第131話




「あははは! 凄い、本当に飛んでいるよ! もう町が見えてる!」


 彼女は、力強くしがみ付いては居るものの物怖じした様子はなく楽しそうにはしゃいでいる。

 ならばとスピードを上げて時間短縮だ。


 数分間全力で飛べば直ぐに街に着いた。


「もう着いた。懐かしいな。本当にひさしぶり」


「こっちだよ」と彼女に誘われるままに通行料を払い門を潜る。


 上空から見た通り、余り発展はしていない町だ。

 だがここは商店街なので結構な賑わいを見せている。


「うわぁ。今はこんなに人が居るんだ。こんな活気のあるアトル初めて見た」

「なるほど。これ以上は人を入れられないから市民権を早々買えない値段まで上げているってのは本当なんだな」

「どこもそうだけど、物資に余裕を持てなくなる程は受け入れられないからね。

 まあ、本当かどうかなんて私らにはわからない話だけど。

 夢を見られるほど綺麗な世界じゃないから」


 食料なんてダンジョンがあるんだからいくらでも取って来れるだろう。

 それに関しては動物を一から育てる必要のない地球よりも断然楽だ。

 

 とはいえ、文化的に戦わせて貰えない女性の彼女にそれを言っても始まらない。

 早速物を売りに行きたいなとお願いすれば、一番大きな商会へと案内してくれた。


 ぼちぼち立派な建物だ。

 まあ、うちのギルドホールの半分程度か?

 そんな上から目線で『ふーん』と周りを見回しながら中へと入った。


「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件で?」


 味のある顔をした男が営業スマイルを携えてキアラに問いかける。

 彼女は頼んであった言葉をそのまま男に伝えた。


「私は付き添いです。

 この御方は生まれつきで耳と尻尾がないだけで奴隷ではありません。

 ですから、私が必要かと思い同行をお願いしただけなのでお構いなく」


 これで俺が喋っても奴隷じゃない体で話せるかな?


「ああ、用があるのは俺だ。大量にダンジョン産の物を売りたいんだ。

 とりあえずで査定だけをお願いしたいんだけど、できるかな?」


 男は少し困惑した空気を出したが直ぐに「勿論です。かしこまりました」と応え俺たちを応接間へと案内した。

 思っていたよりも丁寧だ。侮られている空気もない。


「どこぞのお偉いさんを匂わせたからね。

 実際売る物も多いしこのまま丁重な扱いされると思うよ」


 緊張している様子のキアラ。


「そんなに硬くならなくて大丈夫だよ。俺の強さは見ただろう?

 あの盗賊たちが百倍居ても俺一人で勝てる。その意味はわかるだろ」


 勿論、理不尽に攻撃をされたりしない限りは敵対はしない。だが不安に感じる必要はないと伝えた。


 彼女の頭を撫でて落ち着かせれば、落ち着いたのか少し所在無さ気な顔でこちらに視線を寄越す。


 恐らくは、先ほどまで保っていたお姉さんとしての威厳がとか考えていそうだ。

 だが、これ以上横暴なお姉さんを作る訳にはいかない。


 これからは俺が主導権を握るのだ。絶対に。


「お待たせ致しました。では、査定品を見せて頂いても宜しいですか?」

「ああ、とりあえずこれを。他は袋に入ってないがこの十倍はある」


『アイテムボックス』から人一人くらいなら余裕で入る大きさの袋を取り出した。

 魔石がパンパンに入っているので地面に立てて置いて口を開けた。


「はい……? えっと、今どこから……」

「ああ、スキルで収納が出来るんだ。こんな感じに」


 間違いなく激レアスキル。

 驚くのも当然だろう、と袋をもう一度出し入れして見せた。


「それでこれの単価っていくらくらいになるんだ?」


 テーブルの上に魔石をコロコロと数個置いて見せた。


「こ、これは!? これがその袋全部……少々お待ちください。

 私の裁量権を大きく越えてしまっておりますので上司を呼んで参ります」


 すっと立ち上がると颯爽と部屋を飛び出していってしまった。


「何階層のやつなの?」

「これは四十一だな」

「あぁ……それはああなるのも当然ね」


 しばらく待つとアーロンさんたちと似た感じのナイスミドルの悪そうなおっさんが二人入ってきた。


「待たせてしまったね。では拝見させて頂くよ」


 顔とは裏腹に物腰は柔らかい。ルーペで一つ一つしっかりと魔石を確認していく。

 ……魔石の何を見てるんだろう。

 何かそれでわかるのか?


「接合部分もありませんし、大きさも見たことがないほどです。これはどちらで?」


 ああ、なるほど。

 くっ付けて大きくした訳じゃないというのを確認していたのね。


「四十一階層で魔物を倒してドロップしたもんだよ」

「失礼ながら、常識を外れ過ぎて簡単にそうですかとは頷けませんが……」

「うーん、別に一個くらいなら動力として使ってみてもいいよ?

 ああ、他のドロップでも見る?」


 と、ある程度高価なミスリルの原石や、四十一階層でドロップした大蛇の肉をポンポンと並べた。


「これはミスリル原石!? これをどこで!?」

「東の方のダンジョンの四十階層のボスだね。

 こっちの肉はこの魔石と一緒に落ちたドロップ。

 ミスリルは使う予定があるからダメだけど、肉は欲しければ売るし試食してみてもいいよ?」


「よ、宜しいので!?」


 おっさんの片割れはまだ訝しげにしているが、一人はノリノリになって調理の準備を始めた。

 査定に来て試食会をすると思わなかったが、味がわからなきゃ値段も決められない。流石に深い階層だから問答無用で高いという事にはならないだろうからな。


 ちなみに、俺はミノタウロスの方が好きだ。

 村の皆の意見はちらほら分かれていて、若干だが蛇肉優勢だ。


 小さなフライパンを使い、器用に焼いていく。

 味を知る為か、調味料は塩だけだ。


「では、失礼して……っ!? これは何と言う美味!!」

「――――っ!! ほ、本物だ……これは本物だぞ!?」


 訝しげにしていた男が初めてまともに口を開いた。

 どうやら彼は蛇肉を食べた事があるらしい。


「こ、これを如何ほどで譲って頂けるので!?」

「いや、わからないから金額の査定をお願いしに来たんだけど……

 そっちはミノタウロスよりも高ければいくらでも良いよ。

 それより魔石はどうなの?」


 そう。数を出す気がない蛇肉はどうでもいいのだ。

 ミスリルも装備にする予定だから売る気はない。

 だから、魔石の値段しか俺は興味がないのだ。


「そ、そうですな……本物だとわかった以上一個辺りの相場は金貨五枚から……」

「いや待て! それは希少価格だ。

 これだけの数が出回れば希少ではなくなる。

 全てにその値段はどうやってもつかないぞ」

「そ、そうであった! し、失礼致しました」

「だが、このままでは明確な値が出せない。

 直ぐに今までのオークションの資料を持って来させよ」


 彼らは必至に計算と協議を交わし、最終的に金貨二枚という値段に落ち着いた。


 袋の中だけでも魔石の数は千を越えていたので、買取まで結構な時間待たされる事になったが無事、大金貨二百枚以上になった。


 これ以上は需要を見てからじゃないと難しいと言っていたので、これ以上の買取は無理そうだと店を出た。

 そこからは片っ端から店に入り、使う可能性があるものを買い込んでいった。


 昔は人族との交流もあったのだろうか、と思うくらい知ってる魔具が多く売られていた。

 通信魔具や冷蔵庫、コンロ、電子レンジの様な加熱機など、作りは違えど効果は同じ物ばかりだ。

 そしてそこら辺も重要だが、更に拘りたいのは野営具。つまりは寝具だ。

 あっちに居た時はレナードと一緒に車を改造して心地よく寝られる様にしていたが、もうこうなってしまっては車である必要すらない。

 普通にベットを『アイテムボックス』の中に入れて置けばいいだけだ。


 と言う事で高級の家具店でベットから寝具一式を三セットほど買って『アイテムボックス』にしまいこんだ。

 そして一番の本題と言っても過言ではないミスリル装備の作成だ。

 いや、昨日までの本題は別にあったが……それは忘れよう。


 鍛冶師の知り合いも居るみたいなので彼女の案内に再び付いていく。


「おじさーん、元気してるぅ?」

「誰だ……………………キアラか?

 お前とうとう男になっちまっ、あいたたたた待った! 冗談!」

「もぉ、数年振りに会って開口一番それなの!?」


 ジト目で睨みながらも短い髪を気にするように弄っているキアラ。

 じっと見ていれば俺の存在を思い出したようで彼に紹介をしてくれた。


「今日はお客さんを連れてきてあげたんだからね。感謝しなさい」

「えっと、カイトと言います。よろしく」


 どうやら、こっちには姓はないらしいので名前だけを名乗って頭を下げた。


「おう、今うちにあるのはこれで全部だ。好きに見て行きな」


 快く返してくれたのは良いのだが、そうではないんだとミスリルの原石を出して彼の前に置いた。


「これで両手剣、防具を上から下まで二セット作って欲しいんだ。

 燃料の魔石も大量に用意してある。好きなだけ言ってくれていいから」


 問いかけても返事が出てこないほど固まってしまったようで、カウンターをコンコンとノックして返事を催促したら「おじさん! しっかりしてよ!」とキアラが頭を叩いて彼は再起動した。


「ちょ、ちょっと待て。本気で俺にミスリルの加工を任せるのか?

 確かに師匠の元で一度手伝った事はあるが、個人では初めてだぞ?」


 失敗したら再加工できないのかと問いかければ、燃料代金が膨れ上がるだけでミスリル自体は使えるとのこと。


「なら心配いらないよ。何か入れ物ある? このくらいの」 


 と、腕を広げて大きさを示せば大きな盥を持ってきてくれた。そこに魔石を大量に流し込む。


「うぉぉい! 待った待った!

 一個一個がでけぇなおい。ってそうじゃねぇ! そこまでは使わねぇよ!」

「まあ、失敗したりとか、拘ったりしたい時用で。ちなみに加工代金はおいくら?」

「そ、そうだな……ミスリル装備一式だと大金貨で最低五十枚。

 燃料とミスリルが八割程度だと聞いている。

 こっちとしても初仕事だし、二セットと両手剣込みで大金貨十枚でどうだ?」

「じゃあ、お願いします。

 余った魔石もサービスでプレゼントするんで良いもんよろしく」

「お、おう! 全力でやるぜ!

 しかしキアラ、お前とんでもない大物と知り合いになったもんだなおい」

「へっへっへ。今日はデートなの。口説かれ中なのよ!」

 

 と、腕に抱きついてくるキアラ。

 まあここのおっさんになら別にどう誤解されようが構わないので、頭を撫でて「ハイハイ」とあしらった。

 その後、採寸や型のサンプルの種類を幾つか見せられてその中から選び、後は出来上がるのを待つだけとなった。

 本来、二日もあれば終わるのだそうだが、今回は一応六日欲しいと言われたのでそれに了承した。


 そうして鍛冶屋への注文も終わり、街に来た用事が全て完了した。


 最後にお礼としてキアラを女性服を売っている店に連れて行って、好きなだけ買ってあげる言って一緒に彼女の服を選んだ。

 カジュアルで動き易い女性服や、村娘が着ていても悪目立ちしない限界ギリギリなフリフリドレスを数着選んで着せては買ってと着せ替えて遊んだ。


「おお、似合ってる似合ってる」

「あはは、あの子達が抱かれたがったのもわかるな。

 こんなにされたら惚れてしまうよ?」

「ちょ、ちょっと待て、抱かれたがったのではない! 襲い掛かったんだ!」

「あはは、ごめんごめん。見てたから知ってる」


 畜生……

 襲われるところを皆に観察されて、本当に家畜のような気分だ……

 いや、まあ、快楽に抗いきれずわからされた俺も悪いのだけども。


「てか、こっちの人って性に大らかなイメージが付いちゃったんだけど、嫉妬とかしないの?」

「あはは、するに決まってるじゃん。

 だから基本は隠すし身持ちが固い人も一杯いるよ。

 ちなみに私は固い方だからね?」


 確かにキアラは混ざらなかった……信じて良いんだよな?

 しかしそりゃそうだよな。嫉妬しないはずがないか。


「そっか。なんかちょっと安心した」

「なにかな? 私に嫉妬して欲しいって前振りなのかな?」

「違うっての! 絶対あっち帰ったら浮気したって怒られるわ……」

「村に帰ってもエヴァちゃんたちに責められそうだしね?」


 くっ……そうだった。

 いや、待て。そういえば俺がそこで気に病む必要なくね?

 だって、俺犯されたんだよ?


「そうそう。そうやって堂々としてればいいんだよ。

 性の発散はさ、適当に誰かが暴走してやってくれるから」

「だから、襲われるのはごめんだっての!」

「大丈夫大丈夫、私はするとしてもあんな酷いことできないからさ」


 す、するとしてもってどういうことだよ!?

 こいつめ、仕返しに恥ずかしがっていたフリフリの服のまま帰らせてやる。


「え? ちょっと何する気? きゃっ!?」

「このまま皆の前に連れて行ってやる。覚悟しろ、お姫様の刑だ!」

「何それ、素敵っ!」


 あれ? 喜んでる……恥ずかしいんじゃないの?

 え? なに? うれしはずかし?

 そ、そう。


 そうして村に帰った後、彼女は女性陣に買って貰い過ぎだと吊るし上げを喰らい、大半の服を強奪されていた。

 普通に羨ましいって言わないで持っていく辺りが性質が悪いが、俺がそこに口を挟む事は終ぞ適わなかった。




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