6.August
こちらのドームに来ていただけるお客様には、自由に見ていただいていますが、多少こちらが気をかけなければならない方もいらっしゃいます。
八月の暑い日にいらっしゃったお二人は、そのような気をかけなければならない方々でした。
『ようこそ、第三緑化ドームへ』
ゲートをくぐって入った方のデータはすぐに私へと送られるので、早速出入り口でお二人を歓迎しました。
彼らは初めて見る若い男女の二人組でした。女性の方はにこやかに頭を下げましたが、男性の方は苦い顔をします。
「やっぱすぐ分かるんだな」
『はい。データが瞬時に届きますから』
「うまく潜り抜けられる方法はあるだろうか」
男性が真剣な顔で物騒なことを口にするので、私は密かに警戒レベルを一つ上げました。
「すみません。彼、ホワイトハッカーなんで、職業病なんです」
我々のやり取りを見ていた女性が、申し訳なさそうに苦笑しながら謝りました。一方彼は、全く悪びれた様子もなく、そっぽを向いていました。
女性は義眼、男性は外部から分かり辛いですが、脊髄に人口神経を入れていました。万が一のトラブルに備えて、身体内に機械を入れている方には直接私がお出迎えして、その様子を見ることが規則となっています。
お二人と、というよりも男性の方はあまり口を開かなかったのですが、お話して、体に異変がないことを確認できました。
ついでに、女性がどこかお勧めの場所はないかと尋ねたので、私はひまわり畑を紹介しました。
「分かりました。行ってみますね」
「別にわざわざ花を見に行かなくてもいいんじゃないか?」
「二人での初めてのデートですから、美しい景色を、この目で見てみたいんですよ」
まだいじけている男性に、女性は純粋な瞳でそう言い返しました。そうして、彼の手を優しく握ります。
驚いた男性の顔を見上げて、彼女は初々しく微笑みました。
「こうして、手を繋ぐのも初めてですからね」
「……VRの中では散々繋いでただろ、今更なんだよ」
気恥ずかしさに耐え切れなくなった彼は、女性とは正反対の方向へ顔を向けました。しかし、耳まで真っ赤で、小さな笑い声が一瞬だけ漏れて聞こえました。
二人は、ひまわり畑の方向へと歩いていきます。私はそれを邪魔しないように、後ろから見送りました。
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