第28話


「カイト様、差し支えなければ私らにもお聞かせ願えませんか?」


 と問い掛けたのはアイザックさん。とうとう彼も様と付ける様に……

 俺、ただの平民なんだけどなぁ。


「あ、ああ。当然全部話すよ。ただ、アーロンさんもだけど広めないよう注意して。

 今の現状で戦争なんて話が出たら、大きな混乱を招くだろ? 伝える以上のマイナスになる気がする」


 戦争という言葉に行かなかった者達の、アイザック、リック、ソーヤ、ソフィ、アーリヤが『えっ』と動きを止めた。


「まあ、こっちは遠いから戦火は早々こねぇだろうが、だからこそ伝えるべきじゃねぇわな。上は知ってるんだし」


 レナードは確かに無駄な混乱だと言って同意してくれた。それにアーロンさんが一つ頷き補足する。


「東部森林からの魔物をどうにかしなければならないのは変わりませんからな。

 だが、悪い事ばかりでもありますまい。領主があの様子であれば、今度からは物的支援も情報もすべてが充実した中での戦いとなるでしょう」


 契約で縛られていたとはいえ、未だに許す事は出来ませんがなと彼は目を据わらせたが、一応矛は収める様だ。


「だが主よ。これで我等も選ばねばならなくなったぞ。気がついておるか?」


 え? 全然わかんないんだけど?

 視線を彷徨わせればおっさんの一人が答えてくれた。


「この街で魔物と戦うか、街を移り兵士として徴兵されるか、ですね?」

「あっ! マジか……

 まだ騎士でもないけどこの力を知られてるんだし逃げられないのか。

 七階層までしか行けないのに戦場になんて出たら即死するんだけど……」

「「「えっ?」」」


 そろって大きく同じ方向へと首をかしげたイケメンおっさん四人組。こいつらは芸人をめざしているのだろうか?

 冗談みたいな振る舞いだが、彼らの疑問は本物の様子。一応間違いないと伝える。


 俺はまだ騎士じゃないよ、と。


 皆には言ってあったけど、おっさん達は流石に知らんか。


「多分、無理じゃな。主の性格を見るに、王都の親友と言っておったものや、王国騎士団、そして我等も死地と言える場所に赴く時、一人留守番をして居られるか?

 できるなら、それがわしにとっては一番良い事じゃが」


 あっ……そっか。そうなるのか。あれ? じゃあ俺逃げられないじゃん。

 流石にここまで仲良くなった仲間が全員命がけで戦う中一人逃げるなんて流石に無理だよ。


「……ホセさん、助かったよ。俺、今気がついた。

 ちょっとガチでダンジョン籠もるわ。これは無理しなきゃ拙い」


 今日の対人戦の速さを見るにどう考えても付いていける気がしないし、固定砲台やるにしてもあの速さに合わせることができない。


 どう考えてもレベルが足り無すぎる。


 流石に戦争で活躍できるほどにはなれないだろうけど、魔物なら対策を練れば多分少しくらいは役に立てるだろう。

 ああ、俺には回復があるから、そっちで今日みたいにしているのもありだな。

 けど、どちらにしたって俺に護衛付けさせてるようじゃダメだ。前に出る皆の危険が増える。


「ちょっと待て主よ。ダンジョンには毎日永遠とこもっとるではないか……これ以上何が出来ると言うのじゃ……?」

「何言ってんの、まだ重要なのがあるでしょ。

 俺、無駄に低層でやってるじゃんか。それを取っ払うよ。

 勿論、命の危険がなさそうな範囲でだけど」


 今までは適当にやっても一撃確殺! なんて場所でやってたけど、索敵時間考えると苦戦しない程度には引き上げたほうが効率が良さそうだし。

 集めまくって範囲攻撃でやれるならまた話しは変わって来るんだろうけど。


「アリーヤさんを入れる代わりに護衛を外すから皆も加護を増やそうぜ。

 少しでも生存確率上げていこう」


 てことで早速行こうぜと、ソーヤとソフィちゃん、アリーヤさんを誘う。


「えっ、こんな大事件の直後にダンジョンですか?」

「いや、他の皆と『おっさんの集い』はゆっくりしてなよ。俺は楽しいから行くだけだし」


 このパーティーの面子は領主の館に行かなかったしな。


 アーロンさんからの問いかけだったので彼らも入れて言ってみたのだが「おっさんの集まりだなどと言われてしまったら、休んでいられませんな」と立ち上がった。


 いやいやギルド名言っただけだろ!?

 いや、一々反応するのは止めよう。きっとこれはこいつらのネタなのだ。


 そして家を出る時、皆に無理をしてはいけないと念を押された。

 一階一階確かめながら降りると伝えれば、皆すぐに納得して送り出してくれたが。


「さて、皆さんにお話があります」


 パーティーメンバーに向き直り、俺はいい笑顔を作った。

 アリーヤさんを筆頭にさっと気をつけして向き直る三人。


「知っての通り、俺たちは弱いです。異論は無いですね?」


 全員が素直にコクコクと頷く。

 完全に異論が無さそうで良かった。

 先ずはそこを認めてもらって弱いままだとどうなるのかを強く認識して貰わないと拙いからな。


「宜しい。では死ぬくらいなら苦労しても先に強くなっておきたい。当然ですね?」


 ハイと当然の様に頷いた。


「では、今から俺らこれからダンジョンで暮らします。わかりましたか?」


「「「えっ?」」」と疑問に首を傾げる彼女らに俺は笑みを崩さず告げる。


「心配するな。睡眠時間以外はダンジョンで過ごす。ただそれだけだ!」


 そして不安そうにする彼、彼女らを連れて保存食を買い込み、駆け足で七階層まで降りて行く。


「ここからは歩くから。ちょっと早歩きだけど、この速度に慣れてね?」


 何を言っても一切反論をしない。若干不安を覚えるが、今はありがたいと初の階層に集中する。


「アリーヤさん、ここの魔物の特徴教えて」

「はい。ここにはゴブリンという人型の魔物が出ます。これと言った特徴はありませんが、他の階層に比べ、割と数が多く索敵能力が重要視される階層です。

 ただ、この人数ですし私も居ますからどれだけ来ても問題ありせんが」


 おおおお! ゴブリンキター!

 ほほほ、エロ同人誌の二大人気モンスターの一角がきちゃったよこれ。

 ちょっと女の子を襲う性質があるのかとか気になるけど、今そこを聞く空気じゃないしな。後でこそこそとレナードにでも聞くかな。


「了解了解。じゃあ、ここからスキルの習得訓練を始めようか。アリーヤさん、便利なスキルもってない?」


 ついでだからスキルの習得も平行してやりたい。てかそのくらいじゃないと絶対に時間が足りない。

 てかそれをしても足りないだろうけど、やれる事はやらんとな。


「えっ? 一応、使い勝手がいいと言われるものもありますが……実戦で練習するんですか?」

「勿論。ただ、ソフィとソーヤも魔力の減りには気を配れよ。流石にいきなり倒れられたらアリーヤさんも庇えないだろうしな。

 いくら回復出来るとはいえ、仲間が怪我するのはみたくないし」


 なんて打ち合わせをしながら歩いていれば早速出てきた。

 外見は想像通り、体は緑色で調子に乗った感じの気持ち悪い顔をしている。


「ハイ先生、では、お願いします」

「は、はい! では、ホセさんの得意とするこれから……『一閃』」


 アリーヤさんはタンッと小気味良い音を立てて地を蹴り、すっと地を滑る様な踏み込みで離れたゴブリンを追い越した。

 両手を開き、剣を片手で横に凪いだポーズで彼女は止まった。

 そして剣を納める。


「この様に、最後に硬直があります。

 着地地点に敵が居ない事を確認してから使用なさってください」

「いやいやいや、その前にどうやってあんなに飛ぶの! 練習できないじゃん!」


 そんなに飛べないから! とピョンピョン飛び跳ねて講義すれば、彼女はクスリと笑い答えてくれた。

 おおう。やさしげな美人お姉さんの微笑み。

 何という癒しちから。体から焦りが抜けていく……


「飛距離は関係ありません。

 ただ大きく踏み込み、流れながら剣を横に振るうだけですよ」


 あ、よく考えてみれば飛燕の時もそうだったな。

 ステラちゃんは大きく跳んで踏み込んで居たけど、エレナ先生は軽く一歩踏み込むだけだったわ。

 けど、一閃の方は足も光ってるからこっちは踏み込みもスキルに入ってるっぽいけど。


「踏み込みは出来てても剣を振るう時の動作がおかしかった場合、スキルの発動はどうなるの?」

「動作が乱れたところで魔力によるサポートが無くなるだけですから、心配はいりません。魔力は変わらず消費しますが……」


 おっ、じゃあ、これ移動スキルとしてでも使えるんじゃん?

 いいねいいねと俺は一人練習する。

 ……なんで二人は練習してないの? え? 出来ないの俺だけ?

 あー、俺が安全マージン取りすぎて必要なかったのか。必要が無い時まで使えるほど魔力が多い世界じゃないしなぁ。

 てか一撃確殺なのに無駄にスキル使うのはステラくらいか。


「じゃあ、二人は通常攻撃でいいよ。当然必要ならスキルも使っちゃっていいから」


 そうして開始されたゴブリン討伐。

 初めての敵だしと少し緊張しながら戦ってみたが、正直肩透かし過ぎた。


 動きは普通の子供が小走りした程度と段々早くなってきてはいるのだが、武器も持ってないし防具も無いから切り付ければ防ぐ手段がない。

 仮に取り付かれても、噛み付くくらいで致命傷を喰らう事はないみたいだし。


 ただ、あまり馬鹿にもできないそうだ。ソロでやっていると一気に増えた敵の数に対応しきれず、怪我をする者も出てくるそうだ。

 一応、一階層のアリを越えたら次に躓く可能性があると言われる階層らしい。


 四匹以上に取り付かれると俺たちレベルじゃ早々引き離せず、下手をすると生きながら食われるという最悪の殺され方をするとアリーヤさんがめっちゃ怖い事を言って居た。


 そうして始まったゴブリンの討伐なのだが、一撃なのも変わらず背丈が高くなったおかげで切り易く、逆に楽になった印象さえ覚えた。

 アリーヤさんに「全然余裕なんだけど」と首を傾げつつ問いかけた。


「それはそうでしょうね。

 三つのダンジョンを六階層まで制覇するなんて事誰もやりませんから。

 普通は制覇すらしません。やれると思えば稼ぎを上げる為に降りるのが普通なんです」


 あそっか。生活が掛かってるし、それでなくても早く金を稼ぎたいと思うのが普通か。こっちの人はレベリングしないでガンガンストーリーを進めても後で詰まるだけだって知らないもんな。

 まあ、RPGの場合は大抵先に先にって行って詰まったところでレベリングの方が速いけど。装備とかの恩恵もあるし。

 MMOの場合は適正で如何に効率よくやるかが重要になってくるんだよな。

 俺の場合無双するのが好きだからこんなプレイスタイルになっちゃってるけど。


 おっと、それよりも今は狩りだな。


 気持ちを改め歩を進めて三人でゴブリンを発見し次第即殺していく。


 ゴブリン討伐は何の問題もなく安心したけど、スキル習得に苦戦させられそうだ。

 エレナ先生の時も体を動かしてもらって覚えたんだもんな。

 それをアリーヤさんに出来ないかと問いかけて、一度やってもらったのだが、どうやら難しいらしい。


 なので自力で頑張ろうと練習を繰り返す。


 時折魔力を使って発動の程を確かめるのだが、上手くいった時でも移動の途中で途切れてしまう。ネックなのは勢いのままに滑りながら切りつける所だ。

 立ったまま滑りつづけるというだけでもどうにも難しい。


 なんでも切るときに丁度横向きになる様に飛び込んで流れに逆らわず剣を横に振るだけだという。


 何度も何度もゴブリンを変なポーズで切りながらも練習するが、失敗を繰り返してとうとう魔力が厳しくなった。

 今日は練習だけにしようとひたすらピョンと飛び込み剣を横に振るうが、一向に上手くいかない自分の不器用さに苛立ちを感じた。

 こんな事で躓いていたら、何時まで経っても自立して戦う事が出来ない。


 これじゃ皆に『一緒に戦おう』と言うことすらできないじゃん……


 もう一回、もう一回と早足で敵を探し練習を続けて居たのだが、ソーヤのお腹の音を聴いて足を止めた。


 彼は大丈夫と言って居たが、今日は終わりにしようとダンジョンの外に出る。

 もっと練習したかったが出て来たのが遅かったから仕方が無い。と言っても七、八時間はやった様で、もう夜中になっていた。


 それでも体力に余裕を感じるのだから加護の恩恵は凄いな。うん。大丈夫。ちゃんと前に進んでる。

 そうして心を落ち着け帰路に着く。


 明日は朝市から行くからねと告げて、出来合いの食事を買って家に帰った。

 家に着けば皆も同じようなものを食べている。いつもの時間よりかなり遅い。アリーヤさんがいつも作ってくれていたから気がつくのに遅れたんだろうな。


「ごめんごめん。これからは食事は各自で。ああ、そうだ。アイザックさん、皆にお給料として金貨一枚ずつ渡しておいてくれる?」

「えっ? まだ二週間も経っていませんが?」

「いや正直さ、不定期になる可能性すらあるから持ってる内に渡しておきたいんだ。

 ああ、でもダンジョンで稼げないアイザックさんとリックの分はちゃんと考えるからね」


 そう告げれば先払いとして渡しておきますと了承してくれた。

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