第2話

 あれから二つの町を素通りして、三つ目の町。

 町を二つ越えた先にあると言って居たのでとうとう目的の町に着いたはずだ。

 町を覆う外壁も素通りした町と比べて立派なものとなっている。


 ここがこの国アイネアースの首都か。

 

 道中、全く私語を話さなかった彼らだが、思い切って問い掛けてみれば全ての質問に快く応えてくれた。

 逆に気が紛れていいから出来るだけ話しを続けてくれ、と会話をしたがっていたので遠慮なく問い掛けさせてもらった。


 野営を三回挟むほどに長い旅だったため、もう聞きたいことは取り合えず全部聞けたと思えるほど情報をもらえた。


 やはり、この世界はレベルというものが存在している。

 だが、数値化されているものではなく神の加護を得たと表現されていた。

 魔物を倒す事が神への貢献とされ、お力を貸し与えて下さると考えられている。

 そうして加護を強めていけば、魔法を使える回数が増え肉体の強度も上がり、上位の魔物とも渡り合えるようになるそうだ。


 この世界では、基本的に必要なスキルや魔法の扱いを覚えたら後は強くなる為に魔物を倒すものとされている。

 その事からやはり、戦闘技術よりもレベルがものをいう世界なのだと推察できた。


 魔法を覚える方法は魔力を放出する方法を知り、古代語を習得し詠唱をすれば誰でも行使が可能。

 スキルもスキル名と動きを知り、魔力を扱えれば習得が可能。

 だがどちらも威力の程は加護――――レベルとは別に大きな個人差がある。

 彼らは神の定めた個人における資質だと言って居た。


 それとは別にギフトアビリティなるスキルも存在する。


 先天性のスキルで後から覚えるのは不可能なのだそうだが、直接的な攻撃スキルは少なく大半が鑑定系や製作系などのサポートスキルなので、強くなる事に重きを置くのであれば気にする必要はないらしい。


 強くなる為の方法を永遠と尋ねていたからか「兵士になって頻繁に魔物と戦っていれば、嫌でも強くなっていくぞ。お前も王国騎士団に入ったらどうだ?」と軽く入隊を勧められたりしたが、そう問いかけた兵士は副長にかなり怒られていた。


『この現状で、自分が不幸にあったにも拘らず助けてくれたものを勧誘するとは何事か』と。


 今の俺は彼らの鎧を両手でも持ち上げられない身。全力でお断りしたい所なので有難かった。


 とはいえ、強くなりたいのなら騎士というものにはならなければならない様だ。

 この世界では、町を出て戦うものは基本的に騎士になる事が必須な様で、ラノベでいう冒険者という存在もここでは騎士と一纏めにされている。

 だが、絶対にという訳でもなく稀に自ら戦う商人なども居るそうだ。


 どうやら国に所属しなくても騎士には成れるらしい。

 ただ未所属は野良騎士と呼ばれ下の扱いをされるそうだが。


 何処で騎士に任命して貰うのだろうかと問い掛けたら「そんなものアプロディーナ教会でに決まっているだろうが……」と不思議そうに返された。

 神から加護を貰うという考え方も此処から来ているんだろうな。


 騎士に成らなければ戦えないという訳ではなく、未所属が騎士として登録するのは主にお金を稼ぐという理由がメインとなる。

 その事から騎士になるというのは形式上のものでレベルやスキル習得には関係無い事がわかった。


 ゲームで例えるなら職業は生を受ける時にランダムに決まり変更は出来ない。

 その職業によって資質が異なり、稀にアビリティギフトがついてくる。

 ただ職種によって覚えられる魔法やスキルの縛りは無いと言った所だろうか?

 

 次にこの国の事を聞いた。


 アイネアース王国というこの国は小国ながらも立地に恵まれ、民の暮らしやすい安定した国なのだそうだ。


 法律も大凡想像通りのものだ。人を傷つける行為や拘束、金銭的な損失を与える行為、後は女性に対するあれこれ。当然の事はしっかりと禁止されていた。

 全てを聞いた訳では無いが、日本の法律を緩くして新たに王族や貴族に対する不敬罪など、決闘システムが追加されている感じだった。


 税収も消費者側であれば何の心配もいらないそうだ。


 全ては工房や商会から徴収していて既に物価に乗せてあり、個別に徴収するのは通行税くらいなもの。

 それも今回は支払って貰えるようだし、騎士になれば通行税は免除となる。

 騎士にならずとも、今回の事で通行税なんて当面は気にする必要ないくらいには支払うと言ってくれた。


 だが、良い事ばかりでもない。

 立地の良さとは、生息する魔物の種類に恵まれていてドロップ品で稼げるという意味で、その分魔物が強く今回はそれが仇になった。


 次に周辺の国についても問い掛けた。


 隣接している国はティターン皇国という大国の一つだけ。

 一応、友好国としての関係を保っているのだそうだ。

 一応と付けたのだから手放しに安心できる関係ではなさそうだが、彼らの表情を見るに、聞くに聞けない空気だったのでそこは流した。


 次に聞いたのは自分のこれからについてだ。

 だが好きにしていいと返されてしまい、どう質問したものかと少し悩まされた。


 何も知らないのだからどうしていいかなんてわからない。

 なので、今の自分が如何に弱いかを証明しつつ、スキルや魔法は何処で覚えられるのか、魔物との実戦の前の戦う術はどこで磨くのかと問い掛けた。


『基本的には士官学校で学ぶ。

 もしくは家庭教師を雇う事で騎士となる事前準備を行う者も居る。

 金銭面の理由で士官学校への入学を逃した者は家庭教師など雇えぬだろうし、良心的なギルドに見習いで入れぬ限り難しいな』 


 ギルドとは野良騎士の集まりで傭兵団の様なものらしい。

 基本的には慣れ親しんだ者達での個別行動だが、個人で受けるのが難しい依頼や、国からの要請も受ける事が出来る様になるメリットがある。


 その形態は様々で、力無い者を受け入れ育ててくれるギルドもあるそうだ。


 逆に言えば、犯罪者一歩手前の者達も確かに存在する。

 誘われても事前に調査するか我等に一報入れてからにしろと念を押された。


 そこで此方の事を問い掛けられ、どこまで話すか迷いながらも出来るだけ正直に話した。


 国名や民主主義国家な事。島国で隣接した国は無い事。知っている外国名など。

 年齢や名前もその時初めて告げ、彼らの名前も教えて貰った。

 異世界から来たと明確に告げるのが何となく怖くて魔物が居ないことや魔法がない話は避けたが、それ以外は聞かれた事に正直に答えた。


 当然、日本という国は知らない言われた。

 魔法があり、魔物が居るような世界なのだ。同じ世界のはずが無い。


 もしも召還された勇者とかが居たとしたら存在が知られている可能性も微レ存(微粒子レベルで存在しているの略)だったが、その心配は要らないみたいだ。

 お互いに知らない国名なので少なくとも遠い事は間違いないだろうという話しで落ち着く。

 訝しげな表情をされる事もなかったし、この世界はまだ未開の地が多いのだろう。


 その話の流れで自力で移動できる力が得られるまではこの国でやっていくつもりだと意思表示すれば、それ以上は細かく聞かれる事はなかった。


 呆気なさに少し不安になり「結果的に他国に無許可で入っちゃった訳だし、これから国の機関に拘束されて色々聞かれるんでしょうか」と問い掛けたが『我等騎士がその機関な訳だが?』と笑いながら返された。

 二の句が告げられなくなり思わず『あふっ』っと声が漏れると、其処からさならる笑いが起こった。


 それが出会って三日目、彼らの初めてのまともな笑い声だった。


 夜な夜な嗚咽を洩らす声が木霊していたので、彼らの笑う声を聴いて思いの他嬉しくなった。

 しかし、それさえなかったら気がつかない程に普通にしている。

 メンタル強いな……


 そんなこんなでそれはもう物価や平民のお給料まで色々な話を聞かせて貰った三泊四日の旅は彼らの兵舎にたどり着く事で終わりを告げた。


 学校の校舎ほどに大きく三階建てで立派な佇まいだ。

 すぐ向かいには壁が聳え立っている。恐らく、あの先にお城があるのだろう。


 中に入ってみれば、綺麗で広いロビーにガラステーブルやソファーが並んでいて、まるでホテルの様なつくりになっていた。

 その先には受け付けがあり、受付穣がならんでいる。 


 その様を不思議がっていれば副長と呼ばれる彼、王国騎士団副団長のルンベルトさんが答えてくれた。


「ここには野良騎士では難しいとされた依頼が舞い込んでくるのだ。

 それ程に大きな依頼を持ってくるのは上位貴族の方や大手商会の者となる。

 それに見合う佇まいも必要とされるのだ。

 まあ、そのお陰で兵の宿舎もグレードが高いものとなっているがな」


 的確に疑問に答えると「そんなことよりも」と真剣な表情で見つめられた。


「此度の一件は間違いなく箝口令が敷かれる。犠牲者の数を考えれば隠せるものでもないが、公になるまではカイトの口から知ったとの声が上がらんように頼むな。

 身分の及ばぬ所で問い掛けられたのであれば、王国騎士団に問い合わせてほしいと告げればいい」


 勿論すぐさまその言葉に了承の意を示した。

 逆に都合が良いんじゃないかな?

 俺のこと聞かれたら口止めされている事に触れるから取り合えず騎士団に聞いてと言えばいい訳だし。

 何という立派な後ろ盾。最強だろ。


 それから宿舎の一室を貸し与えられ、あの草、月の雫の代金として金貨五枚も貰ってしまった。

 これは平民の大人の五か月分のお給料に匹敵する額だ。

 部屋も、生活が安定するまでは使っていてくれて構わないと言われたので、何もしなくても半年以上は生活できそうなくらいの待遇をもらえた。


 ルンベルトさんはこれから王宮の方へ缶詰になるようで、此処からは別行動になるそうだ。


「とはいえ知らぬ国の知らぬ町で一人では不安も多かろう。

 孫に案内をさせるから此処で待っているといい」

「何から何まですみません。非常に助かります」


「構わんさ。ではな」と言って彼は颯爽と宿舎を出ていく。


 よっしゃぁぁ! 孫娘きたぁぁ!

 これ絶対美女なパターンだよね?

 ルンベルトさんもめっちゃ良い人だし……ワンチャンあるかな?


 さて、どんな子が来るのかなと、ワクワクしながら入り口を眺めて待つが中々入ってこない。

 まあ、時間は一杯あるさ。明日までだって待つよ。

 そうしてジッと入り口を眺め続けた。


 ロビーのソファーに腰を掛け、待つこと数十分。

 数人の出入りはあったが彼の孫と言えるほどに若い女性は見当たらない。

 女性の準備は長いと聞くからな。そんな事を考えて居れば、隣に歳の近い男の子が腰をかけた。

 テーブルとソファーのセットは他に五つほどあるのに何故此処に座る、と首を傾げ視線を向けた。


「やぁ、キミお爺様を救ってくれたんだってね。

 私からも礼を言わせて欲しい。ありがとう」


 あー、うん。そういえば孫娘とは言ってなかったね。

 俺はどうして女の子だと思ったのだろうか……

 うん。町に着いて行きかう女の人たちが皆美人で期待しちゃってたんだから仕方ないね。

 てかそれにしても男も美形ばかりだな……

 おっと待たせ過ぎた。なんか不安そうだ。


「いや、うん。俺も助けてもらったようなものなんだけどね。

 まあでもお礼は受け取っておくよ。俺はカイト、今日は案内よろしく」

「そうなのか。それでもお爺様に命を救われたと言わせるなんて凄いよ。

 私はアレクサンダー・ベレス。アレクと呼んで欲しい。

 一応王都育ちだからどこにでも案内してあげられるから任せてくれ」

 

 普通に一般的なお店と士官学校の場所を教えてもらえればそれでいいんだけどな。

 と軽く返して彼と共に移動を始める。


「へぇ、カイトも入学するんだね。私も士官学校に通っているんだ。

 と言ってもまだ入学したばかりの一年生だけど」

「おぉ! あぁ、でもどうなるんだろう。来年からってことになるんかな?」

「いや、まだ間に合うはずだよ。

 他領の者はまだ到着していない子も居るくらいだし」

 

 えっ、そういうものなの?

 前もって申請してないと学校側の準備とかもあるんじゃ……と首を傾げた。

 彼も「確かに、絶対に大丈夫とは言えないな」と顎に手をあてて思考する。


「それじゃあ行ってみようか。先生に直接聞いてみればいいよ。

 士官学校はすぐそこだからね」


 と彼が指を刺した所は本当に目と鼻の先だった。 

 校門には大きく王立士官学校と名が刻まれていて、校舎まで一直線に石畳が敷かれている。

 その道をアレクは勝手知ったるとスイスイ進み校舎へと入る。

 そのまま職員室まで進み、ノックをして戸を開けた。


「失礼します。私は一学年出席番号二番アレクサンダー・べレス。

 質問があり、入学希望者をつれて参りました」


 アレクは胸に手をあてて優雅にお辞儀をする。


 何それ、俺もやる? いや、止めて置こう。色々な所の差が歴然となるだけだ。

 しかしこいつ行動力あるなぁ。入学したてで時間外に職員室特攻とか。

 少し緊張しながらもアレクに関心した視線を向けていれば、教員であろう若く綺麗な女性が立ち上がった。


「わかりました。私が話を聞きましょう。

 べレス君、彼とともに此処に掛けてください」

「失礼致します」

「あっ、失礼します」


 あっ、兵舎のロビーにあったテーブルとソファーと同じものだ。

 そんな感想を抱きながらも腰を掛ける。


「それで、何が聞きたいのかしら?」


 向かいに座る彼女は落ち着いた大人の色香を見せつけながら首を傾げた。


 綺麗だなぁ……


 おっと見蕩れている場合じゃないな。

 流石にそろそろ俺から問い掛けるべきだろ。


「えっと、今から入学申請したら来年からになるのか、今年入学出来るのかを聞きたくて来ました」

「なるほど。ちょっと待ってね。

 そうねぇ……うん、大丈夫よ。まだ枠は結構空いているわ」


 名簿の様な物を開き、指で一度なぞると美しい笑みを向けて答える。


 やっば、めっちゃ綺麗だなこの人。

 担任になって欲しいわ……


「それだけ?」

「あ、入学金とか事前に必要な物とかも知りたいです」


 実は入学金の事はルンベルトさんに聞いていた。もう少しこの笑顔を見て居たかっただけだったりするのだが澄まし顔で彼女を見返す。


「一般枠なら金貨三枚よ。

 腕に自信があるなら奨学金制度の試験を受けてみるのを勧めるわ。

 あと必要な物はありませんが、追々実戦に出るようになれば自前の武器防具を使用する事もできます。

 無くても学校の備品を貸し出せるから心配しないでね」


 この若干砕けた優しい口調、最高です。


「カイト、キミはお爺様を救えるほど強いのだろう?

 それ程に力があるなら試験を受けたほうがいい」


 ちょ、おまっ……


「待て待て! ルンベルトさんを俺が武力で救える訳ないだろ!

 口止めされているから言えないけど、俺自身は驚くほどに弱いぞ!」


 あぶねぇ、そんな噂が流れて力試しにと襲われてみろ。多分俺、ガチで死ぬぞ?

 いや、待てよ……魔物の討伐がまだなら俺と同程度ってことも……


「よしアレク、腕相撲だ」


 俺はさり気なく先生の側のソファーに座りテーブルに肘をついた。


「え? なんだいそれは……」


 首を傾げるアレクにやり方を教えていざ力比べをしてみれば、肩が外れるかと思うほどに一瞬で負けた。


「なっ? 弱いだろ? あぁいってぇ……」

「あら面白そうね。はい、べレス君」


 と、先生が肘をついて白魚の様な手を差し出した。

 おい、ずるいぞアレク!

 なんて思って見ていれば、今度はアレクは一瞬で転がされた。

 俺と同じく涙目で肩を摩っている。


「こんなに綺麗で力も強いとか……もう反則だろ」

「あら、お上手です事」


 あっ、思わず声に出しちゃったけど、不興を買ってはいないようだ。

 肩を揉みながら「先生、大人げないですよ」なんて言いながらも彼も楽しそうにしている。

 そんな緩い流れのまま、入学金を支払い手続きを終えた。

 正式には来週からだが、もう既にスキルや魔法習得の講義は始まっているそうだ。


 それだと来てない生徒がそのスキル覚えられないんじゃないかと疑問に思い聞いてみた。


「大丈夫よ。

 一度では覚えられないから何度も何度も同じ授業をするの。

 だから結局は本人次第。

 講義の内容を覚えてくれない子は何時まで経っても習得出来ないから」


 そう言って困り顔で苦笑する。


 そしてとうとう話す内容も無くなり美人な先生とのおしゃべりも終わりを告げた。


 長々と時間を取ってくれた彼女にお礼を言って職員室を退室する。

 そして元々の予定だったお店巡りに出かけた。


「にしても綺麗な先生だったなぁ」

「えっ!? カイトはエレナ先生みたいな女性が好みなのかい?」


 アレクは若干引き攣った笑みをこちらに向けた。


「いやいや、あれはオールマイティーな美でしょ!

 あんなの誰だって見惚れるって!」


 自信を持って言えるくらいに綺麗だったのだが、アレクの好みではないらしい。

 不思議で仕方が無いが、好みは人それぞれだ。

 俺は否定しないよ。イケメンでもブス専ならば許せる気がするし。


「まあ、好みは人それぞれだし否定はしないけどさ……」


 ……逆に言われてしまった。これはこれで腹が立つがもうお店に着いた模様。

 一先ずこの話は置いておき、まるでアンティークショップの様な佇まいのお店に入店した。

 見渡せば店内には箱やら鉄板やら何の用途で用いられるか分からないものが並んでいる。首を傾げしげしげと観察するとなにやら書いてあるのを発見したが、俺には読めない文字だった。


「あれ? 共通語読めないの? さっき入学手続きで文字かいてたよね?」

「いや、さっき書いたのはこの言語じゃないだろ」


 そういえば、普通に日本語で書いてしまったな。

 いやいや、待て。書類の文字も日本語だったぞ!?

 その事をアレクに問い掛けた。


「何を言っているんだよ。あれは契約書だから古代語に決まっているだろう?」


 どういう事?

 よーわからんけどここで使われている文字が読めない事は確かだ。

 これはかなり痛いな。勉強して覚えないと流石に拙そうだけどヤル気がでない……


「まあ、会話は出来るんだからだから大丈夫さ。

 今日の所は私に聞いてくれていいし、冷やかしじゃなければ店の人も教えてくれるだろうしね」


 そしてアレクに説明をしていってもらえば、ここが家電を主に取り扱っている店だとわかった。

 電気で動く訳ではなく、魔力によって動く魔道具の仕様となっている。

 名称も当然家電ではなく生活魔具と呼ばれているそうだ。

 

 折角来たので、必要な物を買って帰ろうとコンロや冷蔵庫などを買おうとしたが何故かアレクに止められた。


「カイトは当面騎士団の宿舎で暮らす事になったって聞いているんだけど?」

「おう。それがどうした?」

「いや、コンロと冷蔵庫くらい全部屋に備え付けてあるから……

 そもそも宿舎は朝晩のご飯は出るよ?」


 えっ!? 何その超好待遇!

 あぁ、それにしても部屋に既にあったのか。

 形や作りそのものが違うんだからわかんないってば。


「じゃ、じゃあ……必要なのは服くらいか?」

「うん。後は余裕があるなら自前の武器は欲しい所かな。

 学校の備品は酷く鈍らで露天でジャンク品買ったほうがまだマシなレベルだから」


 けど、まともに振れないもの買ってもなぁ。そもそもこの世界の剣って太過ぎんだよ。

 装備を回収しに行った時、実物を見て唖然としたわ。


 あっ、そうだ。


「細い突剣とか売ってたりする?」

「ああ、当然あるよ。ただ、簡単に折れるから余りお勧めは出来ないけど……」

「そりゃお前らみたいな怪力が本気で振り回せばな? 俺の力じゃ折れないから」


 そんな会話を交わしつつ、剣と替えの服を購入して宿舎へと戻った。

 そしてすっかり打ち解けたアレクは「明日も迎えに来るから一緒に登校しようね。ちゃんと起きてるんだぞ?」とまるで幼馴染の女の子みたいな事を言って帰っていった。


 ……女の子だったら最高だったんだけどな。

 あれはどうみても実は女の子の線は無い顔だしな。


 男にしては低めの身長で細身だが、割りとムキムキな体をしていてナチュラルショートの金髪の髪をふわりと立たせた彼の後姿を見送り、俺は宿舎の自分の部屋へと戻って行った。


 暫くして声を掛けにきてくれた兵士のおじさんと異世界飯を堪能した。

 肉とパンとスープが出て、驚くほどに美味だった。ジャイアントトードの肉だと言っていたので蛙の肉かよと少し驚いたが、料理された見た目は鶏肉の様な見た目だったので特に気にせず食べられた。


 風呂もあるし、照明器具もある。パソコンやテレビが無い事を除けば日本と大差ない生活が送れそうだ。


 そうして落ち着いてみた所で、両親や姉の事が頭に浮かぶ。


 もう会えないのかな。


 関係は最悪と言っていいほどだったが、実際にこんな状況になってみれば少し寂しくも思う。

 その最悪だった理由も自分が原因だ。


 引き篭もり、人との関係を絶てば途端に周りの目が怖くなった。

 だから避ける事に徹した。

 そんな事をすれば当然心象は悪いだろう。両親も姉も顔を合わせればキレた。

 けど、それでも行きたくなかったんだ。あの学校には俺の居場所は無かった。

 ドキュン共のおもちゃにされるのは耐えられなかった。


「……ああ、考えるのやめよう」


 家族には悪いと思ったが、よく考えてみれば俺が望んで来たわけじゃない。

 突然居なくなった事を恨むなら、いきなり転移させた奴を恨んでくれと、ベットに横になり柔らかい寝具に身を預け眠りについた。

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