第169話



 開放された門を住人と共に潜り、入って直ぐの大広間にてこれからの説明を行った。

 終始不安そうな顔をしていたが異論はなく、このまま移動する人員を募れば千人程度が立候補したので彼らをゲートで送り、俺たちもそのまま帰国した。

 

 見慣れた町並みを指差し彼らに説明する。


「ここがうちの国だ。

 悪いが全員分の家を用意してやることは出来ない。

 だから魔物の討伐が終わるまでは野営になる。

 食事はこっちで出してやるからそっちの心配はいらないからな」


 と説明するものの大半が転移に驚いてそれどころではなさそうだ。

 視線を彷徨わせ不安そうな顔を見せている。

 そんな中、助けた青年が声を上げた。


「雨風を凌げる程度の場所を作りたいのですが、土地をお貸し頂けませんか?」

「おう。勿論いいぞ。材料もある分は出してやるから好きにやってくれ」


 そう告げて倉庫から木材関連をゴッソリ持ってきて渡せば、彼は仲間を集め早速動き出した。

 だが、他のその他大勢はただただ立ち尽くしているのみ。


 こういう時はあれだ。メシだ。

 ああ、同郷の奴らに用意させよう。

 それで少しは落ち着くだろ。


 そう考えてショウカから移り住んだ奴ら全員を呼び出し、事情を説明して宴会でも適当に始めてくれとお酒と食料を出してその場を後にした。


 やっと終わったとアディと二人手を繋いで家に帰れば皆が不機嫌そうにこちらを見ていた。


「いや、ちょっと待って。何で怒ってるんだよ。

 面倒見てやるのは飯だけにしたから仕事は増やしてないぞ」

「あれ? 二人でデートしてきたんじゃ……?」


 サラが首を傾げてアディに問う。


「そうよ。行ってみればいつもの人助けだったけどね」


 とアディが返せば「ああ、なるほど」という声と共に皆は機嫌を直した様子。

 いつものという所に納得がいかないが許されたのならばそれでいいと口をつぐむ。


「そう言えばアレクはどうしたんだ?」

「まだ帰って来てないな。連絡取ってみたらどうだ?」


 それもそうかと通信を繋げれば、難民を連れてこちらに向かっているそうだが数日はかかる距離だそうでその間護衛に付くらしい。


「流石カイトさんの親友だな。お人好しなこって」

「いや、まあ、うん。俺は違うけどあいつはお人好しだな」


 レナードのそういう事にしておいてやると言わんばかりの顔にイラついたが、俺は大人なので我慢しつつ今後の予定を話した。


「――――――――そんな訳で一先ず避難の受け入れで数日そっちに行くから」


 どんな反発が来るかと恐る恐る説明したのだが思いの外反応は薄く、気にしたそぶりすらもなかった。


「ならば討伐を再開してしまった方が良かろう。

 それほどの数では食料だけでも馬鹿にならんじゃろうしな」

「そういう事なら今の内に国を乗っ取ってしまった方がいいですね」

「そうね。今なら民心も付いてくるでしょ」


 ホセさんが討伐再開を示すと少し意外な方向へと話しが流れた。

 確かに俺も頭を変えてしまった方がいいとは思っていたが、乗っ取るつもりなんて更々ない。

 これ以上ソフィアたちの仕事を増やすわけにはいかないと即座に訂正を入れた。


「ちょっと待った。俺は乗っ取るつもりなんてないぞ!

 国はその国の人間が治めるもんだろ」

「でも、潰されるくらいなら乗っ取られた方が幸せだと思いますよ。

 ご主人様に乗っ取られるならむしろご褒美ですし」


 いやリディア、お前な……


「ダメダメ! 俺は気に入った奴しか身内に入れるつもりはないの!」

「……救世主殿がそう言うのであれば致し方ありません」

「言われてみりゃそうだな。ショウカが身内ってなるのは確かに嫌だわ」


 自然と口に出た言葉だが妙に皆が納得してくれた。

 手助けしてやったのに敵対してきたのだから当然か。


 そんなこんなで話し合いは続き、結局首都の近場を即討伐して避難民は出来る限り受け入れない形を取る事に決まった。

 野晒し状態なんだしその方が俺的にも気が楽だ。

 その件はそれでいいが、そろそろヘルハウンドの討伐を始めようという声が強まってきている。

 俺としては出来る限り余裕を持って当たりたいところ。

 進化しそうな個体が居るのならば話は別だが、そうじゃない限り人間の方が成長速度が段違いに速いのだ。

 仮に雑魚討伐だとしてもこちらの力が強まるのは間違いない。

 だから急いで探しにいく必要性はないのだが、そんな説得もそろそろ限界の様だ。

 これ以上止めても仕方ないとヘルハウンドが居る場所を教えた。


「カイトさん、知ってて捜索させてたんかよ?」とレナードに睨まれた。


「ごめんな。命には代えられないからさ」と詫びれば「ったく……そう言われちゃ怒るに怒れねぇじゃねぇか」と呆れられてしまった。


 言うことを聞かないから黙らざるを得ない状況だっただけに『悪いのは俺だけじゃないだろ』という思いもあるが言わぬが華だろう。

 そんなこんなで話は続き、割りと捗った会議も終えてその日は解散となった。




 一晩が明けて再びショウカへと赴く。

 今回は討伐を手伝う為に戦闘員の大半を連れてきている。

 と言っても十数人なので大した人数ではないが。


 上空からお城を眺めれば街の中はすっかり魔物で埋め尽くされていた。


 色々な所が破壊されている。

 要するに逃げ遅れた人が沢山居たという事だ。

 ゴザ村でもそうだったが、魔物は人が居ない人工物を襲わないのだから。


 ただ、お城の中はしっかり守れている様子。

 未だに外壁の中にすら進入を許していない。

 穴が開いてしまっていた門も半分近くが塞がれていて補強されていた。

 隙間から数匹が断続的に入ってきている状態だが、優々と討伐がなされている状況だ。

 外壁の方も、囲いが小さくなった分硬化に使う魔力量が減ったのだろうか、特に焦った様子もなく兵士たちは外壁の上から魔物の様子を伺っている。


「これは無理に全てを請け負わない方がいいな」


 勿論このまま放置は出来ないけども、彼らに討伐をさせて戦力増強させてしまった方が良いのではないかという結論に至った。


 だが問題はそれを誰がやるかという話だ。

 本来言い出した俺がやるのが筋だろうが、その間にヘルハウンドをやりに行くと言い出されては頷けない。


「私たちも上位種をやりに行くならカイト様には居て欲しいです。

 ならば任せられる者を呼び出しましょう。居るでしょう? うちにもまだ人員が」


 あぁ……マイケルたちか。

 けど、厳しくないか? 

 ハウンドドックは問題ないけどブラッディハウンドはあっちの人には厳しいと思うけど……

 だってアイネアースじゃ七十階層以上とかそういうレベルだよ?


「そんなのここに連れてくればすぐに成長しますわ。

 まあでも本人の意思がなければ意味がありませんわね」


 そう言ってアリスはマイケルたちと通信を繋いだ。


「私です。これよりカイト様の指揮の下、聖戦を開始します。

 必要とあらば手伝いに来てくださいますか?」

『――――っ!? 勿論ですよ! どちらに行けば!?』

「その前にいくつか尋ねて置かないといけない事があります」


 アリスは彼らにどの程度の強さなのかを尋ねた。

 基準には達していない。

 当然だ。その強さが得られないから残るという選択になったのだから。

 だが、レベリングは続けていた様で、現在七十階層程度だそうだ。


「十分ですわね。次はポルトールに……

 いえ、そちらは国家防衛に残し『希望の光』に依頼をしますか」


 ああ、アンドリューさんたちか……ってそこは拙くない?

 言うこと聞かない子が居るんだよ!?


「ちょ、ちょっとちょっと? ステラを呼ぶの?」


 過去のトラウマが想起され、通信魔具を引っ張り出すアリスの手を止めた。


「――――っ!? 希望の光は呼ばなくても良いんじゃないかの?」


 ほらぁ。ホセさんもトラウマになっちゃってるよ?


「大丈夫ですわ。今回はここを任せるのです。当然別行動になりますから」


 その言葉に珍しくホセさんが「信じてよろしいのですな?」と疑いの視線を送り、アリスが頷けば彼は引き下がった。


「前から思っていたんだけど、やりたいならやらせれば良いと思う。

 それで死んでもそれは本人の満足行く死でしょ。それは騎士の本懐」

「あぁ、国の防衛に命を賭すって事がか……確かにな」


 ソフィの言う騎士の本懐という言葉に思わず納得してしまった。

 うーむ。最近それでもいいかなって思える様になってきてしまったのは、拙い変化なのか正常なのか判断に迷うところだ。


 どちらにしてもここを任せる程度なら死にはしないだろうとアリスの提案にオーケーを出し、その場で連絡を取れば『希望の光』が解散したという話を聞かされ思わず変な声が出た。


「ちょ、何でですか!?」

『色々あったんですよ。アンドリューだけじゃなく俺も結婚しましたからね』


 ああ、家庭を持ってって話か。そりゃしゃーないか。

 解散しなくてもって思うけど、彼ら以外が『希望の光』って名乗っても微妙だし。

 そうか、あれから二年以上経ってるもんな。


「わかりました。じゃあ他を当たります」

『待って依頼は受けるわ。だから私も連れて行きなさい』


 あれ、何か聞き覚えのある女性の声が……と思えばマリンさんだった。

 何故アイネアースにと尋ねれば、ヒューイさんのお相手はマリンさんだった。

 国の交流として魔物の勉強会なんかを開いて会っているうちにそんな仲になったのだそうな。

 マリンさんは総大将じゃなかったっけと聞いてみれば、ゆくゆくはカノンに二人で定住するという約束をする代わりに数年は自由に動ける時間を貰ったらしい。


『あんな死闘はもうごめんだけど、何もないのも退屈なのよ』


 あの話が出て皆が顔を顰めるが映像通信ではないのでそれは伝わらない。

『ねっ、あなた?』とイチャ付く声が聞こえ、こちらは微妙な空気が流れる。


 まあ本人が望むならばこちらとしてはありがたいとお願いすることにした。

 他の人にも声を掛けて誘って置いてくれるらしいのでそれもお任せする。

 ヒューイさんとマリンさんが仕切ってくれるならば俺としても安心だ。


 そうして話が纏まった後、重要な事を失念していた事に気がついた。


「そう言えば、転移で連れてきたら避難させる為のゲート出せなくなるじゃん」


 俺たちが助太刀するのだからもう安心なのだが、民心はそうはならない。


「あっちで合流するまでの時間や準備もありますし、それまでに安全なことを示せばいいんじゃないですか?」


 アリーヤの言葉にそれもそうか、と納得して俺たちはショウカ軍の居る城門前へと降りていった。


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