第132話



 あれから、ノアたちにはバレないままに、稀にリリィさんたちに襲われる日々が続いた。

 参加人数も十人ほど増えた。

 何度も行われた蛮行に、もう俺に抗う心は残っていなかった。


 いや、そんな事今はどうでも良いんだ。

 それよりも今は――――――――――――



「信じられない! 信じられない! 信じられない!

 リリィ姉さん、どういう事なの!!」


 深夜に忍び込もうとしてきたノアとルナとエヴァ。

 俺で遊んでいたリリィとバッティングしてしまった。

 決定的瞬間の目撃である。


「ち、違うの。これはね、そう、お礼ってやつ?

 ねぇ、貴方からも弁解してよ。違うからね、エヴァ」


 何も違わないのである。


「俺さ……汚されちゃったんだ。代わる代わる皆で寄って集ってさ」


 俺はNTR物よろしく、絶望の表情を作り語って見せた。


「ちょ、ちょっと!? それは最初だけでしょ!?」

「……何それ。最初は無理やりしたってこと? 助けてくれた人に!?」

「それは、その……溜まってそうだったから、お礼をしようと思ったら悪乗りしちゃった、みたいな……?」

「最低! そんなの盗賊以下じゃない!」

「うぐっ……」


 そうそう。言ってやって!


 ああ、でも余り手酷い喧嘩になられても困るな。

 今のエヴァの力じゃ間違って殺してしまう事だって十分ありえる。


「エヴァ……」


 事が起こる前にと怒りに震える彼女をそっと抱き寄せた。

 こちとら全裸なので三人の視線が痛いほど刺さるが事が起こってからでは遅いのでこのまま継続する。


「冗談だよ。いや、嘘でもないんだけど……

 今はもう気にしてないというか、性欲発散できて助かってる部分もあるし」


 チラリチラリと赤い顔でこちらを覗き見るエヴァは言葉を返す余裕はなさそうだ。


「ズルイ! ズルイ! ズルイ! ズルイ!

 真っ直ぐアタックしてたのが馬鹿みたいだよ!

 そんなので良いなら私のことも愛してよ!」


 そう答えたのはノアだ。

 仕方がないと彼女も抱き寄せる。


「馬鹿ね、奥手な相手に愛して欲しいなら言葉だけじゃダメよ。

 無理やり既成事実作る所から始めるの。

 私だって最初は拒否されたけど今は受け入れられているの。

 本人も言っていたでしょう? 助かってるって」


 リリィの言葉にノアとエヴァの目がキラリと光り、ルナがゴクリと唾を飲んだ。


 おい馬鹿、そんな訳あるか!!

 なんてことを教えるんだ!

 俺はNOと言えない日本人なんだぞ!?

 お前たちがガチの喧嘩にならない様にと考えてやっているのに!


 え? 何? 最後までしてあげなきゃ収まる訳がない?

 可愛い姪っ子に嫌われたくない?

 知るか馬鹿ぁ!


「ちょっと待て。言っただろ? 相手が居るから責任取れるかわからないんだぞ」

「もう十分だよ。助けてくれて間違いなく一生、生きていける力も貰ったもん」


 リリィが小さな声で「じゃあ、後上手い事よろしく」と颯爽と出て行った。

 最低である。


「ああ、もう! どうにでもなれだ!」













 そうして夜が明け、とうとう引き返せない所までやってきてしまった。


 悩んだ。深く深く悩んだ。

 その結果どうにもならないことに気が付いた俺は、開き直ることにした。


 だって俺、一応ちゃんと抵抗したもの。

 お店の女の子扱いでも構わないって襲われたんだもの。

 だからお店に行ったくらいな気持ちで居ようと決めたのだ。








 そんな面持ちで変わらぬ日々を過ごして居れば、いつの間にか半年の時が経っていた。


 って半年も経ったのかよ!?

 代わり映えしない日々って経つのが早いなぁ。


 日課の様にミスリルゴーレムからミスリルをドロップしたらおっさんに頼みに行くサイクルを続けて居たら五十セット以上のミスリル装備が出来ている。

 剣は多めに作っているので百を超えていた。

 防具一式でも一つから三セットと半くらい作れて、ドロップ率もかなり良かったので想像以上の数に膨れ上がっている。


 こんなに作ってどうするのか、自分ですら何も考えていない。

 まあ、いつか使うだろう。

 もしかしたら『絆の螺旋』も少しは人が残ってくれてるかもだし。

 そしたら残ってくれてた奴にプレゼントしてやろう。


 レベル上げも順調に進んでいる。五十階層のボスも倒してから四ヶ月以上経っている。

 最初は多少苦戦したが、今では軽く倒せるほどに成長した。

 今は六十階層のボスに向けて最終調整を行っているところである。

 なかなかに難易度が高くなってきていて、少し余裕を持とうとひたすら雑魚狩りをしていた昨今だったが、今日は珍しく狩りに行く前にローガンさんに引き止められた。

 

 なんと俺にお客さんが来たと言うのだ。

 それも他の国の王様がお忍びで来たらしい。

 昨日の夜に先触れが来て、先ほど到着したそうだ。


「何でまた……」と関わりを持っていないはずの相手がいきなり来た事に疑問が沸き問いかけたが、どうやら俺が売ったドロップの話を便りにここまで来たらしい。


 何故王様がしょっぱなから来るんだよ。最初は事実確認だろ?

 と思ったのだが、それはもう来ていたそうだ。 


 まあ何にせよ、アマネさんたちが応対しているのなら知らんと追い返す訳にも行かないとクレアの家へと向かった。

 この村で一番立派な家を新たに建ててそこに住んでいるアマネさん一家。

 俺一人で行くのも心細いのでリリィやノアたちも巻き込んでお邪魔した。


 すぐに居間へと通されて王様とのご対面となった。


 王様って割にはかなり若い。リリィと同じくらいの外見だ。

 人によっては二十代前半と見ても可笑しくない。

 かなりイケメンなのでこの世界ではフツメン以下なのだろう。

 

「ほう、聖獣王の後継者という訳かな……?」

「は? いやいや、関係ないよ。無関係!」


 顔を合わせた瞬間にそんなことを言うものだから、素で返してしまった。

 だが、護衛も含めて睨まれることすらなく話が続く。


「ふむ、アマネ婦人やクレア嬢と居るので勘違いをした様だ。失礼をした。

 私はワールの王、第三十八代ワールである」


 これはご丁寧に、と頭を下げて俺も自己紹介をした。

 何故か同席をすると言い出したアマネさんやクレア、ローガンさんも名乗り本題に入る。

 今日はどんなご用件で、と。


「うむ。単刀直入に言うと、貴殿の力を貸して欲しいのだ。魔物の討伐でな」

「そんなもの、兵力自慢のワールであればこやつに頼むほどではあるまい。

 本音を出さねば嫌われるぞ? カイトは好い奴だが割りと心が狭いのだ!」

「クレア、立場を弁えなさい。私たちは今客人としてここに居るのよ」


 横から口を挟んだクレアがアマネさんに怒られて黙らされた。

 客人も何もアマネさんの家なのだが……

 しかし、彼は気にした様子もないと言うより元気なクレアを見て若干嬉しそうだ。


「やはり、本物であるか。ならば是非ともお願いする。

 キングが生まれてしまってな。どうにもならんのだ」

「ええと、何のキングでしょう……?」


 順調にレベリングが進み五十九階層まで進んでいるが、キングと聞いてはトラウマが甦る。

 実はまだキングじゃなかったというところが特にトラウマだ

 今も、命は一つと六十階層のボスの為に念入りに雑魚討伐をしているくらいだ。

 やばい魔物はやめてくれよと彼を見据える。


「ゴブリンキングだ。それ以外のキングなどが生まれたら世界の終わりだろう。

 しかし、ゴブリンキングも大きな脅威だ。

 キングが居る以上通常のゴブリンも少なくとも百万は居るだろうしな」


 はっ? なんだゴブリンかよ。


「……いや態々俺の所に来なくても、その程度は処理できるでしょ?」


 クレアでは無いが本当に俺が出るほどじゃないだろ。

 だってオークは二十五階層、ゴブリンは十一階層程度だよ。


 と思ったのだが、どうやら皆はそうは思っていない様な空気だ。

 ローガンさんに「違うの?」と問いかけてみた。


「いや、キングであるぞ。ワール王の言は正しい。

 少なくともこの周辺国で倒せると思える者はおらぬな。

 各国が総力をあげれば討伐は可能であろうが、どれだけ被害が出る事か……」


 ローガンさんにも間違っていると言われてしまった。


 なるほど。

 よく考えてみれば、こっちで言う三十五階層より上のボスとかそういう強さか。

 そう考えると結構きついのかも。

 オークキングもどきとやりあった経験がある手前、侮り過ぎて居たらしい。


「なるほど。わかりました。キングだけでいいですよね?」

「……引き受けてくれるのか?」

「ええ。ただ、通常のゴブリンまで全部倒すような真似はしませんよ。

 俺も暇じゃないので」


 どうやら、さっきの言葉は断る前提だと思われてしまっていたようだ。

 この種を助けに来たのにここで放置する馬鹿は居ない。

 だから俺は快く引き受けることにした。


「ふむ。では討伐証明をどのように行うつもりなのだ?」

「誰か一人付けてください。

 探知魔法も持ってるんで場所が合ってれば殲滅できますから、ゴブリンキングの討伐を実際に見て貰えばいいでしょう?」

「なるほど。それならば問題ない。

 我らの討伐時に撃ち漏らしを発見したらまた来て貰えると思っても良いか?」


 勿論構わない、と応えて話は終わったと思われたのだが……


「では、報酬に何を望む」と終わった後の話が出てきた。


 まあ報酬を先に決めるのは当然か。

 でもそう言われても望みは無いんだよな。大抵は自分で出来ちゃうから。


 あ! 一つあったわ。


「ワール国での身分を貰えませんか。

 奴隷って思われなければそれでいいので」


 結局アトルでも何もなかったのだが、身分はあった方が何かと楽だ。

 そう言えば彼の視線が俺の頭へと向き、なるほどと頷いた。


「尉官程度であれば構わぬぞ。

 少尉……いや、中尉の方がよいな。

 それであれば市井で格下になる事は早々あるまい」


「どうだ?」と問われ「お願いします」と返し、商談成立となった。


「おい、ワールの助けならばわらわも行くぞ!

 ローガン、久々の群れ討伐だ。気合入れよ!」

「お前、何を言って……

 いや良いかもな。うん。この際だから村人全員で行こうか」


「「「はぁ?」」」


 いやいや、勿体無いだろ。

 折角ダンジョンには居ない雑魚をたんまり倒せるんだぞ。

 そのワンクッション入れるだけでダンジョンでの育成がノアたちでも出来るようになるんだから。


 軍属であるローガンさんや若僧たちは一考の余地ありと言った面持ちで考えている。

 これは俺が正しいという証明でもあるだろう。と駄目な子を見る目を向けてきたリリィにドヤ顔で返した。


「ワール王、構いませんか?」

「構わぬぞ。こちらも当然それをやるが、数が数だ。

 魔物を減らして貰えるのは助かるからな」


 あ、やっぱりやるんだ?

「ほらぁ!」とリリィに向かって言えば顔を寄せ「ふーん、挑戦的なのね? これが終わったらお話しましょ」と彼女は余裕の笑みを浮かべ小声で言う。

 な、何をする気なの……?

 俺がリリィの言葉にそわそわしている間に、別の場所で話が始まっていた。


「しかしアマネ殿、何故うちを頼らなかった。

 今、世界がどうなっているかご存知なのか?」

「彼が居て、深い友好を結んでいる貴方だから会えたけど、今は誰が敵になるかわからないのだから簡単に頼るなんて出来ないわ。

 皆自国の将来をしょって居るのだから。

 私たちを庇えば自国が危険でしょうしね。

 それに、そうして色々な所に頼って取り返しても先はないでしょう?」

「確かに苦しいだろうが、このままあの蛮行を放置するよりはよっぽどいいだろう。

 流石にこのままそっぽ向いたままは無責任ではないのか?」


 彼女は「まあ……そうとも言えるのだけど」と応えながらもこちらに視線を向けた。


「貴方がうちに付いてくれればすべて解決なのよね……」

「いや、俺は獣人ですらないっての。

 ただでさえお前ら獣人族を救う為に来てやってんだぞ?」


 アマネさんとの話しに「獣人ではない、だと?」とワール王が反応した。

「ほら」と彼にも人族の耳を見せたりして事のあらましを説明する。


「ああ、神の証明は出来ないんで無理に信じる必要はないですよ。

 本気でそう主張しているということを知って貰えればそれで構いません」


 うん。神うんぬんをいきなり信じるのは難しいってわかったし。

 俺の主張はこうだから他の事はやりませんと言い張るだけだ。


「だが……事実であれば到底看過できぬ話なのだが」

「それはそうでしょうけど、こっちのダンジョンでも八十階層とか到達して漸く戦えるって程度らしいですよ?」


 初めて護衛が口を開き「そんな馬鹿な」と鼻で笑った。


 その時、再び黄金の光が俺の体から漏れ出した。


 マジか、このタイミングで出て来るとは思わなかった。

 まあ、話が早くて助かるけど。


『任せて!』と心の中で声が聞こえた。


「久しく声の届かぬ地に居た我が子らよ、聞きなさい。

 これより数年の時を経て、ケルベロスが襲来し未曾有の危機に晒されるでしょう。

 これはこの地の百階層のボスに匹敵します。

 この世界の救世を任せた彼の時間を余り奪い過ぎてはなりませんよ」


 ディーナはそう告げると直ぐに帰って行った。

 帰り際にお礼を言えば『要所でまた来てあげるからね』と楽しそうな声色での返事が返ってきた。


 それは良いのだが、この状況どうしよう。

 半数が泣いていて残りの半数は放心状態だ。


「なんか気が向いたらしく来てくれたみたい。

 まあそういう事情だから滅亡するって状態なら手を貸すけどそれ以外は出来るだけ自分たちで頼むね」


 今まで信じて居なかったであろうアマネさんに向けて言えばコクコクと頷いた。


「ま、待って欲しい!

 いや、お待ち頂きたい。大変な失礼をしたこと深くお詫び申し上げる」


 涙を流していたワール王が突如そんなことを言い出した。


「いや、失礼なんてなかったですよ。

 救いに来たんだからこれを無視するほど馬鹿な話もありませんし」

「ご温情、痛み入ります。

 ではせめて他国でも身分が通じるよう、官位を大佐まで引き上げさせて下さい。

 さすれば、周辺国でも侮られる事は先ず無くなりましょう」


 彼は大将でも構わないが外見の年齢と合わな過ぎると疑われるからと言う。


「この年だと大佐でも大差ないと思うんだけど……」

「ハ、ハハハ、流石神の御使い殿。お上手だ!」


 その瞬間、周囲から気を使った笑い声が響いた。


 上手って何が……

 ―――っ!?

 馬鹿! 駄洒落で言ったんじゃねぇよ!?

 止めてよ、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきたじゃねぇか!!


 というか、何故かリリィさんたちが顔を上げずにスンスンと鼻を鳴らしている。

 どうしたのかと問えば「私たち地獄行き?」と言い恐怖に顔を歪めた。


 こんな場で襲われた事を暴露する訳にもいかず「そんなはずないだろ。それは後で話そう」と返し、討伐の日程を詰めた。


 こちらの準備は殆ど要らないので、明日には出発してワール国を目指すことになった。

 アトルの隣国で少し距離はあるものの、それでも丸一日掛ければ着く距離にある。


 だが、何も無しに出れる訳でもないので必要な準備を始めた。


 先ずは村人全員を招集して、希望者を募る。

 男女年齢問わずでだ。


 すると四百人中、八十人程度が立候補した。

 正直少なすぎるが、強制で戦わせる訳にもいかないのでそれでよしとした。


 残る人が居るのであれば村も完全に放置するわけにも行かない。


 兵士を十人ほど置いていく事に決まり、討伐に向かうのは兵士二十、村人八十、俺たちが二十の合計百二十名だ。


 ペネロペとオーロラは残るらしいがその他は全員参加である。

 ノアたちの戦果を見て、自分たちもと腰を上げた様だ。

 何やら『男が貢いでくれない女は自分で稼ぐしかないの』と、世知辛いことを言っていた。


 折角皆で集まったのだから今日はお休みにしようか、と蛇肉やミノの肉を大量に出して皆で焼肉パーティーを始める。


 焼肉など割と頻繁に食べては居るが、外で炭火焼きで食べるとなれば格別だ。

 直ぐに大人も子供も騒がしくなり、男勢が『酒をもってこーい』と騒いでいる。

 女勢もテキパキと火を熾す準備を始めた。


 皆が楽しそうにしているので俺も興が乗り「今日は特別だ。ボスミノの肉を味見させてやろう!」と地味に溜め込んでいた三十階層ボスの肉を皆にステーキ一枚分行き渡るくらい出してやった。


 その肉にはアマネさんやワール王すらも驚愕し凄く喜んでくれていた。

 そんな羽目を外した一日が終わり、出発の朝がやってきた。


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