7.September


 九月になると、日暮れの時間が早くなっていきます。

 日没になるとドームが閉まるので、残っている人々に帰宅を促すのも、私の大切な仕事の一つでした。


 ドーム内を回りながらお客様に声をかけた後、西側の展望台に、男性が一人だけ残っていることがカメラから送られてきたデータで分かりました。

 私が背後から近づくと、柵越しに夕日を眺めていた彼は、こちらに振り返り、すまなさそうに微笑みました。


「すみません、閉館のお時間ですよね」

『はい。申し訳ありませんが』


 男性はそう言ったものの、名残惜しそうに振り返り、夕日を見つめました。私も彼の肩越しに、ドームのアクリルガラスを隔てて、ビルの向こうへと沈んでいく人工太陽を臨みました。

 彼は溜息を一つついて、私の方へ向き合いました。


「あの、明日ここで、夕日を臨みながらプロポーズをしたいので、その時は少し待っていただけませんか?」


 私は正直驚きました。その時で随分と長い間このドームに勤めていましたが、ここでプロポーズをしたいという申し出は、初めて受けたからです。

 誇らしさと同時に、妙な不安が生まれて、私は即座に承諾することはできませんでした。


『非常に有り難い申し出ですが、プロポーズをするのならば、ここよりもさらに良い場所があるのではないでしょうか?』


 私の余計な一言に、彼は緩やかに首を横に振りました。


「いいえ、ここがいいんです。……私の両親は、このドームで初めてデートしました。また、私の祖母は、ここで桜の花びらをもらったことを嬉しそうに話していました。家族の思い出のあるドームだからこそ、私もここで人生の正念場を迎えたいんです」

『左様でしたか……いらぬ心配をして申し訳ありません』

「いえ、それが普通の反応ですよ」


 男性の想いを汲むことができずに謝罪した私に、彼はなお優しく笑い掛けてくれました。


 そのようなやり取りをしてきた間に、日はさらに沈んでいき、辺りが暗くなってきました。

 男性が、「すみません、閉館のお時間でしたね」と言って出入り口へと歩いていくのを追いながら、私は管理し続けてきたドームがプロポーズの舞台に選ばれたことへの喜びと誇りとに満たされていました。






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