第121話 互いの実力
「ふぅ、何とか終わったな。皆怪我は無いか?」
舜が見張り台から飛び降りて駆け寄ると、敵の殲滅を確認したレベッカが、仲間達を振り返っている所だった。莱香が少し危なかった以外は特に問題はない様子であった。
「ふん、弓の腕前がどうこう言ってたけど、ありゃ確かに大したもんだね。前に言った言葉は取り消すよ。あんたは凄腕の狩人だ。それは認めるよ」
戦士としての腕前は、他の面々に比べれば一歩譲るロアンナだが、逆にその遠距離攻撃は他の戦士には真似出来ない大きなアドバンテージだ。今回も接敵の前に2体もの敵を減らしていた事からも解るように、実戦における有用性は非常に高い。
「あら、意外なお言葉ねぇ? ありがとうと言うべきかしら? ……まあ、あなたも言うだけの事はあるわね。鉄鼠を弾き飛ばした上に、一撃で両断って……どんな馬鹿力よ」
フラカニャーナの賛辞にロアンナも彼女なりの賛辞を返す。素直じゃない性質のロアンナは、特に面識が浅い者には誤解されやすい傾向があるが、果たしてフラカニャーナはニィっと白い歯をむき出しにして笑った。
「あっはっは! 褒め言葉として受け取っとくよ! まあ、何だ。これから宜しく頼むよ、ロアンナ!」
「……! ふん」
そっぽを向くロアンナだが、その動作が照れ隠しであるのは、特に洞察力に優れていなくても容易に察せられた。
「あ……あなた、最後のあの爆発は一体何ですの? 魔法は進化種にしか使えないはずじゃなかったんですの!?」
一方ではジリオラが、リズベットを見ながら顔を若干青くしていた。どうやらビレッタの神殿で自分がかなり危険な状況だった事に、ようやく思い至ったようである。
「あれは魔法ではありません。あくまで神術を応用した技術です。勿論相応の神力が必要なので、誰にでも使えるという訳ではありませんが」
「そ、そうなんですの……」
言いながらジリオラの視線が、リズベットの持っているメイスに向く。彼女が倒した鉄鼠は、それはもう酷い有様で、リズベットの顔や身体には鉄鼠の脳漿や体液などが飛び散って付着していた。メイスに至っては体組織の一部が絡みついており、かなりグロテスクな事になっていた。ジリオラの顔が更に青ざめる。
「ふふふ……でもジリオラ様も中々の使い手でいらっしゃるようで何よりですわ。これからは共にこのクィンダムを守る為に尽力して行きましょう」
「ッ! ……こ、こちらこそ宜しくお願い致しますわ!」
若干、というかかなり引きつった笑顔を浮かべながら応じるジリオラ。どうやらジリオラにもリズベットの怖さが実感できたようである。これで無駄なトラブルが減ってくれれば良いのだが……
莱香の方に目を向けると、軽くお通夜状態になっていた。自分だけが無様に敵の攻撃を喰らってピンチに陥っていたのが、相当堪えているようである。
「はぁ……私、駄目ですよね、こんなんじゃ。皆凄く強い人ばっかりで、私なんて全然……」
「嘆く事ではないわ、ライカさん。あなたに足りない物は実戦経験だけよ。きちんと研鑽と経験を積めば、あなたはここにいる誰よりも強くなれる素質を持っている。私が保証するわ」
「ク、クリスタさん……」
そんな彼女達に近づく者が1人……イエヴァだ。
「あなたの戦い、見せてもらった。正直、あなたは弱い」
「う……」
「でも……伸び代は一番大きい。その女の言う通り」
「え……?」
「それが確認できただけで充分」
莱香が戸惑っていると、クリスタが苦笑したように間に入る。
「ありがとうございます、イエヴァさん。私もあなた方の戦いを見させて頂きましたが、相当の腕前でしたね。頼もしい限りです。これから宜しくお願いしますね?」
「……あなたに褒められても皮肉にしか聞こえない」
それだけ言うとイエヴァはさっさとレベッカの方へ歩いていった。クリスタが再び微苦笑する。
「あ、あの、クリスタさん、今のは……?」
「うふふ、何でもないわ、ライカさん。それよりイエヴァさんもあなたの素質は認めている。彼女の眼力は確かよ。もっと自信を持ちなさい」
「……! は、はい! ありがとうございます、クリスタさん!」
クリスタに励まされて、莱香の顔にもようやく明るさが戻ってきたようだった。
「よし、全員問題なさそうだな? 待たせたな、シュン。ご覧の通り何とか無事に勝利する事ができた。他にも色々得る物は大きかったようだ。我らに任せてくれて礼を言う」
「いえ、皆さん見事なお手並みでした。レベッカさんも更に強くなられたようで、凄いと思います」
「っ! ……ありがとう、シュン。よし、皆王都まであと一息だ。後の処理は村人達に任せて、我らは先を急ぐとしよう」
隠れていた農民達に無事駆除が完了した事を告げると、一行は再び王都への道を進んでいった。
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