだかんだ言ってこの発情うさぎお嬢様は感度3000倍という感覚が気になるらしい。いや、絶対僕より変態だよ。この子。
まさに飽くなき性への探究心。うさぎの化身と言ってもいいだろう。
まあうさぎが性に貪欲なのか知らないけど。一年の多くが発情期っていうのはなんとなく聞いたことがある。
「でもそうですねぇ。せっかくですからぁ、先輩があまーい言葉でも囁きながら――」
面倒くさくなってきた。
バァン!
「はぐっ!」
僕は特に躊躇もなくうさぎに感度3000倍を撃ち込んだ。
さっきまでの鉛玉を撃ち込むのには抵抗があったものの、これならまあ良いだろう。
「ちょおおおいきなり撃ってくる人がありますか! こちらにも流石に心の準備というっっっ!?」
と、話している間に突然しゃがみ込むうさぎ。
その体はぷるぷると震えていて口からは息が漏れている。
「ど、どうしました?」
「う、動かしちゃ、駄目っ、です! ふ、服が、少し擦れただけで……んくぅ……!」
「ほっほう、お嬢様……」
後ろからゆっくりと腕をお腹に回し、軽く抱きしる。
そして、うさぎの耳のすぐそばで、
「随分楽しそうでいらっしゃいますねぇ」
「ひぐぅぅぅ! せ、先輩のドS! 変態! 婦女暴行未遂!」
「おや、僕はただお嬢様の耳元で囁いているだけですが。それともこれじゃあ物足りませんか?」
そう言いながら手でお腹をさする。
動かす度に体が震えて面白い。
「服の下に手を差し込んだり?」
「ん……く……っ!」
「ぷつんという音を立てて下着のホックを外されたり?」
「んんっ」
「その後はお嬢様の可愛い果実をこうやって、指で遊んであげましょうか?」
そう言いながらうさぎの目の前で親指と人差し指をこすらせる。
まるで何か小さな果実をこねくり回すように。
「ああああんっ♡」
その瞬間、うさぎが大きな声を上げたかと思うと、体が崩れ落ちる。どうやら気絶してしまったらしい。
「言っときますけど、僕、何もしてませんからね?」
やったことと言えばお腹をさすったことと、耳元で囁いたことだけだ。
これだけで気絶してしまうとは、流石、感度3000倍である。
まあ、うさぎがことさらHだっただけかもしれないけど。
そんなことを思っているうちに、今回の周回が終わろうとしていた。
どうやらうさぎは気絶しているのではなく、気持ちよすぎて死んでしまったらしい。
流石、感度3000倍である。
「ふむ、やはりお嬢様を感度3000倍にしてもクリアできませんでしたね」
「当たり前じゃないですか! っていうかいくら何でも調子に乗りすぎですよ!」
「おや、挑発してきたのはお嬢様でしょうが? それとも、お嬢様はあのまま残りの時間、飼い殺しの方が好みでしたか? なんなら気絶しないギリギリを責めるというのも試してみます?」
「この鬼畜執事!」
イライラしているのか、顔を真っ赤にしながらポリポリとキャベツを食べる。
「それにしても、この感度3000倍の銃弾は一体なにに使うんですかね。キーアイテムであることは確かだと思うのですが」
「どこかの鬼畜執事にでも撃ち込めばいいと思いますけどぉ?」
「ああ、いえ。僕はMじゃないんで」
「わたしだってMじゃないですよ!」
それは……どうかなぁ。
控えめに言ってうさぎはMよりだと思う。
「っていうか感度3000倍っていったい何なんですかー? なんかSNSで回ってきたから言葉は知ってるんですけどぉ」
「感度3000倍っていうのは『くっころ』と一緒に一時期流行った言葉ですね」
「『くっころ』?」
『くっころ』。『くっ、殺せ!』の略で、よく女騎士が敵(オークが多い)に捕まり、敵の慰めものになりそうなときに使われる言葉である。ただし、最近だとそんな直球なものばかりではなく、女騎士が会計を任されたり、美味しい料理を目の前で食べられたりするらしい。いや、『くっころ』カオス過ぎるだろ。
まあ、そんな中で純粋(?)に女騎士にあんなことやこんなことをする際に女騎士の感度――まあ言ってしまえば性感を上げることでより楽しもうということで出てきたのが感度3000倍の薬である。
誰が考え出したのかは知らないし、どこから3000という数字が出てきたのかも知らないが、SNS上ではその『感度3000倍』という言葉が流行っていたのだ。
というようなことをお嬢様に説明する。
「いや、オタクって訳わかりませんね」
「うん、それは僕もそう思う。……そういえば、なんで薬じゃないんでしょう?」
「ん? 薬じゃないって?」
「ほら、普通、人間の感度を3000倍にするなら薬を飲ませたり、嗅がせたりすると思うんですよ。銃で撃つなんてあまり聞かない気がするんですよね」
大体、敵はオークとか魔物なのだ。科学技術は使えない設定のことの方が多い。会計できるらしいけれども。
「そんなのてきとうに銃と親和性を持たせるためなんじゃないですかぁ?」
「それもそうなんですが……。うーん、この銃弾の説明文にヒントがあったりしませんかね?」
そう言いながらお嬢様の隣に座り、拳銃をタップする。そこには『調べる』、『弾を調べる』、『弾を交換する』の三つがあった。
『弾を調べる』をタップする。
【感度3000倍の銃弾を手に入れた! どんなものでも当たれば感度が3000倍になる!】
うーん、銃弾を手に入れたときと同じメッセージ……。
「わざわざ『どんなものでも』って書いてあるのは怪しいですけどねー。何か変わったものに撃ってくれって言ってる感じ」
「僕もそれは思います。でも、じゃあどれに撃つか」
すべての家具に片っ端から撃つという手もあるにはあるが、おそらくそれでは正解にたどり着くことはできないだろう。
掛け時計を調べたときと同じように、何かしらの条件を満たした状態でないと次のイベントが発生しない可能性が高い。
「でも、他にヒントになるようなものは見つかりませんしね」
一応他の家具についても『調べる』を押してメッセージを確認しているのだが、それっぽいものは見つからない。
それに扉は相変わらず何も反応しないままだ。
「大体、なんで扉はなんも反応しないんですか! 調べさせろー!」
反応……。
反応……?
「あああああ! それだうさぎ! 扉! 扉の反応だよ!」
つい興奮して、昔と同じ口調になってしまった。いけない、いけない。
「ん? どういうことですか?」
「お嬢様、例えば何かボタンを押してもなかなか動作しないときってなんて言います?」
「反応が悪い」
「他には?」
「調子が悪い」
「うんうん」
「先輩が悪い」
「なるほどなるほ――ちょっと待って? なんで僕が悪いんですか! 他には!?」
「感度がわる……い? 感度ってもしかしてこの感度のこと!?」
そう、機械の反応が想定したとおりでないとき、『感度が悪い』という言葉を使うことがある。
僕は扉に近づいていき、扉をダブルタップする。
反応はない。
ダブルタップする。 反応はない。
ダブルタップする。 反応はない。
ダブルタップする。 反応はない。
ダブルタップする。 反応はない。
ダブルタップする。 反応はない。
ダブルタップする。 反応はない。
ダブルタップする。 反応はない。
ダブルタップする。 反応はない。
ダブルタップする。 反応は――あった。
十回目のタップでウィンドウが一瞬だけ浮き上がり、しかし、すぐに消えてしまった。
よし! これだ!
これで、イベント進行条件はクリアしたはず。
「うん、やっぱりこの扉、感度が悪いですね」
僕はわざとらしく肩をすくめてお嬢様に言った。
お嬢様も「ほんとですよね~」と演技っぽく口にする。
では、感度が悪いときはどうするか。
これが現実世界であれば、接触不良や機械の故障を疑うだろう。でも、ここには『どんなものでも当たれば感度が3000倍になる』道具がある。
「ですから――」
そして、感度3000倍の銃弾を込めた拳銃を扉へと向ける。
引き金を引くのに抵抗はない。
銃なんて執事になるときに散々触ったし、この部屋に閉じ込められてからも何度か引いている。
だから――
「これで終わりにしましょう♪」
その聞き慣れた音と共に扉の中へと銃弾が吸い込まれていく。
扉をタップするとウィンドウが表示された。
『山盛りキャベツを食べ切れ』
「は?」
そんな腹の底から這い上がってくるような声を上げたのはお嬢様だった。
「そんなのもうとっくに食べ終わってるんですよ! 寧ろ足りないよ! もっとくださいよ! いいから出せーっ!」
ドゴッ!
彼女が扉を蹴ると、扉は大きな音を立てて開く。
その先は……光?
扉の先には廊下や別の部屋が広がっていることはなく、目映く輝く光で満たされていた。
「はぁ、これで、ようやく外に出られますねぇ」
お嬢様が光を見つめながら言う。
「……そうでも、ないみたいだよ」
「え?」
うさぎがこちらを振り返り、僕の手元に出ているウィンドウに気がついた。
【セーブしますか?
・はい
・いいえ】
セーブポイントがあるということは『セーブの必要がある』、もっと言えば『一度ではクリアできない』ことを意味している。
「えー……まだ終わりじゃないんですかぁ? 面倒くさ……」
「おや、うさぎお嬢様はもうお疲れかな?」
僕のそんな挑発をうさぎは一笑にふした。
「え~、そんなことをいう先輩こそ疲れているんじゃないですか? この部屋で休んでいますか? わたしが先に見てきてあげましょうか?」
そう言われたら、例えどんなに疲れていようが付いていくしかなくなるでしょうよ。
僕は肩をすくめてため息を吐き――
「いーや一緒に行くよ。では、進むと致しましょう、うさぎお嬢様」
『はい』のボタンを押した。
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